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創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」13話 絵美とジョニーと周りのひとびと

12話のあらすじ

緑の肌の小さな宇宙人、リトルグレイにVR(仮想現実)の夢の中で宇宙船を借りたジョニーは、火星の個人コロニーから広大な空へと遊びに行った。そして、ジョニーのガールフレンド、絵美は彼とVRの中で遊ぶために、普段はあまりやらないドリームゲームをやってみることにしたのだった。ここからは絵美の記録。

13話

日時: 2222年2月17日 天使のささやき記念日(火星自然創生コロニーにて)

記録者: 絵美(エミ)  マイジェンダー: やや女性 16才

出身地: 日本  趣味: ネコとたわむれること


ジョニーと遊ぶ約束をした時間になったので、あたしはベッドルームのVR(仮想現実)を楽しむ機械、ドリームゲームのヘッドギアをかぶって横になった。

「やあ、絵美!」

ピカピカと光るUFOがベッドルームに着陸して、そのなかからジョニーが出てきた。

「あれ? これって夢のなかなんだよね、ジョニー?」

「そうだよ、現実世界では、ドリームゲームを使って意識をつなげている僕らがベッドで寝ている状態のはずさ」

「すごい! いつもの世界と変わらないみたいだね」

「うん。さあ、UFOに乗ってよ。あっ、帰るときに必要な『コミュニ・クリスタル』は忘れないでね」

「はーい」

あたしはポニーテールを留めているヘアアクセの万能通信アイテム『コミュニ・クリスタル』が、このドリームゲームのVRの中でも付いていることを確認してUFOに乗り込んだ。

「あれっ、フロンティア・ロボと作りが同じ」

「すごいよな、僕らに合わせてUFOをほとんど同じ仕様にしてくれているんだよ」

「そうなんだ」

「じゃあ、上昇するよ? まずは、火星の最大の火山、オリュンポスを見に行こう」

「うん!」

あたしとジョニーを乗せたUFOはベッドルームの天井を抜けて、外に出た。外は、まずまずの快晴だ。半円形のスクリーンモニターであたしたちが暮らす火星の平原が見渡せた。本当なら大気がとても薄い火星は、強い放射線がじかに降り注ぐ極寒の地表のはずだけど、UFOの中はとても快適。

「速度を上げるよ」

ジョニーが、火星の移動手段であるフロンティア・ロボとほとんど同じ作りの、速度を上げるアクセルを踏んだ。

しばらく空を飛ぶと、目の前に富士山よりも、もっと大きな火山が見えてきた。標高約25,000メートル。太陽系最大の火山、オリュンポスだ。火山の窪(くぼ)んだところ、カルデラには富士山がすっぽり入ってしまうというスケールの大きさ。あたしたちが火星で使うフロンティア・ロボでは、放射線を防護するために窓は無く、カメラを通した画像を「コミュニ・クリスタル」で映して外の様子を確認するから、こうして360度、広大な火星の光景を肉眼で見渡せるのは、とても新鮮な気持ちだ。

「ジョニー、地球にも火星にもオリュンポス山ってあるんだね」

「そうだね。どっちのオリュンポス山にも、神さまは住んでいなさそうだけど」

「分からないよ? あたしたちが目で見る世界ではただの山かもしれないけれど、それでも、古くから日本では富士山とか、御嶽山とか、それぞれの山に神さまがたがいらっしゃるって考えられてきたから。ギリシアのオリュンポス山も、火星のオリュンポス山も、あたしたちが見えないだけで、神さまがたが守ってらっしゃるのかも」

「ははは、それなら例えばジュピターが、火星とか地球のオリュンポス山にいるってことになるのかな? 聞いてみようか」

「うん」

ジョニーが「コミュニ・クリスタル」を使って、ジュピターを呼び出した。

「おお、その後うまくいっとるようじゃのう」

UFOの360度スクリーンモニターに、髭と髪がとても長い壮年の男の人が現れた。

「その際はお世話になりました、ジュピター。今日もそんなに重要な願いとかじゃないんですけど」

「良い良い、わしらも『神!』などと崇め奉られるよりは、そうして小さな疑問や困りごとのうちに、胸のうちでわしらを頼ってくれた方がより良いインスピレーションを与えることが出来るからのう」

「今日は素朴な疑問です。神さまは、たいてい空や山っていう、重力場のあるところでは上から来るようなイメージがあります。だから、昔はオリュンポス山とか、そうした高い山の向こうに神々のお住まいがあるのだろうと考えられてきたんでしょうけど……。この宇宙へひとが出て行く時代になったら、宇宙空間では上も下も無いですよね? いったい、神さまがたはどこにいつもいて、来てくださるんですか?」

「わしはジュピターじゃからな。木星におるんじゃよ」

「え、ほんとに!?」とジョニー。

「冗談じゃ」

「はあ……はぐらかさないでくださいよ、ジュピター」

うーん、そうだよね、ジョニー。あたしも、神さまがたがどこにいらっしゃるのかって、とっても気になる!

