見出し画像

『熟成焼肉 格之進R+』での素敵な体験

宇宙一外食産業が好きな須田です。

さて、今回は多店舗展開についてのお話しをする予定でしたが、昨夜素敵な体験をしたのでシェアさせて頂きますこと、お許しください。

昨日訪れたお店の店主の方のご経験談から、きっと沢山の気付きをご提供できると思いますので、よろしければお付き合いください。

昨年末より、出版をサポートして頂いている方から、新年の催しをするということで出席依頼があり、昨夜その催しがあり出席してきました。

メンバーは起業家の方がほとんどでした、中には私のこのnoteの記事を読んでくださっている方もいらしたり、出雲の作り酒屋さんから美味しい日本酒をご持参くださった方がいたりと、多彩な顔ぶれでした。

場所は、六本木の熟成焼肉 格之進R+という焼肉業態のお店でした。
有名店なのでご存知の方も多いかと思いますが、3階の貸し切りカウンター個室をご予約して頂いておりました。

なかなか予約が難しいお部屋でしたが、確保出来たようで楽しい時間を過ごすことが出来ました。

私も、外食業界におりますので、オーナーの千葉さんのことは、お名前は予てより存じ上げてはおりましたが、お目にかかれるのは昨日が初めてでした。

初めて名刺交換をさせて頂いた時、物腰の柔らかいた気配り上手な方だなぁという印象でしたが、その予想を良い意味で覆される体験が、その後次々と展開していきました。

さて、その千葉さんのご経歴を少しご紹介したいと思います、それも昨日、千葉さんが淡々と、でも非常に面白くお話をしてくださったものですから、ご紹介させていただきます。
ただ、このお話の中にも起業家の方にはくみ取れることもあるかと思います。

千葉さんは、大学生時代に塾の講師をしていたそうで、学生アルバイトでありながら、大変大きな売上の成果を上げられていたそうです。
お話しを伺うと、このころより売上を上げること、マーケティングのことを勉強なさっていたとのこと、セールスの大事さをご理解なさっていたようです。
大学卒業後はそのままその企業に就職してと、お考えだったようですが、最終的にフィルムを扱う会社の系列会社に入社されたそうです。

企業にお勤めの間も、ダイレクトマーケティングのことを勉強なさっていたそうで、このダイレクトマーケティングの時代が、何れやって来ると確信をしていたそうです。

時代が証明していると思いますが、実際にダイレクトマーケティングの時代はやってきました。

ほどなく、そこを退職なさって、ご実家が畜産業を営んでいらしたので家業を手伝ううちに、大きな気付きがあったそうです。

それは、実家は生産者でありいわゆるメーカーだ、食肉を生産して販売出来る、そういったポジションにいることに、ハッと気づかれたそうで、その気付きが起業をする大きな転機となったそうです。

その後はご存知の方も多いと思いますが、焼肉業界では今ではスタンダードになっていることを、次々と先駆者として行ってこられました。

それでも、これまで順風満帆に来られたわけではなく、開業当初は相当なご苦労をなさったとかで、その大きな理由が、当時焼肉業界では常識とされていた、韓国発症の焼肉に関する常識が全く無かったそうです。
そのため、肉の扱い方からタレに関するまで自己流で、一から勉強をしてきたと仰っていました。

昨日お話しを伺っていて、いくつか共感できたことがあって、その一つに生産者が値段を決められない日本の農業の仕組みについてのお話しでした。

一般的な業種であれば価格の決定権は生産者サイドにあり、生産者が価格を決めます。
当然メーカーとして、製品化するまで開発コストと生産コストと利益を鑑みて売価を決定しますが、農業に関しては、この当たり前の仕組みが当てはまりません。

農業の生産品の価格は市場が決めます、市場で競りによって決められます。
製品化されるまでに投資した資金もコストも関係なく、市場で買い取り価格が決められます。

ある意味価値に見合った正しい価格設定という見方も成り立ちますが、原価と利益というビジネスでは当たり前のことが、農業では通りません。

私は生まれも育ちも北海道なので、知り合いに農業関係者が多くいます。
後輩にも畑作農家の3代目がおりまして、彼の畑の規模は東京ドーム13個分ありますが、10代後半よりこの価格設定の話しはしてきましたが、一向にシステムは改善されて来ません。

