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美味しくするべくして美味しく調理する

宇宙一外食産業が好きな須田です。

今回は、調理の基本に関してのお話しをさせて頂きます。

昨夜、コロナウイルスのこともあって、近所の飲食店の実情をリサーチしたくて出かけました。
駅前の大手うどん屋チェーンはほぼ満席状態、牛丼業態2店舗も7割程度の入りで、ハンバーガーチェーンはいつもの混雑ぶり、他に2軒あるどちらも国産のハンバーガーチェーンはパラパラといった状態でした。

そこで、駅前のこれまで2回ほど訪問したことがある焼鳥屋さんに行きました。
そこで提供された商品を体験して気になったことがあるので、シェアさせて頂きます。

その店は都内に数店舗展開しているお店ですが、業態は焼鳥と鶏料理の焼鳥専門業態です。
どのテーブルにも焼き鳥が乗っており、盛り合わせではなく単品で勝負をしている業態です。
客単価は4,500円程度ですから、串業態としてはスタンダードなお店です。


そこの焼鳥屋さんで出てくる商品で気になったことがいくつかあったのですが、それは、どれも塩の角が立っていて、味がしょっぱいのは勿論ですが、乱暴な味付けの印象を受けてしまって楽しめなったことです。

いくつかの商品を試しましたが、どの商品も塩味が強すぎて、帰宅後にお水をガブ飲みするということになってしまいました。

私もプロですので、印象の話しをしていてもしょうがないので、原因を探ることにしました。

そのお店の焼き手の動きを観察していましたが、焼鳥の塩がキツイ原因は塩の振り方にありました。

私も25歳から28歳まで足掛け3年ほど串焼き屋さんで働いておりました。
当時は丸鶏を一羽捌いて串打ちをしておりましたが、その経験から塩振りは「尺(しゃく)五寸(ごすん)」と教わりました。

「尺(しゃく)五寸(ごすん)」とは長さの単位で、一尺は33センチ、五寸は16.5cm尺五寸とはおよそ50cmですが、塩を振る時には鶏肉までの距離を尺五寸離しなさいという鉄則です。

理由は、この距離が塩を振る際に、一番均等に素材に満遍なく塩が乗るからです。
この距離だと塩をシャワーのように細かく振ることが出来ます。

肉と塩との距離が近すぎると、塩の着き方にムラが出来てしまい、それを回避するために何度も塩を振ってしまうことになってしまいます。

昨夜訪問したお店では大学生のアルバイト君が焼いてくれていましたが、ソルト缶を使って、肉との距離が15㎝ほどのところから振っていました。

しかも縦の串に対して横にソルト缶を振りますから、串の先から順番に串の元へと塩が振られていきます、その作業を裏表行いますから当然塩の量は多くなりすぎます。

その状態で塩を振りますから、横に缶を振った時に出てきた塩は全て床に落下していきます。
振られた塩の70%は床に食べさせています。

私は、串に塩を振るときは尺五寸で串に沿って振るように教わりました。
串の根元から先に向かって一往復、それ以上塩を振ると塩分濃度が上がりすぎてダメになると教わりました。

彼はそのセオリーからすると、真逆のことをやっていることになります。

焼鳥は調理法がシンプルな分、素材の特性がダイレクトに出る商品です。
都内の歴史ある名店で焼き鳥を食べると、本当に肉もふっくらとしていい塩梅の串を楽しめますが、キチンとしたセオリーなく店舗展開をしてしまった弊害でしょうか、昨夜の焼き鳥は残念な結果でした。

塩のこともそうですが、串打ちが最も残念で素材の中心に串が打たれていない状態でした。
先ほども申しましたが焼き鳥は調理法がシンプルなだけに、串と鉄球と火床とのバランスが大事になってきます。

串が中心にささっていないと、串と肉の表面の厚みと裏面の厚みに当然差が出ますが、これが焼きムラとして出て来ます。
肉が薄い方はすぐ火が入り、厚い方はゆっくりと火が入ります。

