文庫本「フランス人は10着しか服を持たない」のは本当なのか

80年代のananとoliveに、さんざん憧れ、かぶれたわりには、フランスに行ったことがない。このまま一生行かない気がする。

決定的にフランス不信になったのは、黒人の男の人が地下鉄に乗せてもらえないという事件の映像をみたときだ。すらりとした長身に細身のダッフルコートがとても似合っている彼は、いかにもパリジャン(イメージ)という感じのおしゃれさんだった。それを白人の若い男たちが、いやな表情で、なにごとか言いながら乗車させまいとしていた。

この理不尽な出来事に、黒人の彼はどんな気持ちを噛みしめたのだろう。そう思うだけでとても苦しくなった。なんか、フランスはもういいや、と思ってしまった。

そんなわけで本屋で見かけない日はない、この本も手に取ることはなかった。が、文庫本になったとたん、文庫の値段とサイズの吸引力に負けて、つい買った。

フランスに留学したアメリカの女の子が、フランス流の暮らしに魅了されるということなのだが、上質な服を少なく持ち、着まわしている、とここまでは予想がついた。タイトル通りである。意外だったのは、フランス人が同じことのくりかえしである地道な毎日の生活に満足し、べつだん刺激を求めない点だった。ジムに通わず、歩いて買い物に行き、エレベーターを使わず階段を昇る。家族の食事と会話を時間をかけて楽しむ。いま流行りのていねいな暮らしとも、なにかが違う。ていねいにせねばと気負わず、ささいなことに対して、楽しむことのほうにこそ比重が多い気がする。

情勢的に望みもしない刺激がニュースで飛び込んでくる昨今、穏やかな暮らしが、かけがえのないことに気づき始めた人にフィットする本だと思った。

おぼろな記憶をたよりに書いたのだけど、フランスの地下鉄の件の白人たちって、イギリス人のレイシストたちだったのか。いま、知りました。この事実は、かなり衝撃だったけど、なれもしないリセエンヌに憧れたあの頃のような、ときめきは、もうない。



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