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「過去未来報知社」第1話・第25回

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>>第24回
(はじめから読む)<<第1回
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「とりあえず、住民の皆さんが困っているので、とっとと仕事を再開してください」
「仕事じゃないってのに……」
「どうせ外にやることもないんでしょ?
 大家の仕事だって、ネコさんに任せっきりだって言いますし。大体……」
 笑美は部屋を見渡す。
 六合荘の奥まった場所にある大家の部屋は、
 住宅地とは思えないほど静かで木々の葉ずれと小鳥の声しか聞こえない。
「こんな所に1人で閉じこもっているから、まともに人の目を見て
 話ができなくなるんですよ! もっと人前に出るべきです」
 大家はボリボリと頭を掻く。
「そんな風に、よく考えもしないで他所のことに首を突っ込むから
 あんたは色々面倒なことになるんだろ。 
 今、この街にいる理由を考えて見ろよ」
「……え」
 ぎくり、と笑美は身体を強張らせた。
「目先の問題、目先の利益、そればかりを解決しようとするから、
 後々厄介なことになる」
「あなた……まさか……」
「……なんてことを言うと、皆ころり、と俺に何か超能力があると簡単に思い込む」
「って、適当かい!」
 黒灰ゴマ猫のノミとりをはじめる大家。
「やる気ゼロ、だな。
 今まで無理矢理やらされていたのを、これ幸いと辞める気満々だ」
「どうしてそんなに仕事したくないんですか~。 しましょうよ、仕事。楽しいですよ」
「お前らが言うところの"俺の仕事"は、役場の就業率にはカウントされない筈だ。
 俺が過去未来報知社で何をしようと、社会的には数字ですら認識されない」
 大家が喉を撫でると、黒灰ゴマ猫はゴロゴロと喉を鳴らした。
「人間ってのは面白いもんで、同じ動物でも
自分と同じカテゴリーに入るか入らないかで仲間かどうかを分類する。
 そのカテゴリーは『0』と『1』。つまりは自分と同じかどうか。
 同じなら『1』、違うなら『0』。そうやって判別する。
 俺は、どうもそういうのが嫌いでな」
 黒灰ゴマ猫は大家の膝で大きく欠伸をする。
「だが、猫は違う」
 窓の隙間から数匹の子猫が顔を覗かせる。
 茶斑の猫が室内の匂いをかぎ、ひょい、と窓枠を飛び越えてくる。
 他の猫もそれに従う。
「猫の関心ごとはただ一つ。『今』、自分が興味があるか、ないか、だけだ。
 たとえ自分と違うカテゴリーだって構わない。種族の違いも気にしない」
 子猫たちは大家の足元をぐるぐると回りだしたかと思うと、
 丸くなって眠り始めた。
「今しか認識しないから、
 起こりもしない未来に恐怖もしなければ、過去を後悔したりもしない。
 それは、生きていくうえで意味がないことだからだ」
「未来を心配しないし、過去も後悔しない……」
「だから」
 大家はぐっと拳を握り締め胸を張る。
「俺は先々を心配もしないし、
 特にこれといった仕事をしてこなかった過去にも後悔はしない。
 だから、人間と関わる必要もない」
「仕事、してください。それと、猫を怠惰の理由にしないで」
 にっこりと、しかしきっぱりとネコが釘を刺す。
 大家はふん、とそっぽを向いた。
「この通りの人間嫌いでして。困ったものです」
 ネコが笑顔のまま首を傾げる。大家は吐き捨てるように呟く。
「人間なんて嫌いだもんねー」
「猫が好きなわけでもないくせに」
『えっ?! そうなのっ?!』
 笑美と男の声がはもる。
 ネコは「困ったものだわー」と再び言って頬に手を添えた。
「猫にはやたらと好かれるのですわ。
 つまり猫に『興味をもたれる』生物なんです。
 特に猫好きなわけではないですよ、
 子どもの頃は猫が擦り寄ると飛び跳ねて逃げてましたし」
「えーと……。じゃあ、さっきの猫よりな発言は」
「自分を正当化するために今思いついたんだと思います」
「あー! 忙しい! 猫のノミ取りは大変だなぁ!」
 わざとらしく大きな声で言って黒灰ゴマ猫の背中をいじりだす大家。
 フギャッ! と声をあげて黒灰ゴマ猫が膝から逃げ出す。
 足元の子猫たちも飛び起きて、窓から逃げ出していく。
「……ほらね」
「うるさいなぁ」
 わが意を得たり、という顔のネコに膨れる大家。
「あー言えば、こー言う……。
 なんでこんなのに相談したがる人がいるんだろ」
 笑美は西畑の「ご愁傷様」と言いたげな顔を思い浮かべ、
 大きくため息をついた。

>>第26回

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涼廣

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