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人はなぜ高額商品を購入するのか

機能性だけを考えれば、何百万円もするバッグや何千万円もする車は必要ありません。

しかし、わざわざ高額なモノを買おうとします。

なぜでしょう?

その答えは「アイデンティティ」にあります。
一般消費者の場合は"自分らしさ"のためと言ってもいいでしょう。

では、ITであればどうでしょうか。

機能さえ満たしていればなんでもいい?

そんなはずありません。

顧客のニーズには機能を中心に触れられていることが多いでしょうけど、その背景には必ず「ニーズに至る経緯」があります。そしてそうであるならばお客さまのニーズを正確に把握するマーケターでもある私たちは価格を決定する際、

 「顧客は何が欲しいのか」だけでなく
 「顧客はどんな人になりたいのか」を考慮する必要がある

と言うことを意味します。

もちろん「どれだけ儲けたいか」と言う目線でしか考えられないと言うのは論外です。

人はどんなときに、とんでもなく高い価格を快く支払おうとするのでしょう。その心理がわかれば心理をコントロールするだけで気持ちのいいビジネスが成立します。

実際、たとえば次のようなものに高額を支払う人はいます。

・好立地にある別荘。
・有名な超高層ビルの分譲マンション。
・デザイナーの名前が付いた高級なファッションアイテム。
・ロールス・ロイスのファントム

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ひょっとすると家よりも高い自動車をなぜ必要とするのでしょう。

なぜ軽自動車ではダメか。
セダンにしてももっと安いものでは妥協できないか、となります。

その答えはアイデンティティに他なりません。

このような商品を買うことにより、自分が何者なのかを自分で強く意識でき、他者にもその同じ認識を持ってもらうよう仕向けることができるのです。

わかりやすく言うと"金持ち"のステータスを持ち、周囲にもそう認識してもらう…ために購入しているのです。卑下たいい方をすれば、要するにただの「自己満足」と言うことになります。

これは単に高級品の性質であって、上述のすべてはその例にすぎないと最初に思うかもしれません。しかし一定のサイクルで変動する景気につられて、こうした高級志向は必ず巡り巡ってきます。

同じように、アンデンティティを強く象徴するものは、同じアイデンティティを持つ者を強く惹きつけます。

右に倣え的な思想を持ちやすい日本人は、流行などに流されやすい傾向がありますが、それでも個々人のアイデンティティは確かにあります。

そして、これはビジネスにおける商取引でも同じことが言えます。
幅広いビジネス分野にも当てはまることでしょう。

製品の設計や価格設定の際には「顧客は何が欲しいのか」だけでなく、

 「顧客はどんな人になりたいのか」
 「顧客はどんな会社にしたいのか」

を考慮することが必要です。
以前から何度も言ってきたと思いますが、IT企業とは厳密には「ITサービス産業」に属しています。パッケージ製品を作って、量産し、売りさばくような企業であれば概ね『製造業』と言って差し支えありませんが、そうでない以上は

 第三次産業の「サービス業」

に位置づけされていることを忘れてはなりません。
サービス業が提供するものは、

「機能」ではなく、「満足」です。
「モノ」ではなく、「コト」です。

一昔前に「コト消費」と言う言葉が流行りました。
経済産業省では"コト消費空間づくり研究会"まで立ちあがったほどです。

【モノ消費】
個別の製品やサービスの持つ機能的価値を消費すること。価値の客観化(定量化)は原則可能。もう少しわかりやすく言えば「商品・サービスの機能に価値を感じて使うこと」と言えるでしょう。顧客の窓口担当者≠システム利用者の場合、こちら目線で仕様が決定されやすいと言う側面を持ちます。
そうなると、受入テストや現地テストで仕様が大幅に変わることもよくあります。

【コト消費】
製品を購入して使用したり、単品の機能的なサービスを享受するのみでなく、個別の事象が連なった総体である「一連の体験」を対象とした消費活動のこと。「商品・サービスによって得られる経験に価値を感じて使うこと」を指していると言っていいでしょう。
こういうケースは非常に稀です。
超上流工程の中でもエンジニアからのたたき上げマネージャーなどではなく、コンサルタントに近い方がいればこうした目線でお客さまと会話が進むことが多いでしょう。

IT企業は、モノを作る会社であると言うことは知っていても、コトを売る会社であることを忘れる傾向があります。常にお客さまのアイデンティティに訴えかけることのできる"モノ"でなければ、"モノ"としてもお粗末ですし、"コト"としても不完全になると言うことを忘れないようにしましょう。

誤解しやすいのは、SIer/ベンダーなどが一次請けで入っているようなケースです。お客さま…と言っても、SIer/ベンダーの反応をみたところで無事黒字で収まったかどうかくらいしか気にしていません。

彼らから好評を得てもそれはモノ消費が上手くいっただけで、コト消費につながったかどうかは分からないのです。

エンドユーザーの反応ではなく、間に入っているベンダーの顔色だけしか見ていないと、いざと言う時エンドユーザーと直接取引するようなプライムの案件では大きな成果は期待できないでしょう。

なぜなら、利用者のアイデンティティを「満足」させること以外を価値基準としてしまっているからです。

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