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ノベルジャム回顧録② 偶然の必然化と一之瀬楓さんのこと

【手短に言うと】 NovelJamのチームビルドは、どんな編成になり、どんな結果になろうと、希望が通っても叶わなくても「すべて必然だった」という大団円を必ず迎えるし今回の2018秋もそうだった、って話です。

前のnoteで、編集ふくださんに対するラブレターみたいなものを前のめりに書いてしまったので、このnoteではいよいよ仲間である「いちばん堂」の著者さんについても話そうと思う。とその前に、

チーム名を決める今回のやり方は素晴らしくナイスだった

ノベルジャムの進化ポイントとして「チーム戦」がある。第一回は著者2名編集1名、チームではあるがあくまでも「編集が2人の著者を担当する」視点だったと思う。続く第二回、デザイナーが加わる事でチームはユニットとして機能しはじめた。
白眉であったのはノベルジャムの現ディレクターである小野寺さん率いるチームが見せたミニ出版社としての活動で、いわゆる「セルパブ」の強化型ともいえる「インディペンデント・パブリッシング」の概念により、既存の出版流通とセルパブとの間を埋める可能性としてそれは提示された。

そして迎えた今回「2018秋」は、この傾向をさらに推める「チーム個性の鮮明化」の仕掛けが施されており、それが「チーム名」と「チームに対する表彰」だったのだと思う。運営の思惑通りこのギミックは効いたし、ぼくらも大いに乗っかったのだ。

Aチームは「作家二人を擁する独立出版社」と定義した

さて今回チームを同じくする著者は一之瀬楓さんと最堂四期さん。4人のチーム名を決める会議はやや難航したものの「出版社ぽくする」という総意は最初の方からあった。なんとか社、なんとか堂、みたいなのがいいよね、と。出てきたのは一之瀬さんの「いち」、最堂さんの「堂」そしてAチームであること、頂点を目指すことを含み、仮想出版社「いちばん堂」とした。

この「仮想出版社」という表情はもちろん後の販促フェーズでのプラットホームを想定しての事で、特に個性の異なる著者を同じ枠内で扱う事に関しては「チーム」より概念の大きな「出版社」と定義したほうがやりやすい。
それだけ異なる二人の著者だったわけで、前置きが長くなったけどさて、そろそろ本題である当の著者さんの話にいこう。

一之瀬さんは無敵フィジカルを持つ超人である

今回の参加者は事前にnoteでの自己紹介が推奨されていたがその温度にはムラがあった。率直に自分出す人もいれば控え目な人もいて、それはもちろん個性なのだが、事前のリサーチにおいては前者の印象が強くなる。ぼくが藤宮さんと森田さんに注目したのもそのためだが、一方で一之瀬楓さんは後者の方だった。それも振り切って後者だったから当日までまったくのノーマークだった。

一之瀬さんは本職である准看護師の傍ら執筆活動をしている。一見すると小柄で大人しいが実は芯が強い、みたいな展開がまんま当てはまるという人だ。加えてボイスドラマのシナリオや、ラジオ番組のパーソナリティ、またバンドのボーカルなど活動の幅は広い。さらにマラソンも走るという超人ぶりで、体力的には今回の著者勢の中でも最高レベルと思われた。
実際、小説執筆とマラソンは、比喩としてでなく実際の執筆や走りに影響を与えあう存在として見られている節もある。村上春樹とか村上春樹とか。フルマラソン走ると文体が変わるとハルキも言っているし、ラッパー作家に続いて来たのはランナー作家だったのか。体力勝負の看護師という職業もあり、おそらく多くの男性陣よりもフィジカルは強力だろう。敵いそうなのはギターの澤さんだけのような気がする。楓っち、おそろしい子。

当日までノーマークだったとはいえ、倍率の高い著者枠参加の猛者だ。マラソンはさておき筆力の方も疑いないだろう。おまけに体力抜群ときたら言うことはない。問題は、いやそれが問題かどうか、という議論はあるのだが一之瀬さんはなかなかに頑固な、そして真面目な人だった。そんな彼女の真面目頑固なエピソードを紹介しよう。

