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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 二十四話「鬼たちと酒宴をする」

登場人物紹介

織田信長(おだのぶなが): みなさんご存知、尾張(おわり)生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春(おだのぶはる)」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助(やすけ)をアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助(やすけ): 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発(た)つ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門(すけざえもん): 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久(いまいそうきゅう)の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋(なや)または呂宋(るそん)助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

二十三話のあらすじ

長崎の港で会った、奴隷貿易に関わる男たちの頭に角が生えているのを見た信長公一行は、彼らから酒の席に呼ばれたので応じることにしてみました。

二十四話

ふたりの赤黒い小さな角を生やした男たちは、慣れた様子で港の酒場に入った。瓦屋根と木材の柱と漆喰(しっくい)の壁とで作られた、質素な日本家屋は、しかし中に入ると洋風のたたずまいを取り込んだ内装になっていた。

店主のいるカウンターの席と、周りに木製のテーブル席。何人かの西洋人が座って談笑し、そのうしろで従者が立ったまま静かに控えている。テーブルに置かれた木製のカップには、ラム酒が注がれ、酒宴をいっそう楽しいものにしているようだ。

「……おお、あなた方は。ささ、特別席がありますので、そちらへどうぞ」

酒場の店主が、ふたりの男たちを見るや、奥の部屋を案内した。

「来い、大いに飲もう」

男たちはなまりの強いポルトガル語で信長一行を促す。彼らは一行を連れて、誰にも見られないよう、カウンターを横切った先に仕切りが作られた奥の部屋に入った。

店主がいそいそとふたりの男たちと、ジョアンのぶんのラム酒とカップを用意しに来た。

「おお、うまそうな珍しい酒じゃな」

信長が、つい、いつもの調子で無邪気に言葉を発した。

「奴隷ふぜいが、分かるのか?」

男が、鼻先で笑う。

「うえさ……いえ、この者は、とても、良く働いてくれる聡(さと)い者なのです」

ジョアンがあわあわとした雰囲気を完全に隠すことは出来ない様子で、答えた。

「おふたかた、酒をおつぎしましょうぞ」

信長は、従者役を心から楽しんでいるようで、男たちのカップにラム酒をついで回った。当然といった様子で、男たちはカップのラム酒を飲み干す。

「奴隷貿易は、もうかりますか?」

ジョアンがそれとなく話題をふる。

「もちろんだ! 戦争が起こる、俺たちはその場所へ行って負けたやつらを奴隷にする。それが許されているからな!」

「……そうですか」と相づちを打つジョアン。少年のこころは奴隷を見下す彼らのさまに、とてもムカムカと腹が立っているのだが、暴れて酒の席をつぶし、情報を得られなくするわけにもいかない。即席の船長役として、懸命に仮のふるまいを続けていった。

「……奴隷にするよりも、俺は食っちまうほうが好きだけどなあ」

ほろ酔い加減のようすで、男がぽろりとそんなことを洩らす。

「……食う!? えらいこっちゃ」と助左衛門が驚きを隠せず、そう小さくつぶやいた。

「そうさそうさ、特に赤ん坊だとか子どもは格別にうまいよなあ!」

と、ふたりの男のもうひとりが相づちを打つ。信長一行には、彼らの頭に生えた角が、にょきりと大きくなっていくのが見えた。

「戦争さまさまさ、この世がどこもかしこも戦争だらけになったらいい。そうすれば俺たちは赤ん坊や子どもを食い放題だ!」

「おっと、旅の船長さんよ、これは冗談だぞ、冗談。わっはっは!」

まさか角が信長一行に見られているとも知らないようすで、男たちは豪快に笑った。

「……蘭丸」

こっそりと信長が小声でささやく。

「なんですか? うえさ……いえ、信春」

「この後、鬼どもがどうするのか聞いてほしいのじゃが」

「分かりました」

ジョアンはうなずき、男たちに尋ねた。

「あなたがたは、これからどうするのですか?」

「我らは、明日も龍造寺勢とキリシタンの大名が小競り合いをしている村へ行く」

「そうして、火をつけ奴隷どもを手に入れるついでに、赤ん坊や子どもを食いに行くのさ。わっはっは! まあ冗談だ、冗談!」

そうして、おどろおどろしいふたりの男たちと、信長一行との酒宴は終わった。

角の生えた鬼のふたりと、信長一行は停泊しているそれぞれの船へと戻った。

「……ノッブ」

「分かっておる、弥助。聞いてしまったからには、みすみすあの鬼どもの暴虐を許すわけにもいくまい。明日は彼奴(きゃつ)らのあとをつけていくとしようぞ」

信長はそう告げて、となりの桟橋に係留されている西洋帆船を見据えたのだった。

(続く)

次回予告

不穏な情勢にかこつけて、ひとを食らう鬼たちを止めに入る信長公一行は……。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりHarunaさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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