【読書メモ】ブランド力を高める「指名検索」マーケティング(田部 正樹)
はじめに
ノバセル株式会社代表取締役社長の田部さんが書いた『ブランド力を高める「指名検索」マーケティング』読みました。
著者は、PIVOTをはじめとする複数のメディアに登場しており、印象的な外見(強面で黒縁メガネ)も相まって、私の中ではやや気になる存在でした。
ラクスルの認知度を押し上げたり、自分の「欲しい」を形にしたプロダクトとしてノバセルを創り上げたりと、事業家として面白い動きを見せています。
マーケティングの話だけでなく、ラクスルやノバセルの事業を急成長させたヒントも知りたいと思い、こちらの本を購入しました。
今回は本の中で興味深いと思ったポイントをまとめたいと思います。
感想
この本は、①田部さんが持つマーケティングに関する豊富な知見の共有と、②ノバセルの間接的なプロモーションが程よくミックスされた内容だと感じました。
実務を担うマーケターにとって参考になる内容がいくつも散りばめられていましたが、ノバセルのプロモーションを意識させるような文脈については、スキップしちゃいました。
ちなみに最も参考になったのは、タイトルにもある「指名検索」に対する考え方です。
事業成長のレバーとして、どのように定点観測を行ったのか。また、CMなどの認知広告がもたらす残存効果をどのように捉えていたのかについて、学びを得ることができました。
ただ、欲を言うと本書内の広告残存効果の話はもうちょっと取り組み方を具体的に書いてくれると私としては有り難かったです笑。
次項から改めて気になったポイントをまとめていきます。
指名検索を伸ばすことは、経営戦略そのもの
企業が行うマーケティングにおいて、プロダクト力と価格とブランド力のバランスをコントロールすることがとても重要。
上記のマーケティングとは、プロモーションや宣伝戦略だけではなく、商品開発や市場調査を含んでいる。
田部さんはマーケティング活動において、「ブランド力 = 純粋想起されること」を重要視している。
同書では純粋想起を、自由回答のアンケート調査や質問を行った際に、ヒントなしで特定のブランドを思い浮かべてもらえる(想起)状態と定義している。
「フライドチキンといえば →ケンタッキー」などが純粋想起。
ブランド力を作っていく為の答えの1つが「顧客の検索行動を作っていくこと」、すなわち「あるタイミングやシーンで純粋想起される状況を作っていくこと」。
純粋想起を作っていく過程で見るべきもっとも適した指標が「検索行動」。
人々が何を検索しているのかに注目することで、対象顧客の行動や深層心理を分析でき、事業売上を大きく伸ばせるようになる。
指名検索を伸ばすことは、経営戦略そのもの。こうしてブランドを作っていくと、細かい価格や品質の差異を超えて指名検索は強い武器になり得る。
指名検索とは単なるインターネットの戦略を指しているのではなく、プロダクトや価格決定、ブランド醸成においても有効。
事業を伸ばすブランド力を作る3つの要素
事業を伸ばすブランド力を作るために、3つの要素について考えることが重要。
3つの要素とは「認知」「購買意向」「今欲しいと思ってもらえるか」を指す。
「認知」とは文字通り、商品やサービス名を知られ、存在を認められていること。
「購買意向」は、その商品・サービスを欲しいと思ってもらえる状態。
最後に、商品・サービスを買ってもらえる力である、「今欲しいと思ってもらえるか」、この3つの要素のバランスを取る必要があります。
同書内でフォーカスが当てられている純粋想起を目指します際に重要なことは、会社や事業が「何の特徴をもって想起されたいか」を決めること。
事業やサービス、商品が何の特徴や強みによって純粋想起されたいのかを決定していくプロセスが本書内でまとめられています。
指名検索は「認知 ×購買意向 ×今欲しいと思ってもらえるか」の強さの掛け合わせ
認知を強化するだけでは何も変わらない
ブランド力を高め、指名検索を伸ばすには「認知 ×購買意向 ×今欲しいと思ってもらえるか」の強さの掛け算が必須。
認知だけを広めても、検索行動は動かない。
例えば、認知を広めようとサービス名だけを音楽とともに10回連呼しているようなCMや動画広告。有効に機能する場合もあるが、まだ誰にも知られていない段階では有効ではない。
