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【読書メモ】コンサルタントが毎日見ている経済データ30

はじめに

本について

経営コンサルタントの小宮一慶さんが書いた『コンサルタントが毎日見ている経済データ30』読みました。

小宮さんが書いた本の数は40冊を超えており、私自身もこの方の本を新社会人になりたての時に読んだ気がします。

経済やお金のことについて、分かりやすく説明してくれる人というイメージがあります。

なぜこの本を購入したのか?

もともと経済指標をもっと解像度高く理解したいと考えていました。

例えば「GDP」という言葉。私自身は恥ずかしながら厳密にその意味を説明ができませんでした。

また、日々の生活や働いている会社の業務とGDPがどのようにリンクしているのか?も正直ボンヤリしていました。

社会人歴もそこそこ長くなってきたので、このタイミングでキチンと学びたいなと思い購入してみました。

感想

マクロとミクロのデータを紐づけてビジネスを考える

改めてこの本を読み、日本国内経済における以下のような経済指標の重要性やその意味を理解することができました。

  • 失業率

  • GDP・GNI

  • 日銀短観

  • 景気動向指数

  • 景気ウォッチャー調査

  • 消費者物価指数

  • インフレ率

  • 当期純利益・利益余剰金

  • 自己資本比率・ROE

これらの経済指標に加えて、業務で扱っているデータを組み合わせて考察すると、さらに興味深い洞察が得られると感じました。

私はデジタルマーケティングを本職としており、日々Google AnalyticsなどのWeb解析ツールを使って事業データを確認しています。

例えば、経済指標の動きやその要因を理解することで、「今期の事業実績」がどのような外部要因の影響を受けているのかをより明確に把握できます。

こうしたマクロなデータ(GDPや景気動向指数など)と、ミクロなデータ(売上や新規登録者数)を組み合わせることで、現実世界で起きている事象を多角的に理解できるような感覚を得ました。

実際のビジネスや経済活動をよりリアルに観測できるようになるということは、私自身の言語化力の改善にもつながる話で実務において良いことしかありません。

引き続き、マクロとミクロどちらのデータも定点観測していきたいと思います。

経済指標の理解

失業率が示す日本経済の現状

失業率から何が読み取れるのか?
失業率は、労働力人口に占める失業者の割合を示す指標で、景気動向や雇用市場の健康状態を測る基本的なバロメーターです。

日本では失業率が2%台でほぼ「完全雇用」の状態と見なされ、米国の3%台と比較して雇用の流動性が低い傾向があります。

この指標が低下する際は、景気が拡大して企業活動が活発化していることを意味します。

日本では、人口減少や少子高齢化による構造的な人手不足が長期的課題となっており、労働市場の効率化が重要視されています。

失業率を通じて、雇用政策や経済施策の効果を測定することが、持続可能な成長にとって不可欠です。

政府統計データを見ながら考察する
まずe-stat(日本の統計が閲覧できる政府統計ポータルサイト)より完全失業率を取得しグラフ化してみます。下記をベースに考察していきます。

コロナ化前後の2019年1月から現在まで

コロナ禍以前(2019年~2020年3月)
2019年から2020年初頭にかけて、失業率は2.2%~2.5%で安定していました。これは完全雇用に近い水準であり、労働市場が好調だったことを示しています。人手不足を背景に非正規雇用が増加していましたが、この雇用構造がコロナ禍での弱点となる兆候がありました。

コロナ禍(2020年4月~2021年末)
2020年4月以降、失業率は3.1%まで上昇しましたが、他国(米国の10%以上)と比べると抑制されました。この背景には以下の要因があります。

1.政策対応
雇用調整助成金制度の拡充により、企業が従業員を解雇せず雇用を維持できました。

2.産業別影響
観光業や飲食業の打撃が大きかったものの、製造業やIT産業は早期に回復しました。

3.文化的要因
日本企業は「終身雇用」の文化が根強く、失業率の急激な上昇を防ぎました。

特筆すべきは、失業率が3.1%に達しても、リーマンショック時(5.5%)より大幅に低かったことです。これは、日本の政策対応と産業構造の安定性を示しています。

回復期(2022年~2024年)
2022年以降、完全失業率はコロナ前の水準(約2.5%〜2.7%)に戻り、日本経済の雇用状況は回復基調にあります。回復基調のポイントとして特に下記が重要だと思います。

リモートワークの導入が進む
テレワークの普及は、ITや情報通信業を中心に雇用を維持しつつ新たな雇用機会を生み出しました。これにより、従来の通勤中心の働き方が変化し、地方への移住や働き方の多様化が進展しています。

