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三度目の奥能登 

能登に来た


今年三度目の奥能登に来た。羽田空港から飛行機でわずか55分。能登空港の上空から窓に広がるのは懐かしさを感じさせる田畑の景色、今回は頭をたれた青々とした稲穂。「帰ってきたよー」という気落ちでいっぱいになる。

輪島の空

「おかえりー」と出迎えてくれたのは輪島地域でも唯一、分業制の輪島塗でデザインから一貫体制を手がける「輪島キリモト」さん当主の奥さん。奥さんというかいわば副社長だ。そして、今回は彼女の紹介で今回は總持寺のある門前地区の農家民宿「noto forest」さんに宿泊。

炭小屋を訪ねる

「ここを登っていくんですか?道ないじゃないですか」
道はあるから大丈夫だと補足されていない山道を躊躇なく走っていく。
二日目のまる一日、noto forest さんが案内をしてくれるアクティビティに参加した。
何をしたいか?のリクエストをして相談しながら行先を決める。
陶芸を長くやっていると話すと、勧めてくれたのは、炭焼きと珪藻土七輪だった。 一つ目が炭焼き小屋。


ぐぐっとケモノ道を登っていくと小さな小屋が見えてくる。笑顔で出迎えてくれたのはIさん。「火が入っているので暑いですよ」と小屋の中に入れてくれた。
鼻腔をくすぐるいい香りは松の木。釜の中で炭焼きをしている。
この地区にはかつて200軒の炭焼きを営む職人さんがいたが現在は10人ほどという。炭は主にイベントなどで使われることが多く、冬の間は穴水駅近くにオープンする牡蠣小屋で使われる炭はここで作られているそうだ。
「どのくらい使うの?」と訪ねると、たとえば七尾で開かれる牡蠣祭りでは2トン半の炭が使われるそうだ。 森から木を伐採し、炭によい大きさまで切り形を整える。窯には1回で5トンの炭焼き用の木材から1トンの炭が作られる。そのうち市場に出回るのは700-800トンだという。残りの300トンは粉砕し石川県の組合に引き取られ土壌改良に使われるという。


炭をみせてもらった。
「真ん中がずれているでしょう? これは品評会には出せないんだよ」とIさん。言われてみるとそうだけれどなんとも美しい。人が手を入れた自然の造形。品評会については毎年行われるのだそうだ。


中央の均衡が取れていてサイズも同じ。年を通じて形のよい炭が取れるとこのようにして残していくのだという。農林水産省の賞を受賞したこともあるという。
「ずっと見ているわけじゃないよ」というけれど、朝に日入れし夜に火入れする。途方もない手間のかかる仕事だ。 炭は長持ちだ、5-6時間は使えるという。
壁に炭を埋め込んだりなどインテリアとして使われる人もいるそうだ。
天然の消臭作用もあるので、クローゼットや靴箱、冷蔵庫にも使える。輪島塗の産地に近いここでは、輪島塗の工程(133ある!)の一部でも使われるという。炭を一つを手渡してくださった。大切に持ち帰ります。

1200万年前の土でつくる手仕事 「珪藻土七輪」の能登焼成器

珪藻土の山、ここから珪藻土を採掘する


次に訪ねたのは珠洲にある「珪藻土七輪」の工場。青々とした田んぼの奥にある。珠洲は今年5月の地震で大きな被害を受けた場所だ。もし可能なら、と伝えたところ「見せてもらえますって」と手配してくださった。
能登燃焼器工業。最初に案内されたのは工場の裏手の山。穴蔵(坑道)が見えてきた。

珪藻土の土は切り出す


「ここから珪藻土を切り出します」という。土というからさらの土かなのかと勝手に誤解していた。かなりの大きさの土を切り出すのだ。坑道からはひんやりとした冷気が伝わってきた。真夏でも坑道内は気温15度ほどだそうだ。
珪藻土は、1200万年前、海底にあった土なのだという。1200年じゃなくて1200万年前だ。
稚内、秋田、能登半島、岡山、大分など地域に点在する。
ここ石能登半島・珠洲市は、海の底に溜まった珪藻が大量に発生する気候だったそうだ。
地域で取れる珪藻土は成分に特徴があり、例えば、秋田の珪藻土は二酸化珪藻と呼ばれ、フィルターに適している。衣料品や公募の吸着などに使われる。

