【オススメ本】谷一文子『これからの図書館』平凡社、2019


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 「図書館」というのは最も身近な公共施設の1つだと思います。しかし、日本図書館協会の統計によれば、「市民の8割以上」は使わない公共施設とのこと。他方、最近、市の図書館にいつ行ってもリタイアされた方々で溢れている光景を目にします。また、数年前訪れた佐賀県の武雄市図書館(今はひと昔前の注目事例になってしまいましたね)や最近訪れた札幌市図書・情報館(貸し出さない図書館として最近注目を集める先進事例)では若いサラリーマンや子育て中のママと子供、中高生、観光客含む一般の方の多さに圧倒されました。昔は「暗い・汚い・怖い」(p.15ページ)と言われた図書館に「今」何が起きているのか、そして「これから」の図書館の向かうべき方向についてまとめられたのが本書と言えそうです。

 私との図書館の関係でいえば、高校時代に大学図書館で毎日受験勉強をしていた時が一番活用していたと思いますが、社会人になってからは、たまたま京都府立図書館の評価設計の検討に携わった経験があり、それ以来、少しずつ図書館について考える機会が増えました(今年からは母校の先生方と図書館科研のメンバーにも加わっています)。また、子供が生まれてからは絵本を毎月一回くらい借りるようになったこと、たまたま周りに図書館で頑張る職員(司書)さんがたまたま多かったこと、本学の図書館も公共図書館と提携し積極的に乗り入れしていること、京都府北部7市町の図書館が連携して貸し借りをしていることも関心を高める動機の一つになったかもしれません。とはいえ、図書館そのものは専門ではありませんので、あくまで地方自治研究者として、自治体政策としての図書館、具体的には、公共サービスとしての図書館、公共施設としての図書館の評価への関心(アプローチ)に関心は絞られます(特に「貸出数以外の成果指標」の在り方について)。

 筆者である谷一文子さんは図書館流通センター(TRC)取締役で、プロフィールは以下のような方のようです。

 1958年、岡山県生まれ。上智大学文学部心理学科卒。倉敷中央病院精神科臨床心理士、岡山市立中央図書館司書を経て、1991年、TRCに入社。2004年、TRCサポートアンドサービス社長に就任。2006年、TRC代表取締役社長、2013年、同社会長、2019年に会長を退任。

 元々は図書館の専門家ではなく、臨床心理士として仕事をされていたのですが、組織改編で職がなくなり、たまたま岡山市が新図書館のための司書募集があり、そこから図書館との人生が始まられたようです。スタンフォード大学のクランボルツ氏がおっしゃる「キャリアは偶然で決まる」の好例ですね。

 目次は以下の6章と2本の対談から構成されていました。全てひらがなで分かりやすいですね。半分は一図書館人の自叙伝とも言え、半分は最近の図書館のルポタージュという感じの一冊というのが総評です(巻末のおすすめ図書館リストも嬉しいおまけですね)。

第1章 はじめに
第2章 そもそも
第3章 つくる
第4章 つかう
第5章 かわる
第6章 たのしむ

 全体を通して、私の関心から特に印象に残ったのは言及を抜粋してみます。

・年間300万人も人を呼び寄せる神奈川県大和市の図書館「文化創造拠点シリウス」の開館や、隈研吾、伊東豊雄といった有名建築家の設計した美しい図書館など、地方の小さな町も、村も、身の丈に合った工夫をしながら、優れた運営をしています(p.13)

・2003年に民間の図書館の運営を委託できる「指定管理者」という制度ができてから、官民ともに切磋琢磨し、「今までの図書館の常識」を打ち破る図書館が登場してきた(p.14)

・2003年以降、注目された図書館は枚挙にいとまがありません。(中略)千代田区千代田図書館、武蔵野市の武蔵野プレイス、福島県矢祭町の矢祭もったいない図書館、岩手県紫波町オガールにある紫波町図書館、そして、前述の武雄市図書館など。(中略)話題になる図書館に共通するのは、それまでとまったく切り口が違う図書館だということ。すなわち、地域の条件や課題に合わせた個性的な図書館ばかり(p.19)

・現在、上野にある「国立国会図書館国際子ども図書館」は、明治39(1906)年につくられた帝国図書館を現代によみがえらせたもの。(中略)当時の図書館は混雑を避けるために有料制でした(p.36)

