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「過去未来報知社」第1話・第27回

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>>第26回
(はじめから読む)<<第1回
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「何ですが、その格好」
 ぬぼっと目の前に立った男の姿を見て、笑美は盛大に吹き出した。
 胸に黄色いひよこのアップリケがついたピンク色のエプロンに、
 さくらんぼが散りばめられた三角巾を頭に巻いてハタキを手にしている。
 六合荘に帰ってきた笑美を出迎えたのは、そんな巨大なおさんどん姿の男だった。
「この身体を遊ばせておくのは勿体無い、だそうだ」
「ちょ、ちょっとやめてくださいよ」
 長身を生かして天井の煤払いをする男。
 頭上から降り注ぐ埃に笑美はむせこんだ。
 その手をばし、と掴む後ろから伸びた手。
「……なんだ」
「いや、なんか、動いている物見るとさ」
 迷惑そうに顔をしかめる男に、三宅がぽりぽりと頭を掻く。
「あ、今日もこれ、買ってきたんだね」
 笑美の手にしたコンビニ袋に飛びつくと、三宅は中を覗き込んだ。
 中では買ったばかりのウィンナーが湯気をたてている。
「これ、好きなんだな。いっぱい買って」
「そうなんですよ。ここのがやっぱり一番美味しくて。
 六合町にもこのコンビにチェーンがあって嬉しい……って。
 なんで私が昨日もウィンナー買ってること知ってるんですか」
「いいじゃない、もーらい!」
 袋から1本抜くと、三宅はかぶりついた。
「あー!」
「いいじゃない。ネコさんにも会えたし、大家とも喋れたし。
 ご褒美、ご褒美」
「確かに三宅さんの言ってた集会? ですか? 
 あれでネコさんに会えましたけど……。
 でも、あれって三宅さんのお手柄でしたっけ?」
「細かい事は気にしない」
 片目をつぶってウィンクする三宅。
「あれ?」
 一瞬、三宅の目が金色に光った気がして、笑美は目をこする。
 よく見てみると、何の変哲もない黒い瞳である。
「で、結局ここに住み着くことになったわけ?」
「あ、いえ。とりあえず昨日は泊めてもらったけど、
 今日までってわけには。とりあえずお礼を、と」
 コンビニ袋を持ち上げる笑美。
「で、ウィンナーか?」
「美味しいじゃないですか。
 で、あなたは、ここに住むことになったんですか?」
 男を見ると、男はハタキで首の後ろを掻いた。
「いや、多分、違う」
「多分?」
「多分、忘れられてる」
「は?」
「多分、もうあの部屋に住んでると思われてる」
「……いや、いくらなんでも、それは」
「あー、そうかもね」
「はあ?」
 三宅の暢気な声に笑美はぱかん、と口を開ける。
「だってさ。私がここに住み着いた経緯がそんな感じだもん」
「……え?」
「あらあら、皆さん、お揃いで」
 白い割烹着を着たネコがパタパタと歩いてくる。
「あ、ネコさん。昨日はどうも……」
「笑美さん、お帰りなさい」
「……え?」
「お帰りなさい。家はまかないもやってますけど、どうします?」
 ……あらあら」
 ネコは笑美の手にしたコンビニ袋を取り上げる。
「若いお嬢さんはすぐにこういうのに頼っちゃう」
「あ、いや、それはお土産……」
「はい、あなたもまかない決定ね」
 有無を言わせずネコはまたパタパタと走り去る。
「あ、あの、ちょとー!」
 さしのばした笑美の手が、虚しく宙を掴む。
「ほらね」
「結局、ネコの気の向くまま、なんじゃないのか?」
「えーと……」
 伸ばしたままの笑美の手を三宅が握る。
「よろしくね、お隣さん」
 六合町の中心、六合荘の住民となった笑美だった。 

>>次回お楽しみに!

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「過去未来報知社」第1話・第27回

涼廣

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