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干し柿が甘くなるような

渋谷のPARCOがいよいよリニューアルオープンするらしい。
SNSを開けば友人各位は皆オープニングへ行っていて、キラキラした写真が眩しい。やっぱりあの場所にはPARCOがないとね。次に東京へ行く時には寄ってみようかな。渋谷駅前には新しい商業ビルが続々と誕生し、地上にはもう隙間がないからか、街が上へ上へと伸びて行くようだ。今は迷路のようで乗り換えにも一苦労の渋谷だが、再開発が完成したらどうなるのか楽しみ。東京は行くたびに街並みが変わり、その流れの速さに驚かされる。

そんなニュースを横目に、私は柿を干す。正確には夫の干し柿作りを手伝う。信州ではよく干し柿を軒先に見かける。紅葉した木々の合間に一際目立つオレンジ色のカーテン。庭に柿の木がある家も珍しくなく、それを保存食にするのは自然の流れというか、昔からの知恵というものだ。うちにはそんな柿の木はないので、産直市場で渋柿を買ってくる。今年は不作らしく、早朝に行かないと売り切れてしまう。
ヘタの部分を残して皮を剥き、熱湯に5〜10秒ほどさっとくぐらせる。気になる人はアルコール消毒もして、ヘタの部分を紐でくくる。甘い物好きの夫が嬉々として作業している。

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うちではこれをハンガーに結びつけて、雨の日は室内に取り込めるようにしている。雨に濡れると湿度でカビてくることもあるので注意。1週間くらいしたら軽くもんで果実を柔らかくする。秋のカラッと乾いた冷たい風と日差しが、渋柿を甘くトロトロにしてくれる。いつから甘くなるのかな?切り取ることのできない時間の変化がそこにはある。

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これで2週間くらい前に干したもの。糖が結晶化して白く粉を吹いてくる。あとは好みの硬さになるまで干せば出来上がり。今年は今のところ30個作った。お店で買うのと変わらないくらい美味しいので、あっという間になくなってしまう。もう少し追加したいところ。

信州の秋はとにかく美味しい。まずはぶどう。みずみずしくて爽やかで、夏の名残と秋の訪れを同時に噛みしめているみたいだ。シャインマスカット、巨峰、シナノパープル、ナイアガラ、デラウェア...こんなにたくさんの種類があることもこちらに移住するまで気にしたこともなかった。フルーツアレルギーの私もぶどうは食べられるので、毎晩のように食べていた。たくさん食べても大丈夫なくらい安いのも産地の嬉しいところだ。ぶどうが終わりかけの頃に出てくるのがりんご。紅玉やしなのスイート、とき、秋映から始まって、晩秋になると蜜の入ったふじが旬を迎える。私は生では食べられないので、焼きリンゴやパイにしていただいた。

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松本のりんご農家さんと知り合いになり、そこから直接買っている。受け渡しは近所のコンビニの駐車場。欲しい個数を伝えると、「今畑からもいできます!」と嬉しいお言葉。小さいものは自宅用なのでとおまけしてくれた。美しいりんごのグラデーションは、整列させるだけでなんと絵になることか。

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他にも栗、きのこ、くるみ、新そばなどなど、秋は美味しいものがたっぷりある。そして美しい景色も忘れてはいけない。ある日の朝、車を走らせて大町にある鷹狩り山の展望台へ。

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鳥のさえずりも少し寝ぼけている時間帯、街には雲海が広がり、東側の山からゆっくりと日が昇る。

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反対側にはうっすらと雪化粧した山々。紅葉した山肌はオレンジ色を深め、雪の白さも朝日に照らされて美しく色づく。キリッと冷えた朝の空気は遠くまで視界をクリアにしてくれる。いつもはだいたい夢の中にいる時間。日の出の瞬間なんてただでさえ見ることは少ないけれど、家から1時間ほどでこの景色に出会えるのは、この土地に暮らすことの豊かさなのだと思う。

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早起きのご褒美には温かいコーヒー。冷えた身体によくしみる。こんな時間が最高に贅沢。

渋谷の新しいビル街を闊歩する、そんな暮らしに憧れてきたし、実際にそんな暮らしもしてきた。けれど今は干し柿がゆっくり甘くなるような、時計の針が溶けるような、そんな感覚がとても心地良い。


寺岡歩美



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