万物と意思の疎通が出来る通信アイテム「コミュニ・クリスタル」を扱うために受けた授業では、多次元宇宙のことにちょっと触れていたっけ。三次元という、物質で固まった世界に位置する地球は、火星ぐらいしか生命を持っていけそうな場所が無さそうに見えるけれど。意識の世界、つまり四次元以上のアストラル・サイドには、金星や火星にもハビタブルゾーン(生命存続可能域)のある地球のような星としてのパターンが存在するって。そして、大きく見ればこの宇宙のあちこちでハビタブルゾーンの歴史を持ったことがあり、人間と意思の疎通が可能な四次元以上の意識を持つ、魂だけのひとびともたくさん存在していて。そんなひとたちの代表が「全天21星連合」という、多次元の宇宙人としてこの「コミュニ・クリスタル」にアクセスしてくることもあるという話だった。宇宙人、とは言うけど、まさに空のさらに彼方からやって来る神さまみたいなものだよね。

地球の神さまがたなら山や海や川、ひとの世界では神社、というふうにおられるところが分かるし、まだ多次元の宇宙人……というか、宇宙の神さまたちの「全天21星連合」なら、シリウスやアルデバラン、アークトゥルスなどの、あたしたち地球人が名付けた名前で故郷を告げてくれるからなんとなくイメージがしやすいけど。次元の違う地球のようなハビタブルゾーンだった火星や金星となると、現在の灼熱や極寒の姿が見えるだけに、そんな次元が在るということ自体がとても想像しにくいや。だから木星にジュピターがいると言われても、あの気体の星のどこにパルテノン神殿があるの? なんて思っちゃうよね。

「先に謝っておきます、ジュピター。僕はつい最近、この『コミュニ・クリスタル』を使うようになるまで、神さまなんて存在しないって思いたがっていました」

「三次元世界のわしらは、陽炎(かげろう)のようなものじゃからのう。しかしそれは、地球は丸いと分かっても、大地は平坦な皿の上にあると思っているようなものじゃし、神は死んだという大げさな言葉や、証明できないものは無いと言い張る物質妄信主義の古臭いエセ科学を信じ続けるようなものじゃ」

「実際はどうなっているんですか? 神さまがたはいつも、どこにいるんですか」

「そうじゃな……三次元世界よりも、次元として上の世界。四次元は時間と場所を超えていき、五次元はいくつもの並行世界を内包する。六次元は大いなるひとつの神のソースそのものであり、あらゆる小さな神も、広大な宇宙も、そして人間や命や石や木や、風や火や土や水。この宇宙に現れるすべてのものを見守る無音無形の意識であるところ。七次元はまったくの悪意無き天使たちの世界。わしらはその先のところに在るのじゃよ。すぐそばに在るとも言えるし、はるか彼方であるとも言える。昔から言うじゃろ、『叩けよ、されば開かれん』とな」

「それはキリスト教の名言じゃなかったですっけ」とジョニーが突っ込む。

「六次元よりも上の魂、神霊にとっては、意識は一にして多、多にして一。大いなるひとつの神に近づくこともあり、三次元世界に近づき、それに合わせて分離していくこともありじゃ。わしは太陽系の神としてはとても古く、木星の集合意識でもあり、地球では西洋の古来の父親をイメージした集合意識でもあり、雷神でもあり、全知全能の大いなるひとつの神のようでもある。ひとによってそのイメージは異なることはあれ、その者の思い描くわしが、その者にとってのわしじゃが、真剣な祈りがあれば必ずすぐに応える。それがジュピターとしてのわしじゃな」

「そうなんですか。女性経験が豊富な、というところだけ覚えてて、なんかすみません」とジョニー。

「良い良い、それも間違いではないからの。今後もガールフレンドを大切にのう!」

ジュピターは優しく微笑んで、姿を消した。

「そっかあ。次元の向こうに、ほんとに神さまがたがいらっしゃるっていうことなんだね」

「うん。神殿や神社みたいなところもパワースポットとしては間違っていないのだろうし、僕らの三次元世界からは分からない世界がきっと重なるように存在している、っていうことなんだろうなあ」

「ところでジョニー。オリュンポス山に来たのはいいけど、帰り道、分かる?」

「大丈夫! シリウス人のラミコッドさんがいてくれるからね」

「シリウス人のラミコッドさん?」

「まあ、見てなよ」

ジョニーが意識を集中する。やがて、UFOの360度スクリーンモニターに、虹色に光る髪を長く伸ばし、ローブをまとった、男の人とも、女の人ともつかない中性的な容貌のひとが現れた。

「お帰りですか、ジョニー?」

声も、男の人にしては高いし、女の人にしては低い。

「はい。絵美、時間と場所を超えた永遠の世界の入り口、五次元からアクセスしてくれる、シリウス人のラミコッドさんだよ」

「そうなんだ! わあ、ラミコッドさん、初めまして!」

「初めまして、絵美」

ラミコッドさんがにっこりと笑う。長い髪の毛が虹色に光ってて、ちょっと派手だけど、笑顔が素敵な人だ。

「ラミコッドさん、帰りの瞬間移動をお願いします」

「了解しました、ジョニー」

ラミコッドさんがそう言うと、ふっと半円形のスクリーンモニターが真っ暗になった。

ふたたび明るくなると、そこはあたしのベッドルームだった。

「すごーい」

「楽しんで頂けましたか? ジョニー、絵美」

ラミコッドさんが部屋の中空に浮いている。

「はい!」

ジョニーも嬉しそうだ。良かった、こんなドリームゲームなら、またいつでもOKだよ! 今度は太陽系の星とか、地球を見てみたいな。ジョニーとふたりなら、きっとどこでも楽しいけどね?

(続く)

次回予告

14話は、絵美の姉の真菜。ドリームゲームのなかで、グレイとともに地球の自宅から飛び立つと、空に異物が……。真菜の記録。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーからUrsa Minorさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。


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