創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」28話 恋人たちはノマド ~幕間のマッシモたち~
27話のあらすじ
アンドラ公国でドメイン「.ad」につながるガーディアン、子羊アンドラを呼び起こしたジョニーと絵美は、滞在を終えて次の「.ae」であるアラブ首長国連邦へと旅立つのだった。フランスとスペインのあいだの国アンドラから、ジョニーは家族に宛てて記念ハガキを出した。そのハガキはロンドンに届いて……。
28話
場所: 地球、ロンドン
記録者: マッシモ マイジェンダー: 男性 29才
出身地: イタリア南部 趣味: 筋肉作り
ジョニーの両親と、彼らとジョニーの支援職員である私へ宛てた記念ハガキが届いた。水素ガスで浮かぶメタルクラッド飛行船に乗ってアセンション島とアンドラ公国という場所を訪れ「.ac」そして「.ad」というドメインとつながる新しいガーディアン、天使を呼び起こす儀式をこなし、火星滞在の経験を現地のひとびとに広める仕事は順調のようだ。ガールフレンドとも仲が良く、メタルクラッド飛行船に同乗する飼いネコたちも元気だそうで、何よりだ。
がんで息子を失い、三年前の感染症で娘を失い、最後のただひとりの子どもとなったジョニーが世界中を旅する仕事に就いていることで、父親のザックも母親のナターシャも家に子どもがいない生活になった。そのせいか、生活支援のプログラムのひとつとして、私が訪問すると本当に喜んでくれる。
ザックは金を賭けたポーカー、ナターシャは高額な買い物に依存していた生活が、支援プログラムを受けつつふたりきりになったことですっかり改まったようだ。
古びた集合住宅のベルを鳴らすと「いよう、待ってたぜ」とザックが部屋の中に私を招き入れた。
「ジョニーからの記念ハガキが届きましたよ。アンドラ公国を訪れたついでに、だそうです」
私は預かっていたジョニーの記念ハガキを取り出し、ザックとナターシャに見せた。
「まあ……あの子がこんなにわたしたちを気にかけてくれるようになったのね。マッシモ、あなたには感謝してもしきれないわ」
ナターシャがうれしそうに記念ハガキを受け取った。
「コミュニ・クリスタルを使えばすぐにやりとりは出来るもんだが、こうして訪れたところの記念ハガキをメッセージ付きで送られると、うれしいもんだなあ」
ザックもナターシャのとなりで記念ハガキの内容を目じりを下げて読む。
「ガーディアン? 天使って書いてあるが……マッシモ。亡くなった娘のローズとコミュニ・クリスタルで今もときどきやりとりはしてるが、天使ともつながることは出来るのか?」
「ええ、コミュニ・クリスタルは万物の意識とつながることが出来ますから。古来の神々、そして我らが貴婦人ママ・マリア、宇宙人のリトルグレイや、シリウス、アルデバラン、アークトゥルスといった宇宙意識とも話せます。もちろん、ジョニーたちの旅で新しく生まれたその土地ごとの天使たちとも話は可能ですよ」
「ひゃあ……すごいとしか言いようのない仕事をしてるんだな、俺たちの息子は」
ザックは頭をかいた。
「どうぞ上がって、マッシモ」
ナターシャの招きに、私が家の奥へと入ろうとしたとき。
ジリリリ、とザックたちの部屋の訪問者を告げるベルが鳴った。
「おいおい、今日はマッシモが来るからって、ほかの用事は入れた覚えはないぞ?」
「そうよね、ザック。……誰かしら」
ナターシャがコミュニ・クリスタルを見る。
「あら……『アセンションちゃん』と『アンドラさん』と表示があるわ」
「本当ですか? それは、ジョニーと彼のガールフレンドが土地ごとに呼び起こした天使たちからのアクセスですね」と私は説明する。
「あらあら。どんな子たちなのかしら。どうぞ入って!」
ナターシャがドアを開けると、ひとりの幼女と、くるくると巻いた真っ白な毛に覆われた子羊が立っていた。
『こんにちは! ジョニー兄ちゃんのお父さんとお母さん』
幼女がにっこりと微笑む。この子が「アセンションちゃん」とナターシャのコミュニ・クリスタルに表示されたアセンション島の天使だろうか。
『こんにちは。ぼくらで話をして、ジョニーのお父さんとお母さんのところへふたりで遊びに来てみたメェ~』
子羊もメェェ、と笑ったような気がした。とすると、こっちがアンドラ公国の天使「アンドラさん」なのだろう。
