見出し画像

真の目標を明確化しない組織は弱い

「目標を確実に達成するのがいいチームだ」

目標が利益なら、利益さえ達成すればいいチームですか?
目標が受注なら、受注さえ達成すればいいチームですか?

はたしてそうでしょうか。

リーダー、マネージャー、上司、経営者が語る言葉の多くは、実は疑問に満ち溢れています。多くの人が抱いているチームに対して、多くの人が持っている誤解を1つ解いておきたいと思います。

ここで1つ実験をしてみましょう。
質問です。

「朝起きてから、今この瞬間までに赤いものがいくつありましたか?」

はい、この質問にはほとんどの人が答えられないのではないでしょうか。
しかし、もしもあらかじめ伝えられていて、今この時間に回答しなければならないと事前にわかっていたとしたら、ほとんどの人が朝から赤いものを数えて過ごし、きちんと回答できるはずです。

なぜ同じように1日を過ごしているのに、皆さんは今日突然聞かれると赤いものの数を答えられず、事前に明日赤いものの数を聞かれるとわかっていたら答えられるのでしょう。

朝起きた時と同じ目で、朝起きた時と同じ視力で世の中を見ているはずなのに、赤いものが目に入ってくるようになるのはなぜなのでしょうか。

それは「目的意識」の有無によるものです。

この現象を心理学では「カラーバス効果」と言います。

人間はある目的を意識すると、その目的に関連する情報をそれまで以上に認識するようになります。それくらい私たちの活動は目的意識に左右されるのです。進め方ややることに自由度があればあるほど、目的や目標の有無は大きく成功率に関わってきます。逆に、進め方ややることそのもの自体にあまり自由度がなかったり、あらかじめそれ自体が間違っていないとわかるようなものであれば(目標が定まっていれば)目的がズレていても案外問題が無かったりもします。


チームの活動は、チームとして掲げる『目的』や『目標』に支配されていると言っても過言ではありません。一般的にはチームとして何を目標に設定するかによって、メンバーの思考や行動は大きく変わっていきます。

画像1

その前提に立つと、

 「目標を確実に達成するのがいいチームだ」

これは必ずしも間違っているわけではありませんがそれ以上に大切なことは、

 「目標を適切に設定するのがいいチームだ」

ということです。「どうすれば目標を達成できるか?」と言う"手段"を考える前に、「どのような目標を設定するのか?」と言う"目的"により力を注ぐのが望ましいといえます。

よく、リスクの大きいプロジェクトや失敗が許されないプロジェクトなどは定期監視をされている企業も多いと思います。前職も一応そうなっていました(やっていたかどうかも、やり方が適切であったかどうかもわかりませんが)。

定期監視とはいわばマイルストーンです。

そうなった結果に至るプロセスを踏まえ、計画との乖離を測定し、その後の計画実現性を見定め、必要があれば計画を見直したり、進め方を変えたりする重要な分岐点となるポイントです。

一般的に「振り返り」というとプロジェクト終了時の面倒な作業だと思っているエンジニアが多いと思います。だから、まともに振り返りができている人やチームと言うのを、残念ながら私自身はまだ一度も見たことがありません(世の中にはたくさんいるでしょうけど)。

いつも、結果にばかり着目し、どんなにプロセスがイケてなくても

 「結果が良かったから、まぁいいかな…と」

で済ませようとする人たちばかりです。別に振り返りというのは、過去に対して褒めたり叱責したりする場ではないのですが、そうすることしか知らない上司が世の中に多すぎるのでしょう。

だから結果の帳尻さえあわせておけばいいや、と言う発想の部下ばかりとなっていくわけです。

ですが、振り返りは過去を語るものではなく、過去を正しく測定して未来に活かすためのものです。それが理解できていない人が多いがゆえに、「日本人はPDCAと相性が悪い」と言われているんですね。

結果の帳尻さえあわせておけばいいやと考えるから、計画を立てること自体が無意味なものになる(どうせ計画通りにしないから)。そのせいで、多くのプロジェクトにおいて計画は"ただの負担"と思っている人も多くなる…という悪循環になってしまっているわけです。

計画書なんてものも何となく作っているだけで、そこに書かれている内容を把握し、達成しようという活動に至っていないメンバーが殆どでしょう。リーダーやマネージャーがそもそも計画を重視していないのですから当然です。これもまた目的や目標を見失った弊害と言えるのではないでしょうか。


