セロ弾きのゴーシュ(1/4)
◇おとうと葉っぱでブックトークをやってみよう・3回目実践編
今回からブックトークの練習に入ります。目的は「面白さを伝える」または「聞き手にその本を読んでみたいと思ってもらう」ことです。
最初に準備です。3つのポイントを整理して考えます。次にいままでのように感想を話し合います。最後に自分が面白いと思ったポイントを軸にまとめて発表です。
作品は『セロ弾きのゴーシュ』を選びました。ゴーシュと一緒にベートーヴェンの音楽を解釈するところからスタートです。
◆準備1・ベートーヴェン交響曲第6番を聴いてみよう
父:まずは第1楽章。『田舎に着いたときの愉しい感情のめざめ』というタイトルがベートーヴェン自身によってつけられている。
葉:へええ。ベートーヴェンさんが自分でつけたの?
父:そうなんだ。この第6交響曲のタイトル『田園』もベートーヴェンが自分で名づけた。9つの交響曲のうちそんなタイトルがついているのは第6交響曲だけなんだ。
葉:朝の風景だね。小鳥がチチチって鳴いているような。
父:そうだね。うちの村の町営牧場を思い出すなあ。
葉:あそこは楽しいね。ひろーい草原にわたしたち家族とモーモーちゃんたちしかいないの。ゴールデンウィークなのに!
父:うん。浦安のネズミーランドの10倍の広さがあってね。あちらは8万人もいるのに。
葉:こっちは3人!ぜいたくー。太平洋の眺めもいいね。お船が遠くに浮かんでいるの。
父:あれは北海道に向かうフェリーだろうね。楽章は『小川のほとりの情景』『田舎の人たちの楽しい集い』と続く。これもよく見ている風景だね。
葉:すぐそこにヤマメが泳ぐ川があって、キレイなカワセミがいつも飛んでいるね。そんな風景がよく見える音楽だね。わかるわかる。
父:カワセミの鳴き声によく似たナイチンゲールをフルートが。ウズラをオーボエが。クラリネットがカッコウを表現しているよ。わかる?
葉:あ、わかるわかる。カッコウ。カッコウ。
父:おっと『雷雨と嵐』だ。ドンッ!と聴こえるのは何の楽器?
葉:ティンパニー。これは雷。ドンッ!パッ!と稲妻が光る。
父:そして最終楽章『嵐のあとの喜びと感謝の気持ち』
葉:フルートがキレイ。
父:最後はどんどん高くなっていくよ。
葉:ああ、ほんとうだ。ねえおとう?なんでカラヤンさんはずっと目をつぶっているの?
父:お、気づいたか。この人はほんとうにズルいんだ。
葉:ズルい?
父:ずっと目を閉じて指揮をするんだよ。でもね。ベートーヴェンの最後の交響曲はなんだっけ?
葉:喜びの歌。9番?
父:そうそう。あの大合唱がはじまるところ覚えている?ホルンが小さく3回同じフレーズを吹いたあと。
葉:わかる!いちばんビックリドキドキするところね。
父:そう。なんとカラヤンは長く9曲にわたったベートーヴェンの交響曲の最後の最後のあの瞬間に「クワッ!」と目を見開くんだ。
葉:おおお!
父:「もっと遠く、もっと奥へ」われわれをいざなう。
葉:うーん。ナルニアだねえ。。。
父:なんという演出。
葉:ステキな人ね。
父:それにしても不思議だねえ。ヨーロッパの田舎風景の音楽を聴いて、日本の田舎の風景とピッタンコだなんて。
葉:そうだね。田園っておんなじなのかな?
父:そういうのを普遍性と言うよ。田園はパストラルと言うんだ。これは英語でもドイツ語でもフランス語でもイタリア語でもおんなじ。だから第6交響曲を別名『パストラル』と呼べば世界中で通じる。
葉:へええ。田園風景は世界中の人が理解できるのね。
父:ベートーヴェンのメモには『田舎の生活の思い出』という副題が残されていたんだ。
葉:田舎が好きだったのかな?
父:好きだったみたいだよ。「森の中で自分は幸福だ。樹々は語る。おお神よ。なんと素晴らしい……。」なあんてメモも残っているくらい。
葉:まるで賢治さんだね。賢治さんもぜったいこの曲が好きで、いま私はベートーヴェンと同じ風景を見ているって、小岩井農場を歩きながら思ったのだろうね。
父:そうそう。そんな素晴らしい風景を、ベートーヴェンが与えてくれた感動を1人理解できない人がいる。
葉:誰?
父:さあ、誰だろう。それを次のテーマで考えていこう。
(2/4に続きます)
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