田部さんもラクスルを伸ばしていくフェーズでさまざまな施策を試しましたが、「ラクスル」と連呼するだけではまったく検索されなかったとのこと。理由は視聴者は興味がないから。
認知は100%あるのに検索されないブランドはたくさんある。覚えているけど興味を持たれない。検索されるには認知だけではダメで、興味を持ってもらえることが重要。
戦う場所(勝てるフィールド)を見極める
どのようなタイミングで消費者に自社の商品・サービスを思い出してもらえるか。これを考えることは指名検索されることを目指すにあたり、重要なポイント。
自分たちの商品やサービス、企業名を知りたいと思ってもらうことが、検索行動を設計することの本質。
興味を持ってもらって、検索したくなるような設計を考えるのが、指名検索マーケティングの手順になる。
そのためには、広すぎず、狭すぎない検索ワードを選定し、自分たちが勝てるフィールド、つまり戦う場所がどこなのかを見極めることがとても重要。戦う場所を見極めるには当然、商品・サービスを誰に届けるのか(対象顧客)、商品そのものの何を強みとするのか(プロダクト力)の掛け合わせで選ぶ必要がある。
マーケティング=プロモーションという誤解
マーケティング戦略の4P
マーケティングとは商売そのもののこと。継続的に事業成長させることを指す。
「顧客が本当に求めているものを見抜くことができる」、「顧客が求めるものを提供する」、これらが本来あるべきマーケティング。
多くの日本企業にはマーケティング部がない。プロモーション部あるいは広告宣伝部があるだけ。
日本企業ではマーケティング活動が細分化されていて、商品開発は商品開発部が行い、宣伝部はプロモーションに特化している。
一方、欧米企業やマーケティングに秀でた企業であれば、4Pのすべてが1つの組織内で一気通貫に行われている。
マーケティング活動を成し遂げるためには、4Pのすべてにおいて戦略を練る必要がある。
まずは、①商品・サービスの開発に戦略を持つこと、つまり選ばれる商品を作ることを考える。次に、②その商品の価格、どの場所で売るのかを決め、最後に③プロモーション戦略を決める。この順番がとても重要。
商品やサービスが一定以上のレベルに達している現代では、商品そのものを改良するか、使ってもらうシーンを限定してユースケースを提案するか、魅力を再発見するしかない。
いまやプロモーション活動を頑張って認知だけを広げようとしても商品の違いが理解されず、玉石混交の中ですべてが同一に見られてしまい、記憶の奥底に埋もれてしまう時代。
指名検索マーケティングにおいて、検索されるためにもっとも重要な要素は「売れる商品を作ること」、すなわち「顧客から求められる商品を作る」こと。「顧客から求められる商品」には、「ポジショニング(戦う場所)を変えることで求められるようになる商品」、あるいは「自分たちで気づいていない強みを再発見することで売れる商品」も含まれる。
「マーケティング =プロモーション」という誤解を解くには、可能であれば4Pすべてを統括するCMOや社長の立場の人が、本来の意味でのマーケティング戦略を4P全体で考え、活動を遂行するのが理想。
顧客が求める商品をまずは作り、それが魅力的だと伝えて知ってもらうことで初めて、企業名や商品・サービス名が指名され、検索数が上昇を始めるという構造になっている。
指名検索と潜在ニーズの密接な関係
購買意向を構成するフレームワーク
「ダイエットをしたい人は、同時に『ラーメン』を検索している」。人は普段から必ずしも本音を話しているわけではない。
本音を隠している一方で、「どんな行動をしたのか」は正直だったりする。
「本音を知りたければその人の発言ではなく、行動を見なさい」という格言もあるほど。
検索の足跡ともいえる検索行動には、人々の「心の動きと本音」が表れる。検索行動は、顧客がたどった心の動きを示す軌跡。行動から本音を捉えて、事業成長に活用するべき。
指名検索に必要なのは、認知と購買意向の両方を潜在層に対して醸成すること。どちらが欠けていても指名検索は起こらない。
指名検索され、ブランド力を高める要素は「認知 ×購買意向 ×今欲しいと思ってもらえるか」。
