見出し画像

星の飼い方

しぃぃ、あまり大きな音を立てないでくれるかい。星が驚いてしまうから。

……え、どういうことって?

知らないのかい?
星はね、飼うことができるの。

手に入れるには月光の弱い夜がいい。明るいと縮こまって、隠れてしまいがちだからさ。
てのひらにすぽりと収まるサイズの硝子瓶を用意して、細かく砕いた水晶を入れておくんだ。それを持って、静かな屋外でオルゴールを回しているうち、気がつけば瓶の中にふわりと浮いている。小さくてきらきら、可愛らしいよ。

食事は適宜水晶を補充するか、蛍石を与えてもいいんだ。ただし、月長石は毒になるので注意すること。
彼等、同じ夜空にいるようでもね、それ故の相容れなさみたいなものがあるんだって。むつかしいね。

それでね、自分だけの星を飼っていると名前をつけたくなるでしょう?
でも、ひとつしか手元にいないならばそれは禁止。名前を与えられた星は、誰か別の子と繋がって星座になれないと、耐えかねて消えてしまうんだ。
複数いるならきちんと名前をあげてね。繋がって、部屋の中で小さなプラネタリウムを作ってくれるよ。

それと、ずっと狭い場所に納めておくと退屈に浸って輝きが弱まってしまうから、室内が限度だけど、時折は散歩、……いや、散浮させてやること。時間帯は夕方から夜明けにかけてが望ましい。ひょんなことで夜天蓋が恋しくなって帰ってしまうことがあるけど、そのときは追いかけたらだめだよ。

飼う、とは言うけど。
少しの間そばにいてもらう、と言ったほうが正しいのだからね。

またね、って手を振ってあげるの。
ちゃんと懐いてくれていたら、次の流星群には遊びにきてくれるかも知れない。

あとは、そうだねぇ。

星たちは時折、雨に紛れてぱらぱらと地上に落ちてくるよ。
そうしてたくさん集まってきたときは、等級ごとに程よい大きさのシャーレに入れておくといい。濃く作った砂糖水を、ひたひたになるまで注ぐときゃらきゃら喜ぶ。
耳を澄ませると、ソーダ水の泡が弾けるような歌声が聞こえてね。空が透明になる時間帯にぴったりさ。

……そうして。

夜明かりの窓際に置いておく硝子瓶は、ある日、ふつりとからっぽになっているものでね。
さっきも少し話したけど、星を飼い続けるのはひどく難しいんだ。殊に、予期しないときに願いが叶ったならばそういうわけ。

頼んでないんだから、そんなに無茶しなくってもいいのにね。星たちはとても優しいから、叶えたがるの。

空になった瓶はなるべく細かく砕いて、薄布に包んで庭に埋めておく。すると深夜、かつての飼い星がくるくる、屋根の上を旋回するようになるんだ。もう帰ってくることはないのだけどね。

この子はいつまで、ここにいてくれるかな。

……ん? もう帰る?
ああ、早速きみも星呼びするんだ。
確かに今宵はなかなか良さそう。

素敵な出逢いがあるといいね。
じゃ、また。


ここまでお読みくださり、ありがとうございました