今彼は、北海道の農家の代表のようなものを任されていて、頻度高く霞が関に陳情に来ております。

外食産業にとってもこの価格の決め方は大きな問題で、市場の競り値で仕入れ価格が大きく乱高下する場合があります。

品薄になれば、B級品が高値で流通することもあり、利益率を圧迫する原因となります。
肉牛を生産なさっている千葉さんとしてのお考えを仰っておられましたが、全くもって同感出来る内容でした。

格之進さんは、岩手牛を扱っていらっしゃいますが、30か月の月齢で出荷なさるそうです。
種付けして飼育し出荷してお金になるまで、4年かかると言っておられましたが、その間のコストと手間を考えるとねぇと、仰っていましたが、生産者としてのご苦労と命への感謝を改めて感じるお言葉でした。

さて、格之進さんはコースで供されるスタイルです。
前菜が数種類あり、徐々に焼肉になっていきますが大きな特徴は、お客様は一切肉に触れないこと、自分で肉を焼くことは一切まかりならなく、全て千葉さんが丹精込めて焼いてくださいます。

そこで、マーケティングの勉強をなさっていた真骨頂でしょうが、非常に上手にお肉の写真を取ることをおすすめなさっていました。
「さぁ、お写真を撮影なさる方はどうぞ」と言って、時間を割いてアングルを調節して撮影を押すすすめしていました。
普段私が多くの飲食店の方に提案していることを、千葉さんはなんの違和感もなく楽しんでなさっていました。
しかも肉をご自身の顔のすぐ近くに置いてポーズを取り、自らが広告塔になるようになさっていました。
アパホテルやジャパネットタカタさんが行っている、社長自らを商品化するやり方をなさっていました。

広告を勉強なさった成果がいかんなく発揮されており、千葉さんはSNSに投稿してくださいとは一言も仰っていませんが、恐らく多くの方がSNSに写真を投稿することは容易に想像が出来ます。

今の時代、お店は意図して写真を撮影して頂くようにすること、社長・店長は自ら広告塔になることは、非常に重要だと思います。

千葉さんは実直に行っておられました。
又、名刺交換もスムーズになさっておられ、お客様お一人一人とご挨拶しておられました。
名刺交換の後は、メッセンジャーでつながり、その場ですぐに個人的にメッセージをやり取りしてお客様と繋がれるようになさっていました。

このやり方も、お客様を効果的に囲い込む一番のやり方ですが、千葉さんのお人柄のなせる業とも思いますが、本当に自然になさっていました。

世の飲食店の経営者と店長の方々も、このようにスムーズに名刺交換とオンラインでのつながりを作ることが出来ると、もっとお客様にとって近い存在になれると思います。

渋谷の韓の台所の肉番長も同様なことをなさっており、今では韓の台所はイエルプとトリップアドバイザーで、日本一になっています。

千葉さんが肉を焼く姿は探求者そのもので、後姿はまるで科学者のようでもありました。
それを裏付けるかのようなアことがあり、私が気になったことがあり肉を焼いている最中の千葉さんに話しかけたところ、全く耳に入ってなく恐ろしいほどの集中力で肉を焼いていました。

「私は肉を焼いている間は、肉の声を聴いているのでお客様の声は聞こえません、肉に引き込まれているんです」と、仰っていました。

ここまで、肉を焼くという一点に集中している姿は探求者そのものでした。

非常に興味深いことをおっしゃっておられましたが、肉を焼くときに繊維の蓋をしながら焼いていると、肉には筋肉の繊維な流れがあり、その流れを見ながら焼き目を付けていると。
繊維に直角の面は肉汁の流れを塞ぐように焼き、それ以外の面では肉汁が肉の中で対流するようなイメージで焼くそうです。

“水風船理論”と仰っていましたが、これは千葉さんが命名した理論だということです。
ついでに、肉の片面をきっちりと焼き肉汁を閉じ込める“プール理論”という焼き方もあります。
これも千葉さんが開発し命名した理論だそうです。

