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話し合って決めると失敗しやすい

「3人寄れば文殊の知恵」なんて言葉がありますが、本気で「知恵」を絞りあっていればいいんですけど、チーム活動のなかでとにかく人を集めようとするだけでは誤った意思決定をしてしまうことがあります。

アメリカの社会心理学者アーヴィン・ジャニスは50年近く前に

 「集団浅慮」

という概念を提唱しています。これは、

「集団が選択肢を現実的に評価するよりも
 満場一致を優先させようとしたときに生じる、素早くかつ安易な思考」

と定義されています。安易な多数決を取ることで、より思考を深掘りさせようとする試みを阻害するのなんかも、これにあたると言っていいでしょう。

たとえば、1人で道路を渡る際には左右をしっかりと見渡し信号を確認してから渡るにも関わらず、大勢の仲間と一緒に道路を渡る際には状況を確認せずに先頭の人についていく(集団の一体感を維持する)ことで、「事故のリスクが高まってしまう」ことなどがあげられると思います。

世に言う

 「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」

という発想は、この集団浅慮によって引き起こされています。みなさんも心当たりがあるのではないでしょうか。「〇〇で言ってたから」とか。「みんな言ってるから」とか。そういう理由で話す時、間違いなく思考停止に近い状態となっているはずです。なにせ自分で考えた結論ではないわけですから。

同じことが会議などの場でも起きます。

なかなか結論が出ずに

 「○○でいいんじゃない?」
 「じゃあそれで」

みたいな惰性で決定する空気ってありますよね。

このように、チームにおける意思決定について安易に捉えていると、大きな失敗に繋がる可能性があります。

逆に、チームにおける意思決定方法について学ぶだけでパフォーマンスを大きく向上させることができるのです。

1つ目は「独裁」
チームの中の誰か1人が独断で意思決定するやり方です。

2つ目は「多数決」
いくつかの選択肢を提示した上でチーム全員で意思を問い、多数の賛同を得た選択肢に決定するやり方です。

3つ目は「合議」
チーム全員で話し合って結論を導くやり方です。

これらのうち、どの意思決定方法が優れていると思いますか?
 
実はこれらの意思決定方法には、どれが必ずしも優れているというわけではありません。それぞれメリット/デメリットが存在します。それぞれの意思決定方法はどれを選ぶかによって、「メンバーの納得感の得られやすさ」と「意思決定にかかる時間の長さ」が変わってきます。

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「独裁」は唯一、意思決定者以外は誰も意思決定に関与しないので、当然ながらメンバーの納得感が最も得にくい方法です。逆に1人が独断で決めるため、最も時間がかからない意思決定方法です。

一方で「合議」はメンバーが意思決定に関与するため、メンバーの納得感が最も得やすい方法です。逆にみんなで話し合って決めるため、最も時間がかかる意思決定方法でもあります。

「多数決」はそれぞれの中間に位置しており、納得感もそこそこ、時間もそこそこで済みます。

が。

最も「意思決定」するために必要な思考が浅くなりやすいというデメリットがあります。時間と納得感だけにしか焦点を当てていないと、その分「内容」が薄くなってしまう点についても注意しておいた方が良いでしょう。

チームにおける意思決定で大切なことは、「どの方法で決めるかをあらかじめ決めておく」ということです。多くのチームでリーダーは「自分1人で決めたほうが速い」と思っているものですが、メンバーは「みんなで話し合って決めたい」と思っているものです。

こうした意思決定に対する認識のズレにより、不和が生じてしまっています。しかしどの方法で意思決定するかについて共通認識を持っていれば、
チームメンバー全員でその意思決定のメリットを最大化し、デメリットを最小化するために動けるはずです。

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また、評価基準は「速さ」や「納得」だけではありません。

「責任」の所在についても、大きく差が出ます。しかし、チームにおける意思決定については、

 「みんなで話し合って決めるのが良いことだ」

と思っている人が多いようです。世界の歴史において、かつては血統によって決まった王様や皇帝、将軍によって治められてきた国の統治システムを「民主化」によって民衆の手に取り戻してきたからもしれません。

しかし「みんなで話し合って決める」合議という意思決定方法の最大のデメリットはとにかく時間がかかりすぎる…ということです。逆に、リーダーが最終的な意思決定を下すでも良いですし、領域によって誰か意思決定する人をあらかじめ決めておくのでも良いですが、「誰か1人で決める」独裁という意思決定方法は圧倒的に「速さ」を担保することができます。

昨今は環境変化のスピードが速くなり、意思決定に時間がかかることはビジネスにおける致命傷となってしまう状況になってきています。この数十年の中で日本企業の時価総額ランキングで上位にランクインしたソフトバンクやファーストリテイリング(ユニクロ)は孫正義さんや柳井正さんというオーナー経営者がトップダウンでスピーディに意思決定していることも、ビジネスにスピードが求められていることの象徴だと言えるでしょう。

逆に従来型の日本企業はあらゆる意思決定を会議に委ね、誰かがリスクを背負ってスピーディに決断することができず、結果として苦境に立たされています。それは、現代の社会を見れば嫌というほどわかります。

