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感動的な体験


宇宙一外食産業が好きな須田です。

今回は予定を変更して、昨日訪れたお店についてのお話しをさせて頂ければと思います。

マニュアルに関してのお話しは、次回に延期させていただきます、悪しからず。

さて、昨夜ちょっとした記念日のお祝いがあり、東京の用賀にある花邑さんという割烹に行ってきまいた。

このnoteに記事を書くにあたって、基本的に自分なりに決めていることがありました。

それは具体的な店舗名を表記しないという事だったのですが、昨夜の経験は素晴らしかったことに加えて、改めて飲食業とは、料理とは、商品とはということを考えさせられる経験だったので、お伝えしようと思い、料理長に許可を頂いて記事を書かせて頂きます。


昨夜訪れたのは用賀の割烹花邑さん。
今改めて口コミサイトを確認したら、3.74ポイントでTOP5000にもエントリーされていました。

やはり、人気のようです。

花邑さんは、オーナーの自社所有のビルの地下一階にある、15坪ほどのアットホームな割烹料理のお店です。

料理長の井田さんは、天皇の料理番としてテレビドラマになった、秋山徳蔵氏のお孫さんにあたる方で、お父様も料理人という生粋の料理人一家のご出身の方です。

井田さんの花邑さん以前のご経歴は一切に知らないのですが、どこで修業をしたとかということは、正直そこまであまり興味がないものですから、それよりも、今現在の技量の方を重視するものですから、経歴は今まで一度も伺ったことはありません。

初めて花邑さんにお邪魔したのは29歳の時です、ですからもう28年も前になります。

当時、ちょっとしたおもてなしをしなければいけないことがあり、用賀に住んでいたこともあり、近所で良い店が無いのか探っていた時に出逢いました。

初訪問した時の衝撃は今でも忘れられなく、出てくる料理がどれもシンプルでありながらも、素材の良さを慮った仕事がされており、旨味を十二分に引き出した料理が供されました。

失礼ながら最初の印象は、なぜ用賀にこの店があるのかと不思議に感じ、ここは都心の一等地の高級店かと見まがうほどの料理のクオリティでした。

初訪問にも関わらず一目惚れしてしまい、不躾なお願いをさせて頂きました。

「おもてなしの席を設けたいのですが、日曜にお店を開けて欲しいのですが、一人お幾らの予算ならば空けて頂けますか? お料理は全てお任せするので、お幾らならばお引き受けくださいますか?」


29歳の若造でしたが、初訪問でいきなり不躾なお願いをしてしまいましたが、それほどの衝撃を受けたということでもあります。

この初訪問の事は、今でも井田さんと女将さんと話しが出ますが、初めてお客さんでそんなことを言う方はいないので、でも、それほど気に入って頂けたのならばと、お受けすることにしましたと、笑い話しにして仰ってくださいます。


初訪問以来のお付き合いですが、もう気がつけば28年が過ぎていました。

もっと酷いことをお願いしたこともあって、仕事帰りに訪問して、


「井田さん、とりあえず出汁を一杯ください、今日の仕事で色々と試食をして舌が麻痺しているので、とりあえず出汁を一杯ください!お願いします!」


カウンター越しの叫んでしまいましたが、大笑いしながら出汁を恵んでくださいました。
珠玉の出汁を飲んでから、やっと落ち着きそれから「ビール!」、女将さんも笑っておりました。

何せ、わがままな私のわがままを全て引き受けてくださる、凄い店です。
美味しいのは勿論そうですが、凄いと感じてしまうほどの料理をお出ししてくださるお店です。

さて、昨日はお任せでコースを頂きました。

お任せでと言いますが、最初の頃は一品ごとにオーダーをしておりましたが、アラカルトメニューがまだあった頃のことで、ある日、他のお客様が何かを注文なさって、「えっ、今日それあるの? あるのだったら欲しいなぁ」と井田さんにお願いしたところ、「ありますが、須田さんにはお出しできません、普通の方にはお出しできますが、須田さんにはお出しできません」と、井田さんに言われたことがあり、それ以来一切のオーダーはしなくなりました。

ほどなく、コース一本のメニューになりましたが、今思えば、コース一本になったことも日曜営業になったことも、私がきっかけになったかもしれません。

日曜営業は私のわがままがきっかけと、女将さんから言われたことがあります。

さて、昨夜最初に出てきたのは、なんと大間の鮪の切り身でした。
恐らくは5kほどはあるかと思います。

井田さん曰く「須田さんが来るので仕入れて来ました。」

勿論立派な鮪でしたが、いわゆる大トロ中トロと赤身のバランスが素晴らしく、トロの部分がそれほど多くは無く、しっかりとした赤みが魅力的な鮪でした。

一般的には、大トロ中トロが喜ばれますが、鮪の美味しさはやはり赤身だと思います。

どんどん鮪の旨さをつき進めていったら、最後は赤身に到達するとよく言われますが、まさにそのようなトロの部分と赤身のバランスが素晴らしい鮪でした。

目の前で鮪を捌いて頂きましたが、その丁寧な手仕事を見ているだけで一杯飲めそうな仕事ぶりでしたが、お使いになっている包丁が凄くて、用途に併せて何本も使いこなしていましたが、どの包丁も手入れが行き届いており、光り輝いているのは勿論の事、切るにあたって全くストレスを感じさせることなく、鮪を捌いておりました。

