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将棋ブロガー大沢一公の真骨頂

 
 少し前に将棋ブロガー大沢一公のブログを採りあげたが、そのエントリーはぼくの記事と内容が重なっていたことが、転載するいちばんの動機だった。数あるエントリーで、「これはっ!」というものではない。一公ブログ中、及第点といった感じのものだった。
 
 彼のブログは将棋ブログで、タイトルも『将棋雑記』となっているが、実は将棋以外の内容で優れたものが多い。中でも、ひとつの事象や一人の人間をダイジェストふうに語る内容のものがおもしろい。このジャンルは彼の真骨頂と言ってもいい。
 前回、並の作品を載せて、彼の実力があんなものかと思われてもイヤなので、その真骨頂のジャンルのものを採りあげようと思う。前回転載した『藤井九段の逆転負け?』の前日にエントリーされた、『水島新司、逝去』。内容は、タイトルからも分かるとおり、亡くなった水島新司のダイジェスト。
 
 全文を転載する。

 1月10日、マンガ家の水島新司氏が逝去した。享年82歳(以下敬称略)。
1958年、マンガ家デビュー。少年時代は極貧生活を送ったこともあるからか、長屋などの描写にリアリティがあった。デッサン力に優れており、夏目漱石「坊っちゃん」をオールカラーでコミカライズしたが、初期の名作である。
 ほかにギャグマンガも描いたりしたが、水島新司が本当に描きたいのは野球マンガであった。
 
 1970年、週刊少年サンデーに「男どアホウ甲子園」を連載開始。だが、原作・脚本は佐々木守だった。
 1972年、週刊少年チャンピオンに「ドカベン」を連載。主人公の山田太郎は中学生だったが、クラブは柔道部だった。これは、水島新司が野球の描写をするのにまだ自信が持てなかったから、とされる。
 しかし山田太郎が野球部に転向し、明訓高校で野球部に入ったころから、岩鬼正美、里中智、殿馬一人などのキャラクターが輝きを増し、大人気となった。当時私たちは、みんなドカベンを読んでいた。
 
 水島マンガの画期的なところは、投手側から見た打者・捕手の光景を描いたことだった。当時プロ野球中継はネット裏から撮っており、私たちは審判や捕手の背中しか見えなかった。よって、投手の視点からの光景が斬新に見えたのである。
 そんな水島新司にとって高校野球の甲子園大会は格好の資料だったが、後年ビデオ録画することになった際は、準々決勝までとしていた。準決勝以降は選手の動きが鈍くなり、参考にならないから、というのがその理由だった。
 
 「巨人の星」に対抗してリアリティのある野球マンガを目指した水島新司。1973年、飲んべえのプロ野球選手を主人公に据えることを考えた。その際、南海ホークスの野村克也に相談した。
「飲んべえがプロ野球選手になったら、通用するでしょうか」
「代打専門ならイケルやろ」
 ここから、代打専門のプロ野球選手・景浦安武(ビッグコミックオリジナル「あぶさん」)が誕生した。
 また、女性プロ野球選手を描く際も、野村に相談した。
「女性がプロ野球投手をやったら、通用しますか」
「ワンポイントリリーフならイケルやろ」
 そこで、打者に1球だけ投球する女性プロ野球投手・水原勇気(週刊少年マガジン「野球狂の詩」)が誕生した。
 
 まったくこのころの水島新司は神懸かりで、「ドカベン」「あぶさん」「野球狂の詩」と並行して、週刊少年サンデーでは「一球さん」、マンガくんでは「球道くん」を連載。さらに「一球入魂」という野球専門月刊誌まで発刊した。
 
 言うまでもないが、連載は1本持つだけで目一杯、が業界の常識である。さらに水島新司は、趣味の草野球がある。まったくどういう時間配分だったのかと思うが、水島新司のマンガ制作は速く、1日に1本のマンガを描いていたという。
 
 1983年には週刊少年チャンピオンに「大甲子園」を発表。いままで各誌に連載したキャラクターが一堂に会し、高校3年夏の甲子園大会を繰り広げるというもので、水島ファンには堪えられない設定であった。
 
 1995年、西武ライオンズの清原和博から「オレも山田太郎といっしょにプレーがしたい」と懇願され、「ドカベン・プロ野球編」を連載開始した。
 2004年には「ドカベン・スーパースターズ編」を連載開始。ここでも水島キャラが集合し、熱闘を繰り広げることになる。このあたり、水島新司は自身の描きたいマンガを自由に描いているようにしか見えなかった。
 
 2020年、水島新司はマンガ家業の引退を表明する。通常マンガ家は自然にフェードアウトしていくものだが、水島新司はあえて宣言した。これも野球バカの水島新司らしかった。
 
 水島新司の前に水島新司なく、水島新司のあとに水島新司なし。リアルタイムで水島マンガを読めた私たちは、幸せだった。
 水島新司先生のご冥福をお祈りします。

 一般に知られていないエピソードも交えながらも流れに沿っていて、とても読みやすい。彼の真骨頂だ。もっとも、ぼくが水島新司を好きだったから、余計にそう感じるのかもしれない。
 
 ぼくが最も好きだったのは、『一球さん』。ドカベンとちがって、チーム内の雰囲気が極端に悪いマンガだ。
 前年優勝したチームで、エースが天狗になっている。そこに、身体能力の以上に図抜けた、野球を知らない主人公が入ってくるという話。
 エースに完全に抑えられた前年の相手は、その屈辱から力をつけて、もうそのエースを滅多打ちにできるようになっている。しかしエースは「お山の大将」で、それを認めない。主人公や準主人公たちよそ者が加入しなければ勝てなくなっているのに、エースを中心とした前年優勝者たちは受け入れない。
  
 最初から最後まで、チームは気持ちがバラバラ。反目は最後まで続く。準主人公たちは、そんなチームに嫌気がさして後半に出ていってしまった。監督への造反あり、チームメイト同士の殴り合いの喧嘩あり。
 とてもリアル。だからなのか、野球の描き方もドカベンより現実味があった。ドカベンでは、相手、特に投手の現実離れした超絶技巧でピンチを迎えるのに対し、一球さんのチームでは、「集団食中毒」や「相手を小ばかにした怠慢プレーから来る残塁の山」や、「クセや性格を読まれて逆用される」などが原因。
 
 子ども心に、ドカベンよりリアリティを感じた野球マンガだった。その分、地味。こちらはサンデー連載だった。
 一応アニメ化もされたが、ヘンな場面で終わってしまった。たしか、みんな仲よくランニングしているシーンだ。
 今回、水島新司が亡くなったという一連の報道でも、『一球さん』はあまり話に上がってこなかった。
 
 話は戻って、大沢一公のブログだ。彼は亡くなった野球選手も書いているが、とてもおもしろい。こういった内容のものがもっと増えればいいが、そう伝えるとひねくれ者の彼は書かなくなってしまいそうなので、何も言わない。で、じっとエントリーを待つ。

書き物が好きな人間なので、リアクションはどれも捻ったお礼文ですが、本心は素直にうれしいです。具体的に頂き物がある「サポート」だけは真面目に書こうと思いましたが、すみません、やはり捻ってあります。でも本心は、心から感謝しています。