せめて

意思決定をすることに責任が持てる人
意思決定する能力がある人

だけに絞ればいいものを、その能力も無ければ、責任感も持てない人たちを集めて「納得」も何もないでしょう。彼らの自己満足を満たしさえすればよい意思決定となるかというと甚だ疑問が残ります。

 時間をかけすぎて失敗する責任
 時間をかけなくても失敗してしまう可能性を負う責任

参加する人たち一人ひとりがその責任を負い合えるのであれば、合議制や多数決と言った選択肢でも良いでしょう。

しかし、そう理想通りには上手くいきません。

そう言った際には時としてきちんと責任を持てるリーダーが1人で決めていくことが求められます。要は、

 「1人で意思決定し、そのうえで
  多くの人が納得できる最適解を選択し、
  その内容は望む成果を得られるものとなっている」

状態であればいいわけです。

では、「独裁」という意思決定手法はどのようにすればうまく行くのでしょう。独裁というのは決して誰からも情報収集をせずに、誰からの意見も聞かずに決めるということではありません。

意思決定者が必要な情報を十分に集め、さまざまな角度からの意見を聞いたうえで決めることは意思決定の精度を高めるために非常に重要です。

しかし、そのうえで大切なことは、

 「良い意思決定」
 「正しい意思決定」

にとらわれすぎずに、

 「強い意思決定」
 「速い意思決定」

を意思決定者が心がけることです。

たとえば、今2つの選択肢からどちらかを選ぶという意思決定をしなければならないとします。多くの場合、どちらかを選ぶメリットの大きさとデメリットの大きさは拮抗しています。

 「レシーブ練習よりもスパイク練習が多いほうが良い」

というようなメリットとデメリットのどちらが大きいのかについて意見が分かれるようなことに意思決定は必要だからです。

 「チームのメンバーができる限りサボらずに練習に来たほうが良い」

というような明らかにメリットが大きいようなことは意思決定の対象にすらなりません。わざわざ誰かの決定など必要としなくとも、実行した方が良いに決まっているからです。

極論を言うと、どんなに最善の手を選んだとしたとしてもメリットが51%あり、デメリットが49%あるような意思決定ばかりだと言っても過言ではありません。決してメリット100%の決定なんてものはありません。どこかにデメリットやリスクを抱えているものです。特に集団活動においては。

だとすれば、どちらの選択にメリットが51%あり、どちらの選択にメリットが49%しかないのかということを思い悩む時間があるのであれば迅速に意思決定して、その選択自体が正解となるように力強くマネジメントした方がメリットは60%、70%と増えていくはずです。

ソフトバンクの孫さんはファーストチェス理論というものを意思決定時に用いていると言われています。ファーストチェス理論とは、ある程度熟練した者同士のチェスにおいて

 「5秒で考えた手」と「30分かけて考えた手」は、
 実際のところ86%が同じ手なので出来る限り5秒以内に打ったほうが良い

という考え方です。この考え方をもとにとにかく速い意思決定をしているといいます。

どうしても「正しい意思決定をしよう」「良い意思決定をしよう」として時間をかけすぎてしまいますが、意思決定者は上記のような考えを頭に入れ、「強く」「速い」決断を1人でやる、ということが大切です。

多くの意思決定がチームの中で賛成、反対の両方のメンバーが存在し、時に意思決定者は反対意見のメンバーのことを気にしてなかなか決められないという状況が発生しますが、反対意見を恐れて意思決定を遅らせることはチームメンバー全員を不幸にすることがあります。

しかし意思決定者は孤独を恐れず、チームのために責任を負いながらも意思決定していかなければなりません。

また、意思決定は意思決定そのものよりも、意思決定後に選んだ手をどれくらい着実に実行し、正解にできるかどうかが重要です。

ですが多くのチームでは、1人が意思決定したことについてメンバーたちが

 「本当はこちらの選択肢のほうが良かったのではないか」
 「何故、こちらの選択を選んでしまったのか」

というような不満を漏らし、きちんと実行がなされないということが起きています。意思決定者1人をつるし上げる"他責"によく見られる傾向です。

意思決定するまでに意思決定者に情報や意見を伝えたり、議論を尽くしたりすることはもちろん必要ですが、一度意思決定されたのであれば、その決定に対して「自分は本当はこう思っていた」などと考え、話すことは効果的ではありません。

もっといえば、その意思決定で成功するようメンバーは最大限努力する責任があるはずです。それを意思決定者1人の責任に丸投げしてしまうのはちょっと筋違いというものです(まぁそれでも意思決定自体が、成功の可否に大きな影響力があることは否めませんが)。

多くの意思決定には51%のメリットと49%のデメリットがあることをチームメンバーが理解し、意思決定者の決断を自分たちが正解に持っていく気概と行動が重要です。

独裁による意思決定を成功させるのは、意思決定者の決定だけでは成立しません。その意思決定を実行するチームメンバー全員の活動なのです。

 「反対や孤立を恐れずに1人で決めよ。
  そのうえでメンバーは意思決定者を孤独にするな。孤立させるな。」

と言うのは、チームにおける意思決定をするうえでとても大切なことなのです。

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