昔は、閉店までカウンターでお酒を飲んでいる時もあり、店じまいをしている井田さんが包丁を研いでいるのをずーっと飽きずに見ていたものです。

私が余りにも長居をするので、「須田さん、そろそろ帰って!」と、何度も井田さんに言われたことがあります。

さて、コースの一品目は茶わん蒸しです。

茶碗蒸しとは、出汁の旨味を玉子でまとめた料理だと、若いころに仕事を教わったお店の料理長が言っておられましたが、まさしくそのような茶碗蒸しでした。

頭には透き通った餡が張っており、出汁本来の塩味と綴じた卵の塩味に、素材の旨味を感じられる逸品でした。

ぎんなんが柔らかさすぎずに、歯に対して一瞬主張をするけれども、すぐにほろっと崩れてくれて落ち着きの苦味と旨味を興じてくれます。

海老も下仕事をしたもので、茶碗蒸しの地と喧嘩をすることなく、でもちゃんとそこにいることを感じさせる味でした。

舌のあらゆる部分で茶碗蒸しを堪能しながら食しましたが、口のなかから食道へ流れていくときの香りがまた楽しくて、久しぶりにちゃんとした「これぞ茶碗蒸し」というものを楽しむことが出来ました。

お楽しみはその後で、すっかり空になった器の残り香が、これまた美味しくて、器に鼻を付けてずーっと香りを楽しみながらビールを飲んでいました。

次は、篭盛りの前菜たちでしたが、勿論丁寧な仕事なのは言うまでもなく、一品一品に趣向を凝らしたもので目にも舌にも楽しく美味しくて、季節を感じさせてくださる逸品でした。

これから始まるコース料理に、期待を抱かせる役割を十二分に果たしてくれる、まさしく前菜でした。

その中の一つに、チーズと海老をすりおろして、合わせて型に入れて固めた豆富のようなものが入っていました。

井田さんにこれはどのようなものですかと聞いたところ、「お客様とご一緒にあるお店に出向いて、そこで出されていた料理からアイディアをいただき、作りました」と返事を頂きました。

井田さんは、「来年還暦ですよ~」と笑っておられましたが、今でも定期的に色々な店に出向いて料理を勉強し、沢山のアイディアを集めていると仰られていましたが、本物はいつでもいつまでも勉強をするのだなと、感じ入り自分自身もまだまだ勉強しないと、と、決意もさせて頂きました、そんな一皿でした。

勿論そんなことを考えながら食べているとは井田さんはご存知ないと思いますが、同じ外食に携わっている身としては、勉強させられた出来事でした。

炊き合わせは安心の一皿で、それぞれの食材をその食材に合った出汁で炊いて、最後に一つの料理として完成させ逸品でした。

本当の炊き合せであり器の中でまとまりを感じさせる料理でした。

そして、いよいよ刺身が出て来ました。

先ほど柵に切り分けた鮪を、改めて目の前で切り分けて、次々と刺身へと変化させていきます。

変化させるという表現がピッタリとくるような、それぞれの切り身から、素材ごとの飾り包丁を入れることで、魚の身が刺身へと変化して行く瞬間を楽しませてくれていました。

恐らくそんなことを感じながら手元を見ているお客様はいなと思いますが、かつて海外のお客様と食事をしたときことを思い出しました。

その海外の方は「刺身って、言うなれば新鮮な魚の死体でしょ、なんで、火も通していない死体を日本人はあんな喜んで食べるの?」と質問されたことがありましたが、
きっと、今、目の前で井田さんが、魚の死体から刺身へと仕上げていく過程を見ると、日本人が食べてきた刺身が何たるかを理解できると思いました。

井田さんが使っている柳包丁がまた凄くて、恐らく20年以上は使用していると思いますが、先端は細く短くなり、研いで研いでの繰り返しで、そこまで細く短くなってきたのかと、完全に井田さん相棒なのだと思いました。

本当に道具を大切にする方だなぁと関心しました。

やはり刺身の花形は鮪ですね、旨味と甘み、そしてほのかな酸味、いつまでも噛んでいられる美味しい刺身でした。

牛のように反芻して食べたくなるほど、井田さんが調理した料理はどれも素晴らしくて、飲み込みたくないと、反芻したいと思わせる料理の数々でした。

食べてしまって無くなることが嫌で、一瞬食べることを躊躇するほど美味しい料理でした。

次は、真薯です。

私は、井田さんの作った海老真薯は世界一と思っておりまして、世界中の海老真薯を食べたわけではありませんが、世界中の空を見たことは有りませんが、空が高いことは理解出来ると同じように、井田さんの海老真薯は私の中では世界一です。

断言します!

海老の旨味、ふわふわの食感、あふれだす出汁の旨味、添えて出させるつゆも素晴らしくて、どれがぬけても成立しない完璧な完成度の海老真薯です。

「真薯の素を分離する一歩手前まで混ぜるんですよ」と、以前仰ってましたが、昨日もその話に触れたところ、「よくそんなこと覚えてますね!」と言われてしまいましたが、プロの方の一言は聞き漏らすことなく聞いております。

今日のお話しは、海老真薯を堪能したところまでにしておきます。

次回、井田さんとの会話の中と、昨日の体験を通して改めて、外食とは、料理とは、商品とは、おもてなしとはということに関して、気付かされ考えさせられたことをお伝えしたいと思います。

よろしければ、次回もお付き合いください。


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