過去に肉のダメージを最小限にして焼くと言った凄腕のシェフがいましたが、全く同じ理論で同じ動きで焼いておりました。

一面ごと低温でじっくりと焼き、少し休ませては肉汁を安定させ又焼いてを繰り返し、塊肉をお20分ほどかけて本当にじっくりと焼いていました。

塊肉はカットして提供されますが、驚くのは肉をカットしたまな板に肉汁が出ていないこと、まな板にはほとんど肉汁が出ていなく、口に肉を入れて数回噛んだだけで口中は肉汁でいっぱいになりました。

次に、炭火に関してもどのようなお考えなのかも伺いました。

よく肉は炭火で焼くのが一番美味しいと言われますが、格之進さんはガスの無煙ロースターで焼いていましたので、炭火は選択肢に入らなかったのかを聞いたところ、予想通りの答えが帰ってきました。

炭火で焼いた肉は確かに美味しいが、炭火の温度管理が非常に難しく、特に一般のお客様が焼くには炭火は難しすぎると、それなら同じ火力・熱量のガスの方が安定して焼き上げることが可能だと仰っていました。

格之進さんはお客様が自分で焼くことは有りませんでしたが、他のフロアーではお客様が焼くようですので、熱源を統一でなさったと思います。

私の経験からも、炭火の扱いはある程度の技術が必要と思います。
私は20代のころ焼鳥屋さんで、炭火で焼き鳥を焼いておりました。
そのお店は、ディナー帯は備長炭をランチ帯は加工炭を使っていましたが、炭火は火力調節が大変で熱量が一定ではないので、熱量の高低を確認しながらそれに合わせるように、焼き台の左右で焼く場所を素材ごとに変えながら焼いておりました。

ですから、一般的に言われる炭火で焼くのが一番美味しいとは、技術の裏付けが必要ということです。

千葉さんとお話しをさせて頂き、最終的に料理とは化学の分野に到達して行ってしまうと感じ、組織の事や旨味成分、化学変化と時間変化、食感や水分の含有量など化学的なことに到達するけれども、それだけではないやはり職人の勘とかなんとも表現出来ない技術とかになっていくような気がしました。

塊肉を焼いている時に伺ったのですが、芯温はやはり60度以下を意識しておられるとのことで、当然のことながらきちんとした理論に裏付けされたお仕事をなさっておられました。

格之進さんは単なる焼肉業態というよりも、もう一歩進んだ美食学を追求したような業態に思えました。
ですから、多くの方が格之進さんに魅了されて、守破離の守の部分を行う料理人さんが多く現れたのだと思います。


料理をしている方ならば、千葉さんが肉を焼いている姿を見ると、色々と確認できる、真似ることが出来るところが沢山あると思います。

たまたま生産者の家に生まれ、肉牛を扱うお立場ではありましたが、千葉さんの肉に対する情熱と肉牛への愛情が作り上げた業態の様に思えました。

美味しいは勿論でしたが、それ以上に楽しい時間を過ごすことが出来ました。

最後に、恐らく昨日食べた総グラムが400gはあったと思いますが、食後に全くもたれないという経験が出来ました。
段々と年齢的なことも加味して、霜降りのお肉が胃に重く感じるようになってきましたが、昨日はそのようなことが全く無かったです。

焼く前の肉を見ても、赤身と脂のバランスがいい感じの霜降り具合でした。
30か月で出荷されるので、体重が300キロぐらいにしか育っていないそうで、霜降りの程度もイメージして飼育しているそうです。

これも、畜産農家の方々の素晴らしい技術の裏付けと思いました。

素材の特性を見極めるのが料理をするものとしての命への礼儀と思いますが、生産者の方々も同様のお考えで美味しく食べてくれるように、飼育していることに改めて敬服した夜でした。

私はかつて、北海道でマタギをしておられる方とお話をする機会がありましたが、熊なり鹿なりを仕留めた時は必ず山の神に感謝し、仕留めた獲物を余すことなく美味しく頂くと、命を頂くと仰っていました。

美味しく食べることは命を慈しむことになり、美味しく食べないことはあただの殺生になってしまうとも、仰っていました。

我々飲食業に従事する者は、命の大切さを大事にしていく必要が有ること、もっと多くの方に啓蒙することの大切さを再認識した体験でした。

さて、次回はお約束通り、多店舗展開についてお話しをさせていただきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?