
蔵元の本で出会った酒米をつくる村を訪ねる
1ヶ月ほど前に手にした本がある。ページをめくると、山の影なのか、光と影の陰影のある小さな村が描かれている。その風景からはじまる本の世界にいつの間にか引き込まれ、リュックに入れてこの本をしばらくは持ち歩いていたくらいだ。
東北地方の里山、実際にその地を訪ねた印象を備忘として残したい。
堰(せき)が現存する小さな集落
ついに、その土地を訪ねた。
場所は、秋田市内より車で30分。四方を山々に守られるようにした、鵜養(うやしない)という村。集落はわずか46戸しかない。多くは70-80代の方々だという。
村が一望できるという県立公園・へそ公園をの階段を息を弾ませながら上り詰めると、目の前の視界が一気に広がる。
(あぁ、こんな風景を見たことがある。砺波・散居村、五箇村。でももっと小じんまりとしている、山に抱かれているようだ。
大きく深呼吸する。
絵の具で書いたような夏空と収穫間近の黄金色の頭を垂れた稲たち。うねった一本道の先に小さな集落が見える。

集落に入っていくと、道の両脇には美しい水路があった。勢いよく水が流れていた。「堰のあるまち」___秋田市の景観百景にも選ばれた、重要な文化財だ。
これらの堰は300年以上前から存在し、この堰のおかげで水不足に陥ることはなかったらしい。江戸時代より生活用水や農業用水として、水路から各家庭に細い水路がつながっており供給されているそうだ。
水飛沫をあげて流れる水音が心地よく響いた。堰のそばには神様を祀る小さな祠(ほこら)も見かけた。水は田んぼも守っている。
トンボがダンスする田んぼ
田んぼにはトンボが舞っている。
あまり見たことがない風景。
ここで、日本酒を構成する酒米が栽培され、そのほぼ全てが無農薬栽培だというのだ。農薬が撒かれていないから、虫たちにとっては嬉しい田んぼに違いない。この30年以上の間で全世界で昆虫の数が七割から九割減少したというから、相当珍しい光景なのだろう。

自然の恵みを循環する
豊かな水の源流を求めて、山道をのぼり滝に向かった。伏伸(ふしの)の 滝という。これより先には集落はなく、すぎ、ぶな、ミズナラの森林が続くのだそうだ。
エメラルドグリーンの豊かな水が滝になり流れてくる。

「こしのある透明感をたたえる酒」は汚れない、自然の恵みから作られる。
水と太陽の恵み。それらを存分に受け止めた酒米は、集落の農家さんの協力を得てつくられているそうだ。ということは、集落の人々が豊かに暮らしていく雇用を生み、里山の風景を守り続けることにも繋がるのだろう。
「味よりも、大事なのは伝統技法を受け継ぐこと」と話されていた八代目蔵元の言葉を思い出した。この土地が産んだ恵みを引き継ぐ、命の水を授けられているかのようだ。 骨盤から背筋が伸びた。
*夏の間、この本をリュックに忍ばせていました ↓