彼女の頑固さと真面目さは特筆すべきレベル

今回、ある意味ではノベルジャムにおける「小説というものの捉え方」に一つの方向性を示した藤谷治先生の視点。その藤谷賞をめでたく受賞した一之瀬さんの「あなたの帰る場所は」なのだけど、作者本人の真面目さがプロットの段階から全力で出ており、そのど直球なストレートさは編集のふくださんをして「もっと毒がほしいよね」と言わしめたほどだったのだが、その後の校で毒を盛っている様子はなかった。
ボイスドラマのシナリオも書く一之瀬さんだけあり、明快なテーマを持つ端正なストーリー。しかし一方で美しすぎる傾向があり、物語の推進力に多少の不安もあった。それゆえの「毒が欲しい」だったのだが二校を過ぎても毒を盛る様子はなかった。
編集の指摘を無視している、ということでは決してなく、かなりの検討をしたろうしトライもしていたはずなのだが、なぜか美しさに収束していくのでこれはもう、そっち方面に話が行きたがっているから、と思う他ない。

もうひとつある。ぼくは今回「タイトル」について期するものがあった。もちろん前回の「その話いつまでしてんだよ」が秀逸タイトルとして誉められた、というのもあるのだが、電子書籍の購入局面で「最初のコンタクトポイントにおける最初の情報」としてタイトルは、リアル書籍よりも重要度が高い、という実感をもっていたのだ。タイトルが放つフックが購入ハードルを下げるとぼくは信じている。

そしてもちろんタイトルの手触りはデザインを直接的に支配する。他のチームがどのようにタイトル付けを行ったか知る由もないが、ぼくは、今思っても身勝手極まる話なのだが「デザインのために勝手に仮タイトルを作り二日目朝の時点でデザイン初校を仕上げダマテンで提案する」という力技に出た。その一つがこれだ。

既に最終イメージがこの時点でできている。タイトル案とした「幻の丘」は、作中二人が約束を交わした場所でありしかし宅地造成で消滅、というアウトラインから「記憶の比喩」なのは間違いないので、それをビジュアルと共に象徴化したものだ。けっこういいセン行っていると思うのだけど、デザイン自体はOKだがタイトルは残念ながら不採用となった。
いや露骨に却下ではなく、エブリスタにアップされた初校に表紙が付いてなかったので、あー違ったんだなー、と思ったのでした。なんとも不器用な人なのだけど、適当に合わせたりしない分、この時点で不器用真面目な著者への信頼が増したのも事実だ。面白いやってやるぜ、みたいに燃えたのを憶えている。

その頑固さと真面目さゆえの受賞は、だから素晴らしい

編集を行ったふくださんの真の心はわからない。けれど一之瀬さんの愚直さ、頑固と一体の素直さ、いい意味での空気の読まなさ、それらを尊重すべき個性としてどうやって小説に活かしていくか、という方針に、ある時点でシフトしたと思う。
藤谷先生の講評は一語一句その通りで、技巧の小説ではなかった。が、綺麗な体裁を作るために彼女の愚直さをスポイルするような編集を行ったら、おそらく受賞はなかったと思う。
二校戻しを行うため、セミナールームの二階でふくださんとぼくとで「あなたの帰る場所は」について率直に意見を言い合ったのは二日目の夜だったが、この調子でいいのか、大胆に手を入れて直すべきか、かなり苦しい決断をふくださんは下したはずだ。正直「賞狙い」はその時点で目標ではなく、一之瀬楓が書く一本の小説としていかに完成させるか、そこにのみ集中していたと思う。

結果はもちろんご案内の通りなのだが、それゆえ嬉しくなったのを思い出す。賞の方を見ず、与えられた時間内で著者の個性を作品に落とし込み、最大のパフォーマンスを引き出そうとあがく。そのプロセスがいまだぼくを感動させてやまず、そのような意味でも、逆説的ではあるけれど、この作品の受賞はノベルジャムというイベントにとってもエポックな出来事だったように思う。この場でもう一度、一之瀬さんにおめでとうと言いたい。

最初の頃はどうなることかと思ったが、終わってみれば「著者一之瀬、編集ふくだ、デザインすぎうら」の編成以外ではありえない、偶然が必然になるノベルジャムマジックが遺憾なく発揮された結末だった。なにもかも仕組まれていたみたいに。
一之瀬さんの受賞は、彼女の真面目さと頑固さと不器用さが、作品の「まごころ」に昇華する事で与えられたのだと思うけれど、なればこそ、それを支えた編集者もまた「まごころ」の中にいれてあげたい。やばい、またラブレターみたいになってしまいそうだ。

思わず長くなってしまった。もう一人の著者、いまや「釘のひと」と呼ばれて久しい最堂四期さんの事を次は書きます。

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デザイン会社の中間管理職
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