見出し画像

「過去未来報知社」第1話・第37回

>>第36回
(はじめから読む)<<第1回
--------

「なんなの、なんなの、なんなの!」
 身に染みるほどの冷気を肩で切りながら、笑美は競歩のような足取りで進む。
「年寄りだから? 町民だから? 人の心にズカズカ土足で踏み込んで!」
 角からうっかり出てきた黒猫が、慌てて道を譲って身をすくめる。
 妙に上気する頬をさらに赤く染めながら、
 笑美は誰もいないことを良いことに怒鳴り続ける。
「大きなお世話だっての! 私がどうやって生きていったって、関係ないでしょ!
 なんなの、田舎のお節介? 人を思いやることで自分を善人だと思いたいの?!」
 立ち止まり、笑美は空に輝く月に叫ぶ。
「その思いが、重たいってーの!」
 びしっ、と月を指差して言い募る。
「あんたの思いたいことと、私が思われたいことが同じだと思ったら大間違いよ!
 大上段に正論掲げて人に押し付けないで! 傲慢よ! 暴力よ!」
 すでに三隠居のことは忘れていた。
 空に輝く月も、笑美には「あの人」の迫り来る顔に見えていた。
 すうっ、と大きく息を吸うと笑美は叫んだ。
「いい加減、私を押しつぶそうとするのはやめてよー!」
 くらっ、と眩暈を起こし、笑美はふらついた。
 その肩がガシッ、と暖かい手で支えられる。
「気が済んだか」
 見上げれば、慶太が涼しい顔で見下ろしていた。
「……くらくらする」
「そりゃ、あれだけ叫べば酸欠にもなるだろ」
 慶太の顔が妙に歪んで見える。
 笑美は目をしばたいた。
「……飲んでたんじゃないの」
「忘れ物」
 慶太は片手に持っていたダウンジャケットを笑美に羽織らせる。
「あなたのじゃないですか」
「細かい事は気にするな」
 つきかえそうとした笑美だが、腕に力が入らない。
「あれー?」
 世界が回る。
 遠くなる意識の中で、慶太の声が小さく響いた。
「ったく。酒に弱すぎるのも考え物だよな。
 ノンアル飲料でここまで酔えるもんかっての」

>>第38回

--------
(「ノート購読」は「投げ銭」扱いで設置させていただきました。
 全文無料ですので、今回の連載はここまでですが、
 投げ銭いただけますと、作者のモチベーションが更にあがりますw)
--------

この続きをみるには

この続き: 0文字

「過去未来報知社」第1話・第37回

涼廣

100円

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
本と音楽が好きです。