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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 二十二話「長崎では従者になる」

登場人物紹介

織田信長(おだのぶなが): みなさんご存知、尾張(おわり)生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春(おだのぶはる)」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助(やすけ)をアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助(やすけ): 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発(た)つ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門(すけざえもん): 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久(いまいそうきゅう)の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋(なや)または呂宋(るそん)助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

二十一話のあらすじ

アフリカへの船旅を始めた信長公一行。瀬戸内海を抜け、北九州周りで長崎の地へ向かっていると、平戸の港から松浦(まつら)氏の姫、まつが小舟でやって来ます。平戸で流行っている、病気でもないのに人が伏せる現象が起き、その解決を住吉大社の神々から一行がしてくれる、と聞いたのでした。港の家で、伏せる若者の様子をうかがうと、インネンという憑き物の妖怪が憑(と)りついていたことが分かりました。若者の一族の霊魂であり、眠りを荒らされたことを怒って出てきたようです。そのことをまつに尋ねると、キリシタン大名の配下の者たちが寺社や墓を壊したり荒らしたりしているといいます。インネンを晴らし、一行は、気を引き締めて平戸から長崎の港へと向かったのでした。

二十二話

16世紀の中ごろ、フランシスコ・ザビエルやコスメ・デ・トーレスといった日の本に訪れたイエズス会の宣教師たちは、現地の文化や風習をまず大切にしながら神の教えを説いた。その姿勢は快く九州や西日本のひとびとに受け入れられ、またたくうちに広まっていく。

戦国の世の荒さと相互の無理解による争いによって、平戸ではポルトガル商人と現地商人の争いから発生した、双方に死傷者の出た宮ノ前事件がある。

そして次の寄港地となった横瀬浦では、庇護するキリシタン大名の敵対勢力から焼き討ちという冷遇をポルトガルは受けた。

イエズス会の宣教師たちと商人は、そののち元亀元年(1570年)に日本初のキリシタン大名である大村純忠(おおむらすみただ)が開いた長崎に船を寄せることとなった。

面白くないのは古くから日の本にて受け入れられてきた寺社勢力を背景にもつひとびとと、彼らをまとめる大名たちだ。特に当時の寺の勢力は、日の本の各地で庶民を焚(た)きつけて大名に抗することが多々あり、信長だけでなく、世を平定しようとすれば必ず処さなければならない難題であった。

そうした、平和を愛する本来の神仏の教えから逸脱した戦国の武装勢力となっている寺の姿勢を見て辟易(へきえき)していたひとびとが急速に受け入れたのは、このイエズス会によるイエス・キリストの教えである。

天正8年(1580年)に長崎の地をイエズス会に寄進した大村純忠を始め、彼とともに天正10年(1582年)には天正遣欧使節というカトリックキリスト教の総本山、ローマへの日の本初の使節団を送った大友義鎮(おおともよししげ、のちの宗麟(そうりん))や有馬晴信(ありまはるのぶ)といった、九州の名だたる武将もキリスト教に入信した。

これには一度出家した人間でありながら、還俗(げんぞく)し、戦国大名となり近隣の土地へと活発に進出する龍造寺隆信(りゅうぞうじたかのぶ)という九州の雄(ゆう)に危機感を覚え、経済力や武力を南蛮貿易を通してポルトガルから得るためという打算もあったのかもしれない。

しかし長崎の地を寄進した大村純忠は、ルイス・フロイスの「日本史」によれば病による最期のときまで敬虔なキリスト教徒であったとも伝わる。

そんな宗教対立があり、キリシタン大名たちと、龍造寺隆信や古来の日の本の神仏を拠り所とする勢力とがにらみ合う不穏な状態の近隣の土地を持つ長崎に、信長一行はキャラック船「濃姫号」を入港させたのだった。

分身したゴブ太郎が船を係留し、天使ナナシが船からはしごを降ろして下船の準備をしているあいだに、信長はそっとジョアンに話しかけた。

「蘭丸よ」

「はい! なんですか上様?」

「ここ長崎は、すでに異国の地。イエズス会に寄進されたとはいうものの、勢力としてはポルトガルの領土と考えた方がよかろう。そこでじゃ。儂(わし)をこの地では従者として扱え」

「ええ!? 上様をですか!?」

「今後も、ポルトガルの居留地に船を寄せるならば、そこではそのほうが自然なのじゃろう?」

「確かに、有色のひとたちを従者として僕ら西洋帆船に乗る白人が扱うことが多いのは、この日の本に訪れるまでの港でよく見てきましたけど……。出来ませんよ! 上様は、上様です」

「むぅ。意固地(いこじ)なやつめ」

「ジョアン。オレたちが疑われるのは、めんどうだ。ノッブの話を受け入れろ」

「弥助兄さんまで……」

「諦めや、ジョアン。俺も疑われて商売がうまいこといかんようになるのはごめんやで。仮初めでええんや」

ポン、と助左衛門がジョアンの肩を叩いた。

ジョアンを除く、満場一致で決まったことに、赤毛の少年はため息をついた。

「はぁぁ。分かりました。僕がポルトガルの居留地ではとりあえず……ほんとに恐れ多いことなんですけど、船長なんですね? 体裁はそうしますけど、上様は僕のこころのなかでいつでも上様ですし、弥助兄さんも助左くんも、ほんとうは優劣なんてない旅の仲間だってことを絶対に忘れないでください」

「それで良しじゃ、蘭丸」

信長は、立場を代(か)えた長崎への上陸を、ワクワクと楽しみにしているようだった。

(続く)

次回予告

長崎の港に入った信長公一行は、奴隷貿易の船を目の当たりにすることになります。そして、奴隷を扱う者たちの頭に、怪しい角が生えているのを見抜きます。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより田邊紀彦さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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