「うれしいわ、ジョニーの呼び起こした天使たちが来てくれるなんて! マッシモ、あなたに用意したモスクワ・プリューシカ(甘い系のロシア風お菓子パン)をふたりにもあげてもいいかしら? あら、でもホログラフだと食事は出来ないのかしら、ローズと同じで」
ナターシャがふっと寂しそうな顔になる。
『そんなことないよ! アセンションちゃんも、アンドラさんも、食べたいと思えばみんなの世界にいられるよ! ……そうだ、じゃあそのローズさんも呼んでみて?』
アセンション島の天使、アセンションちゃんがそう告げる。
「ローズを……?」
ナターシャはすこし不思議そうな顔をする。
『ぼくらで三次元世界へ関与するメェ! つまり、そのローズさんをこっち側から、そっち側にちょっとのあいだだけ移すメェ~』と、アンドラ公国の天使、アンドラさんが言った。
「ローズを呼べばいいのね?」
ナターシャがコミュニ・クリスタルで、三年前に亡くなった娘のローズ嬢を呼び出した。
『……母さん。話は分かったよ』
三年前と変わらない姿で、ローズ嬢がふわりとホログラフの姿で浮かび上がった。
『じゃあ、いくよ! あせーんしょんっ!』
『あーんどら、だメェ!』
アセンションちゃんとアンドラさんが、ふたりでかけ声を出して可愛らしいポーズを決めた。
するとローズ嬢の姿が光り輝き……しばらく経つと、なんとそこにはホログラフではなく、実体の彼女が立っていた。
「母さん!」
ローズ嬢はナターシャをぎゅっと抱きしめた。
「本当に!? ……本当にローズだわ」
ナターシャは、この奇跡に戸惑いを隠せない。感極まった様子で、しっかりとローズ嬢を抱きしめた。
「まさか。本当に奇跡って言うのは、起こるもんなのか」
ザックも目を丸くしている。
「父さん!」
ローズ嬢はザックも抱きしめた。ザックの瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
「ローズ! このばかやろう、俺たちより先に死にやがって」
ザックがローズ嬢を抱きしめてバンバンとその背を叩く。
「ごめんなさい」
小さく答えるローズ嬢も泣いている。
「謝るのはこっちだ、俺たちはひでぇ親だったな。許してくれ」
「うん。ジョニーのためにも、もう絶対に前のような生活にはならないでね、父さん、母さん」
「任しとけ! マッシモっていう強い俺たちの味方もいるんだ、お前が死んだ後に精いっぱい悪いところを直したんだぞ!」
ザックは涙声になりながら、娘の言葉に応じた。
『さあ、ローズさんが一緒にいられるのはちょっとだけだから、そのあいだにお菓子を食べよっ!』
アセンションちゃんがニコニコと笑っている。
『この奇跡を起こすために、大いなるひとつの神さまへ、こっちでちゃんと許可を取ってるメェ~! ぼくらは一にして多、多にして一だからメェ』
アンドラさんも自信に溢れた顔を見せている。
「ああ……神さま。天使さまがた。ありがとうございます。ありがとうございます!」
ナターシャが溢れる想いを抑えきれない様子で、我らが主に礼の言葉を捧げた。
「それではナターシャ、モスクワ・プリューシカをみんなで頂きましょうか」
私はつられてグッとくる想いを極力抑えて、皆に部屋の奥へ入るよう促した。思いがけず、にぎやかな訪問になりそうだ。
『アセンションちゃんも、お菓子いっぱい食べる~!』
『ぼくもだメェ~!』
「天使さま。この機会を作ってくれて本当にありがとう」
気さくに笑う天使たちとローズ嬢を前に、これまで目に見えていなかった存在たちが本当に気軽に感じられる素晴らしい時代になったことを、私たちは実感したのだった。
(続く)
次回予告
ドメイン「.ae」となる初のアラブ圏、アラブ首長国連邦へとメタルクラッド飛行船に乗ったジョニーと絵美は到着した。8月中旬ごろの投稿を予定しています。どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより𝕄𝕚𝕟𝕝𝕚 / みんりさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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