観光業の一部回復

国内旅行需要の回復に加え、2023年以降のインバウンド需要が急増し、観光業の雇用拡大に寄与しました。特に地方観光地での雇用が回復傾向を示しています。

サービス業の需要回復
行動制限の緩和とワクチン接種の進展により、人々の外出機会が増え、飲食業や宿泊業で需要が徐々に回復しました。特に都市部では消費活動の活発化が雇用増加を支えています。

製造業の一部回復
製造業はコロナ禍でサプライチェーンの混乱や需要減少の打撃を受け、一時的に生産停止や雇用調整が行われました。しかし、外需の回復やIT需要の拡大に伴い、自動車や電子部品の生産が正常化し、雇用も安定化しました。現在は、労働力不足や原材料価格の高騰が課題ながらも、全体としては失業率の回復を支える要因の一つとなっています。


失業率に関する考察は以上です。

一つの指標を詳細に理解していくと、いろんな出来事が複雑に絡み合っていることが理解できて面白いです。

GDP・GNIが日本経済の豊かさを測る鍵

GDP(国内総生産)は、一定期間内に国内で生み出された付加価値の合計を示し、経済規模や成長率を測る最も重要な指標です。

内閣府_国民経済計算(GDP統計)_主要統計データ

GDPには名目GDPと実質GDPがあります。名目は実際の金額(実額)を意味します。実質は実際の金額から物価変動による影響を取り除いたものです。

一方、GNI(国民総所得)はGDPに海外から得た利子や配当を加えたもので、国民全体の所得を反映します。

日本では、GDPが給与や消費の源泉とされ、経済活動の活発さを直接反映します。一方、GNIは海外投資収益が大きい日本特有の状況を反映し、特に経常収支や国民の実質的な豊かさを評価する上で重要です。

両指標を活用することで、国内生産力と海外収益力のバランスを理解し、経済の成長や課題を的確に把握できます。

日本の実質GDP成長率の国際比較
過去数十年間で、日本の実質GDP成長率は他の主要経済国(例えばアメリカや中国など)に比べて低い水準にとどまっています。特に下記はポイントかもしれません。

✓日本の年平均成長率は、1990年代以降1~2%程度にとどまることが多い。
✓一方で、アメリカは2~3%、中国は6~7%(過去10年間で減速しているものの依然として高い成長率)を記録しています。

なぜ日本の実質GDP成長率は他の国より低いのでしょうか。内閣府やビジネスメディアの情報をベースにすると下記が主要因と考えられそうです。

1.少子高齢化による労働力人口の減少
労働力人口の減少は、生産活動の縮小を招き、経済成長を阻害しています。

2.技術革新の遅れ
AIなどの新技術の導入が遅れ、生産性向上が進まず、国際競争力の低下を招いています。

3.慢性的な需要不足
デフレや所得の伸び悩みにより消費が低迷し、国内需要が経済成長を十分に支えられていません。

AI活用の文脈においては「SoftBank World 2024 宮川 潤一 基調講演 AI共存社会に向けて」でも日本企業の遅れが言及されていました。

GDPから日本の景気後退突入の可能性を考える
2四半期連続で実質GDPのマイナス成長が続くと景気後退と機械的に判断することも少なくありませんが、正式には、内閣府の景気動向指数研究会が、 GDPのほか景気動向指数や日銀短観の動向も見ながら議論して、総合的に判定します。

それらの点を考えると、いずれにしても 2023年の日本経済は伸び悩んではいるものの、まだ景気後退とはいえない状況です。

2024年4~6月期の実質GDP成長率は前期比年率で3.1%増と、 2四半期ぶりのプラス成長となりました。

1〜3月期の1月に発生した能登半島地震のほか、豊田自動織機やダイハツ工業の不正問題によって一部のメーカーで自動車の生産が停止し、設備投資や輸出が減少したことや下請け企業にも影響が出たことを乗り超えました。

自動車の生産が回復すれば、消費や設備投資、輸出を押し上げ、次の四半期のGDPはプラスになるだろうとの予測がありますが、まだ消費を含めた国内景気が強いわけではないので、引き続き注意して見極める必要があります。

日銀短観:日本企業の景況感を探る指標

日銀短観(全国企業短期経済観測調査)は、日本銀行が四半期ごとに発表する調査で、企業の業況感や資金繰り、設備投資などの動向をまとめたものです

短観の数字は、「良い」と答えた企業の割合(%)から「悪い」と答えた企業の割合(%)を引いた値を示しています。

「やや悪い」という中間的な答えも認めているので、例えば、景況感が「良い」が30%、「やや悪い」が50%、「悪い」が20%ならば、プラス10となるのです。こういう計算方法で算出する指標のことを「DI」(Diffusion Index)と呼びます。