対象顧客の心の中に、あなたの売りたい商品やサービスへの購買意向が芽生えてから初めて、検索行動は発生する。
購買意向とは、その商品・サービスを欲しいと思う欲求。私たちは「その商品が欲しい」と思ってもらえるような売れる商品を作るか、新しい使い方の提案を行う必要がある。
購買意向は、6つの要素から構成されている
マーケティング戦略の基礎中の基礎として頻出するフレームワーク「誰に(向けて)」「何(の商品)を」「どのように(売るか)」に「なぜ」「インサイト」「バリュー」「コンセプト」を加えて、この6つを「購買意向を発見し、言語化するためのフレームワーク」と田部さんは説明しています。
これらの6つすべてが「購買意向を形成する要素」で、どれ1つ欠かすことなく、すべてを連動させながら考え抜く必要がある。
6つのポイントを以下にサマっておきます。
①なぜ(Why)……なぜ存在しているか、選ばれる理由
最近では「なぜ」を「パーパス(目的)」ともいい、「パーパス経営」なる言葉もある。いい換えればあなたの会社の存在意義。「唯一の差別化ポイント」と同義。
対象顧客に何を提供するのか、どれだけの意味がある会社なのか、選ばれる理由を言語化する。ラクスルの選ばれる理由は、「安くて早くて簡単」としています。「なぜ」を定めると、次はプロダクトの「何を」に行きがち。
しかしその前に考えるべきことは「誰に」です。誰に向けた商品か、誰の課題を解決したいサービスなのか、対象顧客がまず決まらなければ、「何を」は決まらない。
また、「対象顧客」だけでは解像度が足りずにぼんやりしてしまうので、「誰に」は「インサイト」とセットで考えます。
②誰に(Who)……対象顧客、③対象顧客 インサイト……本人が気づいていない欲求
対象顧客自身が気づいていない欲求がインサイト。「欲しい!」「そうそう、そんなのを求めていました」と思ってもらうためのインサイトを商品の提供者が見つけ出す。
商品を世に送り出した時点では思いもしなかった使われ方やインサイトに出合うことは十分にあり得る。インサイトは、普段は口にしないような本音だったりするので隠れていることが多い。 
④何を(What)……商品・サービス
ここまで定まったら顧客に提供する商品・サービスについて考えます。商品・サービスが対象顧客に提供するものは「便益」と「独自性」。
「何を」そのものに価値があるわけではなく、顧客が商品・サービスを利用する意味を感じてもらう、この意識が重要。最後に「バリュー」と「コンセプト」を決め、「どのように」に当たるプロモーション活動に反映させていく。
⑤バリュー……対象顧客が受け取る価値
自社が伝えたい強みを顧客価値に変換できないと、 1人よがりの商品・サービスになってしまう。
自社のいいたいこと、推したいポイントは本当に顧客の価値なのかを突き詰めることが大切。
顧客が商品・サービスを購買し、利用することの意味を感じてもらうことが指名検索されるために必要。
⑥コンセプト……他社にない独自性を一言でいうと何か
「即戦力採用ならビズリーチ」「1枚1・1円からのチラシ印刷ならラクスル」のように、独自性が一言で伝わるコンセプトにまとめる。
タグラインとも呼ばれているもので、指名検索マーケティングの成功において大きな要素を占めます。一言で伝わるまで余分な贅肉を削ぎ落とすことが重要。
指名されることは、ブランド認知や好意と同義
指名検索=ブランド認知、好意の指標
あなたの会社は、何の企業だと思われているか。どれくらいの人に知られていて、ブランド認知や好意をどれだけ持たれている企業なのか。事業売上を伸ばしていく上でこれらはとても重要な指標になり得る。
ブランド認知や好意を持たれているとは、本書の定義では「あのカテゴリーといえば〇〇と思い出してもらえる率が高い」状態。
これは「フライドチキン =ケンタッキー」のように、大手企業だからできるわけではない。たとえカテゴリーが狭くても最初はこのポジションを狙っていくことが、指名検索マーケティングの第一歩。
これまでブランド認知や好意を調べるには、調査会社に少なくないお金を払って調査をしてもらうことが一般的だった。しかし現在は調査するまでもなく、指名検索されること自体がブランド認知や好意の指標と同義になっている。