以前、プロジェクト計画書上の負担あるいは無駄なモノとして「目的とか背景とか…」と言われたことがあります。

エンジニアの目標は「モノを作ること」と言う目先のゴール以外考えなくていいということなのかもしれませんが、残念ながらそれではいずれロボットやAIに取って代わられる程度のエンジニアしか育ちませんし、今以上に高度なエンジニアリングを行うことは困難でしょう。

いえ、一人でできる規模の、一人ですべてやってしまうような活動なら出来るのかもしれませんが、集団活動…特に契約を結び、契約通りに完遂させる活動となると難しくなっていくのは必至です。

多くの人が、

 勉強においてはテストでできるだけ高い点を取る
 スポーツにおいてはできるだけ高い順位を取る

という「与えられた目標を達成する競争」に小さな頃から慣れ親しんでおり、自ら目標を設定するということには不慣れなのは仕方のないことかもしれません。

しかし、チームづくりにおいては「自分たちで最適な目標を設定する」という意識を強く持つことが非常に重要になります。プロジェクト活動そのものに『意義(目的)』がなければ、人は最適なパフォーマンスを模索できないようになっているからです。

たとえば、料理を作るにしても、提供する相手に、

 「なんでもいい」と言われるのと
 「オムライスが食べたい」と言われるのと

では作り手のモチベーションや意識に大きな差が出るのと同じです。「なんでもいい」と言われれば、冷蔵庫の中の余り物で適当な料理が作られるかもしれません。「○○がたべたい」と言われれば、「美味しい」と言わせてやろうと思い、具体的な努力の方向性が見えるかもしれません。

目的や目標の設定および普段からの心がけは、確実に結果に影響を与えます。けして無駄なモノでも、負担になるものでもありません。リーダーやマネージャーが、あるいはリーダーやマネージャーに任命した上司や経営者がそのことを理解していないだけなのです。

通常、「ツール」や「アプリケーション」ではなく「システム」と言う大きなものを作ろうと思った時、とても1人ですべてを作成しきることはできず、さまざまな人を巻き込んでチームで構築しなければなりません。

あなたが構築チームの一員なら、どの目標設定がいいと思いますか?

A どんなユーザーでもわかりやすいシステムをつくる
B 10%以上の利益が見込める見積りにする
C チーム全体の組織力を高める

「A どんなユーザーでもわかりやすいシステムをつくる」は行動レベルの目標設定です。行動レベルの目標設定とはチームメンバーが具体的に取り組むべき行動の方向性を示したものです。この場合は「どんなユーザーでもわかりやすいシステムをつくる」という行動を起こすことそのものが目標となります。

「B 10%以上の利益が見込める見積りにする」は自分たちの成果レベルの目標設定です。そう考えるとAはお客さま目線における成果レベルの目標設定と言う側面もありますね。成果レベルの目標設定とは、チームとして手に入れるべき具体的な成果を示したものです。この場合は「10%以上」という利益率の成果が目標になります。

「C チーム全体の組織力を高める」は意義レベルの目標設定です。意義レベルの目標設定とは、最終的に実現したい抽象的な状態や影響を示したものです。この場合は「チーム全体の組織力を高める」という意義が目標になります。

この3つのタイプの目標設定にはそれぞれにメリット・デメリットがあり、
一概に「どれがよい/悪い」とは言えません。通常は組み合わせて用いるべきものですが、目先のメリットに陥れば陥るほどBを選択するマネージャーが多いのではないでしょうか。

だって、会社から評価されてボーナスやら昇格やらに目がくらんでいたらそれ以外はどうだってよくなってしまいますものね。B以外に貢献したところで、上司は評価してくれないかもしれませんし、次の仕事に確実につながる保証もありません。そういう企業やビジネスにしてしまっている以上、リーダーやマネージャーがBに固執するのは仕方のないことかもしれません。

目先だけを考えれば。

「A」の行動レベルの目標設定には、チームメンバーが自らの取るべき行動を明確にしやすいというメリットがあります。言い換えるなら

 「日頃から、顧客のクレームや不満を生み出すリスクが大幅に減る」

と言うメリットです。これだけで日常における多少の失敗や不手際があったとしても、お客さまはすぐ怒るなんてことがなくなります。当然ですよね。私たちが誰のために努力しているかを日頃から見ているわけですから、その上でたまに失敗した点をチクチクついてくるようなことはなかなかできないでしょう。

「どんなユーザーでもわかりやすいシステムをつくる」という具体的な目標(ゴール)を提示されたメンバーたちは、世の中の成功したチームの事例について調査したり、ユーザビリティの法則を検討しあったり、といった行動をすぐに起こすことができます。

