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“アニメ”の概念も変わる令和 コミュニティづくりが鍵

先日、EJアニメシアター新宿で開催された「トンコハウス映画祭」(https://tonkohousefilmfestival.com/)の前夜祭に行ってきました。
トンコハウスはカリフォルニアのバークレーにあるアニメーションスタジオで、創業者が堤大介さんと日系のロバート・コンドウさん。Hulu(日本)と共に『ピッグ 丘の上のダム・キーパー』を作ったり、日本とも深いつながりがあります。映画祭はトンコハウスのキュレーションで、トンコハウスのクリエイティブと世界のアニメーションを様々なかたちで紹介します。

このなかでいいなと思ったのが、「なぜアニメーションスタジオが映画祭をやるのか」という堤さんのお話です。
トンコハウスは、「クリエイティブのコミニュテイ」を目指しているのだそうです。アニメーションを作り、観てもらうだけでなく、それを体験して刺激を与える。それが新たなクリエイティブを生みだすのだと。
トンコハウスはこれまでもたびたび展覧会を開催してきました。さらにトークやセミナーで自身の考えかたや創りかたを伝えるのにも積極的です。ファンとコミュニケーションを取ることが、クリエイティブのひとつと考えているかのようです。

実はこうしたファンを巻き込んだ作品の盛り上げは、これまでにもありました。作品のタイプは全く異なりますが、「エヴァンゲリオン」シリーズは特に際立った例です。
エヴァンゲリオンの宣伝は、実はかなり独特です。重要な発表はメディアに広報リリースを投げるのでなく、新宿の街中の街頭ビジョンで突然告知したり、映画館での予告編上映も事前情報なしです。公式ウェブサイトにひっそりと重要情報がアップされることもあります。要はサプライズ、そしてファンに直接語りかけることを重視しています。

数も多いコラボレーションも、作品のコンセプトは踏み外しません。それはビジネスの成功以上に、ファンと作品の接点を増やす役割を果たしています。何よりも映像作品がない期間でも展示会やイベント、コラボレーションを続けていることが特長です。
2000年代半ば以降の「エヴァンゲリオン」の再ブームは、こうした地道なファンとのコミュニケーションづくりにあったのではないかと思います。

2000年代半ばには『涼宮ハルヒの憂鬱』もありました。コミュニケーションの中心はインターネット上ですが、映像だけでなく、ウェブサイトに隠されたメッセージ、番組中のダンスシーンの再現などファンとの密な関係がブームの基盤となっています。
2010年代では『ラブライブ!』がこれにあたるかもしれません。アニメとアイドル・音楽が結びつき、さらにそれがライブイベントに広がっていきました。「アニメ⇔音楽」「アニメ⇔イベント」「アニメ⇔アイドル」「アニメ⇔ゲーム」、アニメを軸にコミュニケーションも広がり、巨大なコミュニティが成立しています。

「エヴァンゲリオン」、「涼宮ハルヒ」、「ラブライブ!」と作品のタイプは変わりますが、根底に流れているものは同じです。映像を軸にして感性を刺激して、アニメからさらに様々なメディアに展開して、ライブな体験につなげていきます。

ジャンルが全く異なるトンコハウスの『ダム・キーパー』にも、同じ文脈が流れています。作品は絵本になり、配信・テレビシリーズの『ピッグ 丘の上のダム・キーパー』がスピンオフしました。
そして映画祭を開きます。映画祭にはコンセプトカフェが備わり、ワークショップやクリエイターと共に街中にでたスケッチツアーまで用意されています。まさにライブな体験です。

トンコハウスの目指すのは、「エヴァ」「涼宮ハルヒ」「ラブライブ!」とはまた違ったかたちでファンを巻き込んだ体験型のアニメーションではないでしょうか。
ひとつひとつは決して派手ではありませんが、継続的にコミュニケーションを取ることで、作品のコンセプトを確実に伝えていきます。
トンコハウスの発表した作品はまだ数は少なく、長編映画はありません。でもこれから新作の発表があれば、多くのファンが待っていましたと喝采するはずです。

近頃、「”アニメ“とは何か」をあらためて考えたりします。
“アニメ”とは本来は映像作品なのですが、”アニメカルチャー“といった時はすでに映像だけでは語りきれなくなっています。
映像、そこから派生する音楽・ライブ・イベント・ゲーム・出版、それらを通じたコミュニケーションも含めた全てが”アニメカルチャー”なのでないでしょうか。

平成の後半はアニメの制作本数が急増したこともあり、優れた作品が必ずしもヒットにつながらない状況が生まれています。ムーブメントを生みだすには、なにかプラスαが必要となっています。持続的なファンとのコミュニケーション、コミュティづくりは間違いなくそのひとつです。
こうしたアニメのありかたは、令和の時代ますます活発になりそうです。アニメカルチャーは映像をハブにしたクリエイティブの体験全てを包み込んだ概念に変っていくのでないでしょうか。


今回はトンコハウスの話でしたが、ファンコミュニケーション型の平成の大ヒットアニメのひとつが『ラブライブ!』です。
アニメプロデューサーの平澤直さんと僕がホストになって届ける「COMEMOxアニメビジネス NIGHT OUT」の第6回では、『ラブライブ!』を手掛けた音楽プロデューサーの木皿陽平さんをゲストに「ライブエンタテイメント」をテーマにします。『ラブライブ!』の熱狂とブームはいかに生まれたのかが明らかに?!

5月22日に大手町の日本経済新聞本社2F SPACE NIOにて開催。令和のスタートと共に、アニメビジネスについて考えてみるのはどうでしょうか?
https://eventregist.com/e/comemo0522?lang=ja_JP

ご興味あるかたは是非、ご参加ください!

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