DIは変化や傾向の方向性を知るうえでは分かりやすい数字ですが、少し良くてもかなり良くても一律に「良い」とみなしますので、変化の量や傾向の度合いを把握することはできません。

ちなみに著者小宮さんはこの数字が20を超えていると好調と判断しているとのこと。

DI(景況感指数)を用いて、企業が景気をどのように感じているかを数値化します。

日本経済において、日銀短観は景気の方向性を判断する重要なデータです。特に大企業と中小企業の動向を比較することで、全体的な景況感だけでなく、規模別の課題を把握することが可能です。

企業の投資意欲や雇用動向にも影響を与えるため、政策立案や事業戦略を考える上で欠かせない指標となっています。

実際に日銀短観_全国企業短期経済観測調査を見て考察してみる
実際の数字をコロナ禍前から見ていきたいと思います。

日銀短観_全国企業短期経済観測調査

2020年に入ると新型コロナウイルスの感染が拡大し始めましたから、製造業も非製造業も大幅に悪化しました。

2021年に入ると少しずつ回復し始め、同年9月調査で製造業は18まで戻しました。ところが、非製造業は2となっています。

非製造業は国内事業を中心としているところが多くコロナ禍の影響で飲食店やホテル業、観光業などを中心に低迷が続いていたのです。

2022年は、非製造業は徐々に回復してきましたが、逆に製造業が悪化しました。2022年2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まったからです。

これによって小麦などの食糧、半導体生産に必要なレアガスやレアメタル、液化天然ガス(LNG)をはじめとするエネルギー資源などの供給網が寸断され、半導体不足やエネルギー価格の高騰が起こりました。

もう1つ、中国が打ち出したゼロコロナ政策も重なりました。中国での生産にも大きな影響が出たほかに、世界最大のコンテナ港である上海港が封鎖されてサプライチェーンに影響が出たのです。

物流機能が制限されてしまい、一部の自動車メーカーでは必要な部品を日本に届けることができず、工場の稼働停止を余儀なくされたケースもありました。

2023年になってようやく、製造業、非製造業ともに回復基調に入りました。特に非製造業は、 2024年9月調査で34まで上昇しています。

コロナ禍による影響が緩和されてきたことに加え、価格転嫁が進んだことで 連続での上昇となったのです。

特に伸びているのは、「宿泊・飲食サービス」です。 2023年12月の訪日外国人数は273万 4,000人となり、コロナ禍以降最多を更新したうえ、12月としても過去最多となりました。

同年8月に東京電力福島第一原発の処理水の海への放出が始まったことなどで中国人の日本への渡航は以前ほどではありませんが、それでもインバウンド(訪日客)は増え続けています。

このように日銀短観を見ると、日本企業が置かれている現状を詳細に把握することができます。本項では景況感のみピックアップしましたが、今後は雇用、物価、設備投資、需給などの状況を調べてみたいと思います。

景気動向指数:未来を読むための羅針盤

日銀短観とあわせてチェックしたいのが景気動向指数。

日銀短観と同じように景況感を示す指標ですが、こちらは内閣府が月に1度発表しています。

生産、在庫、投資、雇用、消費、企業経営、金融、物価、サービスの9つの部門における景気指標のうち、特に景気に敏感と考えられる指標の動きを統合した数字です。

これによって景気の現状を把握するだけではなく、将来の動向を予測することもできます。

この指数は「CI」で、「Composite Index」の略です。日銀短観で使われているDIが変化の方向だけを示すのに対して、CIは変化の方向と量を同時に示すことができます。

基準となる年度の水準を100として、その基準年に比べてどれだけ変化しているかを算出します。ちなみに景気動向指数の基準年は、2024年時点で2020年としています。

景気動向指数が対象としている指標は30種類あり、景気を先取りして動く先行指数(新規求人数や東証株価指数など11種類が対象)、景気と並行して動く一致指数(鉱工業用生産財出荷指数や有効求人倍率など10種類が対象)、景気に遅れて動く遅行指数(法人税収入や完全失業率など9種類が対象)の3種類に大別されます。

内閣府_景気動向指数_先行指数_新規求人数(除学卒)