・1990年代のバブル崩壊後は一気に税収が減ったことで、図書館予算も直撃を受けます。図書館予算は1996年が最大で、そこから年々下がり続けており、当然、人件費も抑えなければならなくなります(p.38)

・単純に考えれば、本があって建物ができて、管理する人がいれば、図書館は成り立つでしょう。台湾などでは「無人図書館」もあります(p.42)

・読書をする子ども、絵本の読み聞かせをされた子どもはより学力が高いという調査(平成29年度全国学力・学習状況調査)が出されており、図書館と学校との関係はますます強くなっていく(p.54)

・現在、公共図書館における一自治体の平均図書費は800万円ほど。年間約7万点の本が出版されており、図書館で一冊の平均購入額が1600円とすると、仮に1億1200万円ほどの予算があれば全て購入できるかもしれませんあ、そうならないのが現実(p.57)

・図書館においても、10年前には斬新で新しいともてはやされたことが「古く」なってしまうことも事実。だからこそ「図書館は進化する有機体である」(インド図書館学の父ランガナータン)というが理解できるのです。図書館員たちには、時代とともに変化していく空気を読み取り、新しいことを取り込める柔軟な姿勢、発想力と実行する力が必要(p.66)。

・図書館長の司書資格は必須でなくなりました。今は館長に司書資格は求められていませんが、経営手腕が求めらつつあるように思います(p.70)

・最近、理工系、法経系の出版社の方々から「図書館の本が古すぎると間違った知識が定着し金ない。選書や除籍の応援をします」という話があり、現実的に動き出すかもしれません(p.76)

・観光地の図書館は比較的オープン。沖縄県・恩納村の図書館機能のある複合施設「恩納村文化情報センター」は観光客も借りられます(p.85)

・ここまで少子化が進むと、一つの自治体で図書館を支えるよりは、連携して広域圏で図書館を応援していこうみたいな動きが出てくるのではと思います。将来的には図書館運営の仕組み、自治体側の運営の仕組みが変わらざるをえない(p.86)。

・ある図書館学の先生が「若い人がなぜ来ないか知ってます?みんな、注意されたことがあるんです。騒ぐなと言われて、それもう、来るか!みたいな感じになるんですよ」とおっしゃっていました。(今、新しい図書館では中高生がグループで勉強できるところが多い)。わいわいしている中でに一つだけ「サイレントルームがある」、というのが今トレンドになっています(p.93)

・督促資料の延滞金は、先進国ではどの国もほぼ徴収していますが、日本ではまだやっている図書館はありません(p.104)

●「真理はあなたを自由にする」とは聖書の一節であり、国立図書館にも「心理はわれらを自由にする」という言葉が大きく掲げられています。図書館は、自由であり、あらゆる教育格差を覗き、何人も利用でき、また、いつ学びを開始したり、やめたりしても妨げがない場所です。「本の倉庫」から「自主室」、「無料貸本屋」…図書館は時代とともに変化し、今は「知の広場」として、「地域の賑わいの創出場所」として、世代を超えて交流できる「敷居のない場所」として、多くの市民に使われるようになりました(p.149-150)

★ライブラリアンとしての知識と技術を使い、データベースを駆使しているのですが、こんなサービスをあることを一般企業の人が知ったら、とても便利だと思うでしょう(p.152)

以上です。これだけ読んでもいかにここ20年弱の図書館に変化が訪れているかお分かりいただけると思います。

なお、著書の結論は●に現れています。すなわちタイトル「これからの図書館」とはに対するアンサーは「これまで→「本の倉庫」「自主室」「無料貸本屋」」、「これから→「知の広場」「地域の賑わいの創出場所」「世代を超えて交流できる敷居のない場所」」ということですね。このような変化を前提とすれば、当然ですが、貸出冊数だけの評価軸では当然測れないということは火を見るより明らかと言えそうです。

そして、個人的にはもう一つ面白い示唆がありました。それは★部分にある「司書」ではなく「ライブラリアン」という新しい職種(肩書き?)へのアプローチについて。これは近年の副業やプロボノによる自治体職員による働き方改革としても可能性を秘めていると思います。

ともあれ、これからの自治体の地域づくりや子育て戦略、若者の定住やUIJターン政策、住民の幸福度向上に図書館の存在は欠かせなさそうです。今後の公共図書館の動向により注目したいと思います。


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