損得さんと呆気羅漢 (そんとくさんとあっけらかん)pt.3

お寺だから、時々お葬式に呼ばれます。
家族から伝えられる言葉を、最初に聞くのは弁天さんです。
つらいです。 何と言っていいのか、
何度同じ瞬間をたどっても、弁天さんは言葉を見つける事が出来ません。

菩薩さんはお風呂に入り身を浄め、
袈裟をまとって出かけて行きます。

見送った後、弁天さんはお花を見て廻ります。
花壇の前で身を屈め、ぼーっと風に吹かれます。
残った者が悲しいのです。
残された者が淋しいのです。
今生きている者たちが、受け入れる事が簡単ではないのです。

弁天さんは桜の樹の下に立ち、
高く枝を伸ばした天を見上げます。

それから縁側に腰を掛け、ずっとずっと、
真空の中で、揺られ揺れている桜の樹を
ぼんやりぼんやり眺めるのです。



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