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コンサルタントを10年やった私が顧問編集者をやる理由

10年働いたコンサルティング会社をやめ、今月から株式会社WORDSに転職しました。

WORDSはまだ社員2人の会社。周りからは「よくそんなところに飛び込んだね」と言われたりします。

しかも、いままでやってきた仕事とはかなり違うことをやります。

コンサルティング会社では、ざっくりいえば「事業を成長させるお手伝い」をしてきました。

アイデアをビジネスモデルに落とし込んだり、投資や買収の意思決定を後押ししたり。スタートアップに常駐して、社員の方と一緒になって事業プランを進めることもありました。

いっぽうでWORDSは経営者の「顧問編集者」の会社。

社長の竹村俊助さんは、もともと書籍の編集者。書籍をつくる上で身につけた「多くの人に届ける力」を活かし、経営者の発信を支援されています。

私は編集やライターの経験はゼロ。「10年やってきたことをやめて新しいことを始めるなんてリスク取ってるね」なんて言われることもあります。コンサルタントのセカンドキャリアとしては、たぶんちょっとヘンです。

もちろん不安はあります。それでも「顧問編集者」には自分の中でどこかピンとくるものがありました。

その最初のきっかけは、コンサルタント時代の師匠のことばです。

師匠がずっと文章を見ていてくれた

私が働いていたコンサルティング会社は人材育成に力を入れていました。

代表的なのが「徒弟制」。ひとりの新卒社員を採用するとき、ひとりのパートナーが「師匠」としてつく仕組みがあります。(パートナーというのはコンサルティング会社の経営陣のこと)

おもしろいのは、師匠となるパートナーが学生を選ぶだけでなく、採用される学生も選考の途中でどの師匠につきたいか選ぶことです。

私の師匠になってくださった方は、日本で30年以上にわたってコンサルタントをやっている人。もはやレジェンドです。

そこまで遠い存在だと、普段の仕事を直接教えてもらうというよりは「モノの見方」や「生き方」みたいなことについて、よく話し相手になってくれる存在でした。

コンサルティングを始めて3年くらいたったときのことです。

当時、自分の頭の整理の目的でたまに文章を書いてFacebookに投稿していました。(当時はまだnoteがなかったんです)

あるときふと思い立って「コンサルタントはパン職人みたいなもの」という文章を書きました。

いま考えると「コンサルタントはパン職人」って意味不明なのですが(苦笑)コンサルタントのアウトプットは企業の「体をつくる」ものだから、極端な偏りがあってはいけないし、心身健康な状態でつくらないといけない、みたいな内容だったと思います。

師匠とは半年に1回、フィードバックの面談があります。

師匠からはいつもドキッとするような本質的な指摘をされるので「今回は何を言われるかな」と少し緊張して部屋に入りました。すると、

「コンサルタントがパン職人って、おもしろいね。そんなことを言った人はきみが初めてだよ」

と言われたんです。「え、読んでくれてたんですか?」とすごく驚きました。

そのときの面談は、仕事の話はそこそこに「パン職人とコンサルティング」の話でめちゃくちゃ盛り上がりました。

自分の文章がきっかけで、30年コンサルティングをやってきた師匠と熱く語り合うことができた。それがすごくうれしかったのを覚えています。

その後、会社の広報活動の一環で、就活メディアで記事を書かせてもらう機会が何度かありました。

そのときも師匠は欠かさず読んでくれました。感想というよりは「佐藤さんの文章にはこういう味があるね」みたいに、自分ならではの特徴を気づかせてくれる言葉をかけてくださいました。

もちろんコンサルティングプロジェクトでもたくさんのことを学ばせてもらいましたが、それ以外でがんばっていることもひっくるめて師匠が見ていてくれたのは、すごくありがたいことでした。

「経営×ことば」 かもしれない

コンサルティングをやっていると、あるときから自分の専門テーマを決め、そこを深く掘っていくことになります。

もっとも一般的なのは、専門の業界を決めることです。他にはテクノロジーだったり、最近ではデザインを専門領域にするような人もいます。

でも私は「自分はこのテーマだ」とピンとくるものを見つけられずにいました。

一つ一つのプロジェクトはやりがいがあるし感謝もされるけれど、なにかを専門家として深めるほどの情熱を持てない。このモラトリアム状態ではコンサルティングは長く続けられないな……。そんな気持ちが頭の片隅にずっとありました。

いま思えば「『○○の専門家です!』と旗を立てておいてまったく通用しなかったらどうしよう」と怖がっていただけなのかもしれません。

そんな感じでもやもやとしているときに突然、師匠から「あなたは文章で食っていく人だと思う」と言われたのです。ほんとうに突然「お告げ」みたいな感じでした(笑)。

べつに相談したわけでもないのに、悩んでいたタイミングとぴったりすぎたので「師匠はなんでもお見通しだな……」と思ったことをよく覚えています。

「文章」というのは一般的なコンサルタントの専門テーマではありません。

でも考えてみれば、コンサルタントが日々やっているのは「ことばで伝える」ということ。

コンサルタントは戦略づくりのお手伝いをしますが、そのときに経営者とコミュニケーションをとるのは「ことば」です。

経営者の想いを引き出すのも「ことば」。やるべき戦略を伝えるのも「ことば」です。

コミュニケーションの相手は経営者だけではありません。戦略を実行するには、担い手となる社員の人たちにも「ことば」で伝えることが必要です。

「ことば」にはやっぱり人を動かす力がある。コンサルティングをやる中でも、戦略をうまく表すキーワードをつくれるとクライアントのチームが一気にまとまり、エネルギーが爆発するような実感がありました。

