誰もが忘れ物をしてしまうから

2年ほど前にもらった詩を
繰り返して読む
憶えていますか
いないかも知れないけれど
あのとき花が咲いたのです
今、つま先をなでる指先には
祈りを抱えています


ひかりを探している
もう香りを失った金木犀の樹に
引っかかっている気がした
包もうとした手のひらは
とても小さく思えて
迷子になってしまうあなたの
温度も握れないかも知れない


空気が澄んでくる季節
よく染まった果実を手に取り
くちづけるしぐさを
ひとつ、愛と呼びたい
もう少しで待ち合わせの時間
半分に欠けた月の裏側で
ふたり、踊っていよう


甘い香りは夜によく馴染む
花の姿が見えないから
思い出を足元で燃やす
少しずつ傾いていく季節には
誰もが忘れ物をしてしまうから
少女が繭になったら
待っているねと約束を編みこむ


雨の匂いにつられて
透明な尾ひれの熱帯魚が
するりと目から泳ぎだす
ランドセルを揺らして走っていく
少女の背中でふわふわしている
やはり透明なつばさを
追いかけるようにしていた


ここまでお読みくださり、ありがとうございました