そんとくさんとあっけらかん(損得さんと呆気羅漢)Pt.15


羅漢ちゃんには不思議なことでした。
「あの子塾いってんやてー」
「試験受けていいとこの学校いくんやて。今から準備しとかな損やて
お母さんが言うてた」って
「それからあの子はピアノやて」
「あの子は卓球やし、あっちは水泳や」
「今から始めて準備しとかな将来損する」て、お母さんが言うんやて。

そんとくさんはどこで聞いてくるのか、沢山の情報を知っています。
羅漢ちゃんもそんとくさんも、何のことか解らない事ばかりです。

そんとくさんち家の店先でも、幾ら損した得したと
話すお客さんが増えました。
おじさんたちが叫びます。おばさんたちも叫びます。
大人も子供も、お爺ちゃんお婆ちゃんも
損だの得だの目ざとく、ずる賢く、情報を掻き集めています。

知らない者は損するだけや。
お人好しは痛い目に会うだけや。

心の底に用心するに越したことは無い。
心の何処かに、お人好しは馬鹿見るだけや。

損哉さんの頭の中には絶えずソロバンがぱちぱちと音を立て
数字が天秤を揺さ振っています。
あっちが得かこっちが得か、
するかしないか、行くか止まるか。

いつの間にか数字の大小で
物の価値や選択を、決めてしまっているのです。

ぱちぱちのソロバンの音の海で
二人はおぼれてしまいそうでした。

損哉さんも おぼれそうになるのです。
泣きそうになってしまうのです。

{続く}


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?