元来、チームビルディングにおいてはAの目標設定をするリーダー/マネージャーこそ慕われやすく、チーム力の底上げがしやすいと言われています。ゆえに新規に組み合わせるメンバー構成などの場合は、こうしたメンバーが具体的に活用しやすい目標設定が有効なのです。

逆に「C」の意義レベルの目標設定には、チームメンバーが自らの取るべき行動を明確にしにくいというデメリットがあります。「チーム全体の組織力を高める」という目標が提示されても、すぐにそのためにどんな行動を起こせばいいかを思いつくメンバーは滅多にいないでしょう。この目標設定だけではメンバー全員が途方にくれてしまうリスクもあります。


一方で、「C」の意義レベルの目標設定にはチームにブレイクスルーが起きやすいというメリットがあります。

「チーム全体の組織力を高める」という抽象的な目標があることによって、
「事例を交える」や「わかりやすく伝える」ということ以外の具体的なアイデアがメンバーから生まれる可能性があります。

「A」が比較的トップダウンアプローチに寄りやすい目標設定なのに対し、「C」はボトムアップアプローチによってチームビルディングを促しやすい目標設定と言えます。サーバント型リーダーシップを得意とする人は「C」の目標を設定し、メンバー中心に動かしてみるというのもいいでしょう。

逆に、「A」の行動レベルの目標設定にはチームメンバーからブレイクスルーを起こすようなアイデアは生まれにくいというデメリットがあります。「どんなユーザーでもわかりやすいシステムをつくる」という目標からは、その行動目標以外のアクションは生まれにくいはずです。

「B」の成果レベルの目標設定は、アクションのわかりやすさについても、ブレイクスルーの起きやすさについても、「A」の行動レベルである目標設定と「C」の意義レベルである目標設定の中間の効果があると言えるでしょう。

ただし、数値だけしか見ないようになってしまうといずれは数値の暴力に染まっていくことになります。評価基準が数値だけとなり、数値で見えない成果に対しては評価が低くなっていくのです。数値ではなかなか測ってもらえない領域にも様々な専門分野と言うものは存在するのですが、それを見ようとしない企業が出来上がってしまうわけです。

そういう企業では、隠れた優秀な人材は根付きません。

あまり高い評価を受けなかったはずなのに、その人が退職した瞬間、

 「組織が回らない」
 「今までやっていた取組みが無くなった」

といったような組織力の明らかな低下が起きていることはないでしょうか。他のことができているから大丈夫などと言ってもそれはただの空威張りでしかありません。明確に組織としてのあり方が歪な証拠なのです。

こうした組織をそのまま放置していると、最後には人の心すら見なくなってしまい、人心は離れ、離職者の増加やブラック企業化などにもつながっていきかねません。

3つの目標設定のうち、どれが自分のチームにとって適切かはチームを構成するメンバーの能力レベル、思考力や行動力によって変わります。

・能力や経験の偏り
 (ベテランや若年層がバランスよく配置されているのが理想)
・野心や属人性などへの執着
 (エゴが強く自己流を好む人は、否定的でチーム力の向上が難しい)
・学習意欲、成長意欲の低下
 (新しいものに対する貪欲さ、または抵抗感)

チームメンバーがみずから考え動くことができないというのは、一人前の社会人としては嘆かわしいことですが、もうしそうなるのであれば行動レベルで目標設定しなければパフォーマンスにはつながりません。

場合によっては行動をマニュアルレベルまで具体的に落とし込んだうえで、「何分以内にこのアクションを完了させる」というような目標設定をする必要があるでしょう。チームの地力を測るにはこうした目標設定の方が良いことも多々あります。

一方で、チームメンバーが自ら考え動くことができるのであれば、意義レベルや成果レベルで目標設定したほうが、パフォーマンスは生まれやすくなります。意義レベルや成果レベルの目標設定をすることで、その場その場に応じた臨機応変で柔軟な対応が生まれる可能性があるからです。

それが会社の職場であっても、
職場を超えたプロジェクトであったとしても、
学校の部活やサークル・ゼミであったとしても、
家族や友人との旅行や飲み会であったとしても、

チームとしてのパフォーマンスを最大化したいのであれば、このような目標の特徴を理解したうえで、自らチームの目標設定を適切にしなければなりません。どの抽象水準で目標設定をするのか、もしくは3つすべてに関して目標設定をするのかは、メンバーの能力レベルなどを見極めたうえで設定する必要があります。

いただいたサポートは、全額本noteへの執筆…記載活動、およびそのための情報収集活動に使わせていただきます。