指名検索は正確で即時性のある優れた指標
KPI指標として指名検索が優れている。
当然ながら指名して検索されたほうが断然、購買確率が高く出る。5社中の1社に選ばれるよりも指名検索される状態にあれば、ブランド認知によりプロダクトを注文してもらえる確率は高まる。
指名検索は客観的にデジタルで把握できる指標として優れており、非常に有効。
なぜなら意図的に数値をコントロールできないので、ごまかしが利かないから。
また、かつてはお年寄りには使われないイメージのあったインターネットですが、現在は全世代で50%以上の人に活用されている。
しかも、アンケート調査が時間を要することに比べると、リアルタイムの今の数値を把握でき、圧倒的に即時性が高いのが指名検索。
つまり、正確性と即時性の2点で優れている。
「早ければ早いほどいい」。ストックの積み上げ田部さんがウェディング関連の企業に在籍していたとき、競合他社がどんな施策を打っても、ゼクシィには勝てないということを痛感していた。
新興スタートアップやITベンチャーは基本的に後発で、すでに巨人のように立ちはだかる巨大企業を前に、自分たちでまったく新しい概念を作っていくことになる。
しかし、どれだけフロー型で頑張っても、ストックを積み上げてきた巨大企業に勝つことは容易ではない。
2014年に田部さんがラクスルに入社したときは社員数20名ほどのまだまだ小さな会社で、これからベンチャーとして市場を作っていくフェーズだった。
マーケターとして事業を成長させるために最初に考えたことは「フロー型で勝つのはいつでもできる。最初からストックをためていくほうが、早ければ早いほど、価値を積み上げられるから絶対に良い」ということ。
指名検索を10年後に始める企業と、今から始める企業とではどちらが強いか。
途中で寄り道することはあるにせよ、 10年間積み上げてきた企業が絶対に勝ちます。一度人々の記憶に根付いたブランド認知は、よほどのことがない限りなくならない。
だから、取り掛かるのは早ければ早いほどいいのです。
記憶に残る「残存率」を計測する
指名検索が積み上がっていくかを確認しながら PDCAを回していく。
指名検索数は集客データなので、伸びているかどうかは一目瞭然。伸びていると分かる施策については、ひたすら実行し続けていく。
同書ではプロモーション施策に動画広告やテレビCMを提唱している。
地方のテレビ局の枠内で広告を打てば、あなたの想像よりもかなり少額で展開できる。
まずは安価に動画広告やテレビCMを打ち、実績を作ることにトライしてみる。
テレビCMでいうと、もともと大きな予算をかけて博打のように広告を打つケースが一般的だった。それに対して田部さんは「小分けにしてテストをしていきましょう」と提唱している。
なぜならば、予測を立てるための事前検証を行いたいから。いくら使えば、どれくらいの「残存」になるのか、その計算式を作るためのお試しをするイメージ。
まずは小さく石を投げてみて、波紋の広がり方と残り方を見てみます。
残存とは、広告を一度打ったあとに一定期間止めてみても指名検索が残り続けているか、あるいは残っていないのかどうかの現象を指す。
記憶にどれくらい残り続けるのか。残存率は、広告の露出ボリュームと頻度を掛け合わせて、戦略的にコントロールし、どれくらい指名検索が上昇したのかを記録していく。
どれだけの施策に対してどれだけ認知が上がったのか、あるいは2カ月間何もしなければ認知が0になるのか。
指名検索の上昇曲線あるいは下降曲線と、施策との関係性、費用対効果はどうなのか。これらの実績を基に計算します。
施策を打つ間隔も重要で、1年に1回しか広告を打たなければ、認知はあまり積み上がらない。忘れられてしまうから。1年間隔よりも半年に一度のほうが露出頻度が多く、繰り返し覚えてもらえるなど、頻度と残存の関係を見ていく。
会社名や商品名を目にしたり耳にしたりする機会をコントロールするという意図のもとに残存を作り、広告の投下量と頻度に対する残存率をコントロールしていく。残存率を上げるためにかかった費用対効果を測定しながら、残存していくイメージを持つ。
以上です。引き続き勉強します。