景気動向指数は、実際の指標にもとづいて算出されていますから、客観性が高い数字といえます。ちなみに小宮さんはそれらの中でも特に先行指数を見るようにしているそうです

景気ウォッチャー調査:街角から見る経済の姿

景気ウォッチャー調査(街角景気)は、現場で働く人々へのアンケートを基に作成される指標で、地域ごとの景況感を迅速に把握できます。

日本経済では、地方の景気動向や消費者心理を反映しやすいこの調査が、政策立案や事業展開において現実的な指標として活用されています。

地域間の景気格差や業種ごとの傾向を補足し、全体像を把握するために欠かせないデータです。

消費者物価指数とインフレ率:物価から見る経済の健康状態

消費者物価指数(CPI)は、家庭が購入する商品やサービスの価格変動を測る指標で、インフレ率を算出する基礎となります。

インフレ率とは、「消費者物価指数の上昇率」を意味します。

この消費者物価指数とは、日本国内のモノとサービスの小売価格の水準を総務省が調査して、毎月発表しているものです。基準年(現在は2020年)の物価水準を100として指数化しています(基準年は5年ごとに改定していますので注意)。

これには、幅広い商品やサービスを対象とした総合指数と、物価変動の大きい生鮮食品を除いた生鮮食品を除く総合指数(コア指数)があります。一般的に「インフレ率」を指す指標は後者の生鮮食品を除く総合指数の上昇率(前年比)です。

日本では、長らく続いたデフレからの脱却を目指し、インフレ目標2%が掲げられています。

インフレ率は「良いインフレ」と「悪いインフレ」に分かれ、給与上昇によるインフレは景気回復のサインですが、輸入コストの上昇による場合は国民生活を圧迫します。

この指標を通じて、物価政策や賃金動向を正確に分析することが、日本経済の持続可能な成長を目指す上で重要です。

「良いインフレ」と「悪いインフレ」

インフレ率は数字だけを見ていては誤った解釈をしてしまいます。インフレには、「良いインフレ」と「悪いインフレ」があるそうです。

原油などの資源価格が上昇したり円安が進んだりすると、モノを輸入する際の価格、輸入物価が上昇し、インフレ圧力が高まります。景気が悪い中で輸入物価が上昇すると、お金が海外に流出するだけで何もいいことがない、コストプッシュ型の「悪いインフレ」となります。

一方、国内の景気が回復して給与が上がることで需要が高まり、消費者物価が上がっていくのであれば、ディマンドプル型の「良いインフレ」となるのです。

小宮さんはインフレ率を「経済の体温計」と捉えています。

景気が回復すると給料が上がって消費も伸びますから「良いインフレ」が起こりやすく、インフレ率が上がる傾向があるからです。基本的にはインフレ率が上がると、経済が活発化していると判断して良いとのこと。

当期純利益と利益剰余金が示す企業の稼ぐ力

当期純利益は、企業の最終的な儲けを表し、株主への配当の基礎となります。一方、利益剰余金は、過去の利益が蓄積されたものです。

日本経済において、安定的に黒字を稼ぐ企業は経済の安定化に貢献します。また、利益剰余金が豊富な企業は、不測の事態にも柔軟に対応できるため、経済危機への耐性が高まります。

これらの指標は、投資先の選定や企業の健全性を評価する際の重要な基準となります。

自己資本比率とROE:企業の安全性と効率性を測る指標

自己資本比率は、企業がどれだけ返済不要な資本で運営されているかを示し、中長期的な安全性を測る指標です。一方、ROE(自己資本利益率)は、株主からの資本を効率的に活用しているかを示します。

日本経済では、自己資本比率が高い企業が景気変動に耐えやすく、ROEが高い企業は投資家から評価されやすい傾向があります。これらの指標は、企業経営の健全性と成長性を評価する基盤として重要です。

自己資本比率が何%以上あれば安全なのか?

業種によって異なるが、工場や建物などの固定資産を多く持つ製造業は、 20%以上あれば一般的には安全といえます。

売掛金(販売したけれど回収できていないお金)や在庫などの流動資産が多い商社や卸売業などは、 15%以上あれば安全です。

これら以外の業種でも、自己資本比率が10%以上あることが中長期の安全性の判断基準となります。 10%を切っていたら過小資本であり、安全性の低い状態だと判断してよさそう。

経済指標データはどこから取得できるのか?

失業率

最新データは総務省統計局が公開する「労働力調査」から取得できます。

GDP

これらのデータは内閣府の「国民経済計算」から確認可能です

日銀短観

最新データは日本銀行の「短観」ページから取得できます。



景気動向指数

内閣府の「景気動向指数」ページで最新データを確認できます。


景気ウォッチャー調査

内閣府の「景気ウォッチャー調査」ページから取得できます。

消費者物価指数

総務省統計局が公開する「消費者物価指数」ページで最新データを確認できます。

以上です。引き続き勉強を続けます。

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