能登半島の珪藻土は硬くしまっていて、珪藻に粘土鉱物が混じるバランスが良いそうだ。塊として使うことができて、世界的にもここにしかないという。そうした地形だったのだ。 
埋蔵されている珪藻土がどのくらいなのかはわからない。坑道の下に数百メートルほどあるらしい。

珪藻土七輪。かつてはそれぞれの家で作っていたそうだ。そのうちに北前線で流通するようになる。産業が復興すると製鉄所で使われるようになり、この地域でも組合を作りレンガなどを商業的に作り始めたそうだ。

1200万年前というからには、化石も出てくる。珪藻土はその道の研究家もいるくらい奥が深いという。切り出した珪藻土にあった枯木。手のひらに乗せてみると何やらエネルギーを感じる。人類が生まれる前から存在していたということだ。
「ゴミで不良品と思うか、ロマンを感じるかはそれぞれですよね」とxxさんは話してくれた。むむ、ロマンでしょうー

道具をつかって一つづつ七輪を成形する


工場では切り出した土から七輪へと成形する道具(鎌のような)と道具をつかって成形する様子を見せていただいた。そう、手作りなのだ! 
手で掘って手で加工する。
七輪を両手で持たせてもらうと、抱きかかえたときに安らぎを感じる。手でつくった曲線は形も美しい。

中国製の七輪もDIYショップなどで売っている。珪藻土七輪を見学にきて、別の産地名をつけて大成功したメーカーもあるそうなのだが….本家本元はこちらです!

手仕事でつくる七輪

最近、3軒あった工場のうち1軒が家業を畳まれたので現在は二軒。需要に対して追いついていないという。大量生産品でもないので、珪藻土は水分を含んでいるので焼成前は重たいが、焼成後は見た目よりも驚くほど軽い。そのため工場の工程では男性は焼成前、女性は後工程を担当するそうだ。
半年待ち?とも言われる七輪はこちらで購入できますね。私も検討中。
https://www.fnw.gr.jp/7rinhonpo/index.htm

輪島塗の工房を訪ねて「輪島キリモト」

最後に訪ねたのは輪島キリモトさん。今年の冬、取材で訪ねて以来だ。今回は事前に予約をして工房も見せていただいた。ちょうど、関西でまもなく開業する大手外資系ホテルの複雑なインテリアを職人さんたちが集まり製作中だった。
「小さな気持ちの心地よさ。一瞬ホッとしてもらえる心地よさをつくりたい」という。

輪島キリモト(前回訪問した時の
写真なのでお正月飾りです)

病気で食事を取れなくなったおばあちゃんが「あのスプーンを使いたいから」と思いお粥を食べられるようになったことがある。人の命をが伸びることもある。
133工程という途方もない工程を重ねて作られる輪島塗の作品。お直しもできる。大切な器が割れてしまった欠けてしまっても、修理にだすとサステイナブルにいつまでも使うことができる(もちろんそこにはお金がかかるのだけれど)。今回も小金をためて小どんぶりを購入してきました。軽くて手にすっと馴染む漆のどんぶりです。キリモトさんについては以前に取材した記事があるのでこちらを読んでもらえたらうれしいです。

炭焼きの炭も、珪藻土も最初のきっかけになった輪島塗につながっている。産地には生態系があるのだとまたひとつ学ぶ。

一日一組の農家民宿 noto forest

これらのツアーを組んでガイドしてくださったのがnoto forest さん。
彼女がつくる家に招いてもらったようなホッとする空間。ほしいなとおもうところに必要なものがある。玄関やトイレに生けられた野花、部屋のにある座布団のたたづまい。あ、古い家屋なのにコンセントの位置が絶妙に欲しい場所にある。お風呂も快適。

noto forest さん


そして、彼女がつくってくれる里山里海のめぐみのお料理は抜群に美味しい。「畑でとれたものです」「隣町のお豆腐屋さんの○○さんがつくった…」「隣でとれたぶどうです」…。 自然栽培の畑で採れる野菜は明らかに味が違うのだそうです。スイカも、水分が多すぎず甘味が過多でなくぎゅっと詰まった味。昔おばあちゃんの家で井戸で冷やして食べた西瓜を思い出した。


フランスをはじめ海外からのお客さんが非常に多く、毎年リピートで訪れるお客さんもいるという。
コンビニもない、見渡す限り田畑と広い空。集落の一角にあるこの宿に惹かれる理由がよくわかる。
「来年いつ訪ねようか」と滞在中にカレンダーを思い浮かべ考えた。


珪藻土(けいそうど)の山、手仕事でつくる七輪はこちら


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