すると薄い方は火が入りすぎるのでパサパサになってしまい、食べた時の食感に違和感が出て来ます。

串打ち三年と言いますが、私も足掛け三年通って何とか真似事が出来た程度です。
本物の職人さんの足元にも及びませんが、理論と具体的な打ち方の指導は出来ます。

経験が無い方でもある程度練習すれば、お客様に十分提供できる串に仕上げることは出来ます。

この他に、このお店で砂肝を食べましたが、コリコリの食感はよろしいのですが、これもあたりが強すぎて、原因は、砂肝は味が乗りにくいので、タレの味を強くして塩味を補ってしまったせいです。
美味しくなる正しい仕込みのやり方は、砂肝の表面に細かく隠し包丁を入れることです。
隠し包丁を入れると味が素材の中まで入り込むことと、断面が増えるのでたれの着きが良くなります。

ほんのささやかな一手間で商品はもっと美味しくなり、無駄に味を強くしていた調味料の使用量も減らせます、塩の振り方を変えるだけで月間の塩の消費量は激減すると思います。

年間で考えて店舗数で考えると、原価が相当下がることにつながります。

昨日の経験から、調理の基本を理論ベースで浸透されていないこと、その状態で店舗展開をしてしまっていること、そのことがお客様に大きな価値を提供出来ない原因であることが、再認識できました。

昨日のお店は平均してどの商品も塩味が強かったのですが、原因として考えられることがいくつかあります。

一つ目は、味のジャッジをしているのは、どのお店でもほぼ経営者が行います。
その経営者の方の味の好みが、塩味の強い味が好きだと、その傾向の味付けになります。
その味がスタンダードとなり、マニュアル化していきます。
二つ目は、店舗の味を決める責任者の方が原因の場合です。
会社が決めた味は有りますが、店舗で味を決める責任者の方が塩味を強くしてしまっているのか。
これの原因は三つ考えられます。

そもそもその方の味の感覚がしょっぱいこと、マニュアルを無視して自分の感覚で調理をしてしまい、自分にとっての美味しい味をお客様に押し付けているのか。

次に、味見は通常ほんの少しだけで確認しますが、味見の量の段階で満足する味にしてしまうと、その商品全部を食べきると間違いなくしょっぱくなります。
味見のやり方の失敗かもしれません。

次は、意図的に味を強くしている場合ですが、理由はドリンクを売りたいがために。
しょっぱいものを食べると生理的に水分が欲しくなります。
その効果を利用してドリンクを売ろうとする狙いがあるのか。

でも、これはもろ刃の剣で非常に危険なことです。
美味しいという評判では無く、しょっぱい味の店という評判がたってリピートにつながらなくなる可能性が大いにあります。
ドリンクを売りたいがために間違った商品開発を行っている可能性が高いです。

そのお店はオープンから半年ほどは盛況な状態でしたが、どんどん客数は減って行きました。
原因は、味の方向性にあると思います、利用するお客様の年齢層と舌の感覚とお店が目指している方向性に差異が大きいようです。

このように幾つかの原因が考えられますが、大事なことは会社側にチェック機能があるかということです。

仮に経営者の味の好みが強かろうとも、そのことを指摘して経営者に売れる味、お客様に指示される味を指摘できる仕組みが有るのかが一番の問題です。

現場のスタッフの味を定期的に確認する仕組みがあるのか、そのことが大事になってきます。

チェック機能を持つことは、自浄作用として持っているべきことです。

調理全般をチェックできる、味の審判の出来るスタッフを雇用することは、やはり大事になってきます。

商品開発の段階でコンセプトを明確にして、味の設計図を作り、旨味・塩味・甘みなど味の基本の構成要素のバランスを決めることは重要になってきます。

商品の目的は、お酒が欲しくなるか、ご飯が欲しくなるかですが、この目的をきちんと果たせる商品なのか、見極める必要が有ります。
単純に美味しさのみを追求しても、そこには事業の発展性も売れる仕組みも見えて来ません。

売れる商品の要素の中には、必ず“美味しい”という要素が必要です。
美味しさの裏付けをきちんと担保して、お客様に価値ある商品を届ける、そのことが飲食ビジネスで最も大切な要素です。

そこに飲食店の存在価値も、信頼を勝ち取る要素も含まれています。

美味しくするべくして美味しくしてください。


全ての食材は、元来、「命」でしたので。

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