「自分たちはなぜそれをやるのか」をわかりやすく伝え、腹落ちしてもらうことが、戦略実行の第一歩。その出発点がしっかりしていれば、難しい道でも進み続けるエネルギーが生まれるのです。

日々のプロジェクトの中でそういうことを感じるうちに「経営×ことば」というテーマはコンサルティングのド真ん中かもしれない、と思うようになりました。

戦略が「本音」になるとうまくいく

「経営×ことば」をなんとなく意識する中で、たまたまWORDSの顧問編集者のことを知り「これかもしれない!」と思ってすぐに連絡を取りました。

そこからお付き合いが始まり、しばらくの間コンサルティングをやりながら副業でお手伝いをしてきました。

WORDSで仕事をしていると、よく「本音がいちばん伝わる」とか「ピュアが勝つ時代」といったキーワードが出てきます。

経営者にインタビューするときも、その人の素の部分を引き出していく感じ。私からみると、鎧をはいでいくようなイメージです。

やっぱり、嘘のあるものって心に響かないんだと思います。

実態のないものをちょっとしたコピーセンスでよく見せても、みんな嘘だと気づく時代になっている。

経営も同じだと私は思います。

コンサルティングが毎回100%うまくいくとは限りません。自分の力不足でなかなかうまくいかなかったことも正直あります。

思い返すとうまくいかないケースではほぼ必ず「伝わらない」が起きていたように思います。

本気で戦略を考えて、その正しさを証明する論理と事実を持っていっても、どこか伝わらない。

一緒に考えたクライアントのメンバーには伝わっても、それ以外の人にうまく伝わらなくて、思うように実行が進まない。

では「伝える」にはどうすればいいか?

表現やチームづくりといった問題も当然あるのですが、いちばん根本にあるのは「経営者の本音に迫れたかどうか」だと私は思います。

親会社の依頼で子会社の再建をするとき、子会社の経営者の本心に迫ることができなければ、いくらいい戦略を描いてもうまくいきません。

数字でみれば撤退するべき事業でも、経営者や事業責任者の本心にある「思い入れ」に寄り添えなければ、議論は始まりません。

組織内や外部とのさまざまなしがらみの中で、経営者は固有の「迷い」を抱えているもの。

経営者の本心にある「迷い」を共有できるパートナーになれたとき、コンサルタントが描いた戦略は経営者のとっての「本音」になり、みんなに伝わる。そういうものだと思います。

「本音に迫る」って、経営に必要不可欠であり、かつ顧問編集者が自然にやっていることかもしれない。そこにすごく可能性を感じています。

本音になれなくてあたりまえ。それでも。

経営者の「本音」というのは、会社が成熟するにつれて出しにくくなるものだと思います。

経営者自身が「やりたいか」というよりも「みんなを食べさせるため」に事業を選ばないといけないこともあります。

会社を辞めていく人がいたら、人格を否定されたかのような、ものすごいショックがあるでしょう。でも、いちいち落ち込んでいたら前に進めないのも事実です。

そんな中であえて「本音」に立ち戻れる場をつくれたら、事業を前に進める強力なパワーになるんじゃないか。

もちろんそんな単純に割り切れるものではないでしょう。それでも、私がコンサルティングがうまくいかないときに感じてきた「もやもや」の答えがそこにある気がするのです。

師匠からのメッセージ

ちなみに、今回の選択を師匠はとてもよろこんでくれました。

年末の忘年会のとき、隣の席になってひさしぶりにたくさん話をしました。「編集って何をするの?」とか「こんな可能性がありそうだね」などと話は尽きません。

もう60歳に近い師匠が自分のことのように楽しそうに話していて、私はそれがすごくうれしかったです。「パン職人とコンサルティング」で盛り上がったときのことを思い出しました。

そして「コンサルティングの原点に戻っている感じだね」と言われました。

もともとコンサルティングとは「あなたに○○円でお願いするから自由に使って会社の役に立ってほしい」と頼られ、経営者の隣にいるパートナーだったといいます。

いま、コンサルティングは一大産業になり、案件の内容や仕事のやり方が定型化される場面も増えてきました。それを求めるクライアントもたくさんいますし、それ自体が「いい悪い」という話ではないです。

そうやって業界も変わっていく中で、古くさいかもしれないけれど「経営者の隣にいていろいろ相談できる人」というあり方を探るのもいいかもしれない。

師匠とそういう話をする中で、顧問編集者をやるのは「自分なりのコンサルティングを今までと別の方法でやってみる」ということなんだなと思いました。

最後に師匠にあいさつをしたとき、泣いてしまって何も伝えられませんでした。

「もっといろいろお礼を言いたかったのに……」と思いながら帰っていると、スマホが鳴りました。

「佐藤さんの文章ならきっとうまくいく。楽しみです」

師匠からテキストメッセージが届いて、ますます涙が止まらなくなってしまいました。

「コンサルティング会社の社員」ではなくなったけれど、いままでと同じように「コンサルタント」の道を自分なりに歩いてみる。師匠のことばを胸に、がんばっていきます。

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