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創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」19話 絵美とジョニーと周りのひとびと

18話のあらすじ

火星から地球に帰還した絵美と、姉の真菜は本当に久しぶりに再会した。そして、昔のようにふたりで神社へ行き、万能通信アイテムである「コミュニ・クリスタル」を通して氏神のスサノオノミコトと尽きない話に花を咲かせた。一方、絵美と同じ宇宙船で故郷のロンドンへと帰ったジョニーは、久しぶりに両親と顔を合わせていた。ここからはジョニーの記録。

19話

日時: 2225年5月30日 ゴミゼロの日(地球、ロンドン)

記録者: ジョニー  マイジェンダー: やや男性 18才

出身地: ブリテン  趣味: ネコとたわむれること


「どうだ、18!」と、父さんがトランプの手札を見せる。 

「しまった……私は22以上になってしまった。バーストです」と、続いてマッシモさん。

「21! ブラックジャック!」

やって来た1(エース)と絵札のカードを見せて、僕はブラックジャックでの勝利宣言をした。マッシモさんはきっと、ほんとはもっと強いんだろうけど、負けてくれた気がする。父さんが、自分のゲームの腕を過信しているのはいつものことだけど。火星の滞在先では、ドリームゲームで遊んでいたから、こうした実際のトランプを使った遊びをするのは、逆にとても新鮮な気持ちがする。ホログラフやVR(仮想現実)でない付き合いもいいものだな、と思えた。

父さんと母さんは、僕が火星から地球に帰還するまでの3年間でリハビリを終え、金銭の感覚や、生活の態度はずいぶんと改善していた。父さんはもう、お金を賭(か)けてのポーカーもそのほかのギャンブルもやらなくなったし、母さんは高い嗜好品(しこうひん)にあまり手を出さなくなった。あまり、というのは、今日みたいに僕が家に帰ってきたという特別な日には、やっぱり1個3ポンドもする卵を使ってお菓子を作っているから……。まあ、そのくらいは目をつぶってもぜんぜん大丈夫なんだけど。火星で、ゆで卵が高級レストランの食材だった僕にとっても、おいしい地球産の卵を使ってくれた手料理はうれしい。

『でもまあ、地球に無事帰って来られて良かったよ、ジョニー』

ふわふわと部屋に、3年前の感染症で亡くなってしまったローズ姉さんが浮かんでいる。死者や神さまがたともお話が出来る万能通信アイテム「コミュニ・クリスタル」を通して、ローズ姉さんの声が頭の中に響いた。

感染症は、あれから僕が宇宙船のコールドスリープで寝ているあいだにワクチンが開発され、人類の免疫力もついたのか、勢いを失った。だけど、そのせいで死亡したひとびとは少ない数じゃない。父さんと母さん、マッシモさん。そして、僕の大切なひとになった、恋人の絵美の家族。ローズ姉さんのほかの、僕の周りのひとびとが帰還したこのときに無事でいてくれたことは、当たり前のようでいて、本当は奇跡的なことなんだと思った。

「そうだな。俺とナターシャの、たったひとりの息子になっちまったな、ジョニー」

父さんはすこし寂しそうだ。

「そうね。ローズはもう、そこに見えたってわたしの手で抱きしめられないところにいるのだもの」

母さんも悲しげだ。

『ああ、でも! ちゃんとこうして見守っているから、父さん、母さん。ふたりが本当に頑張って、ジョニーのためにリハビリを受けたことだってぜんぶ知ってるよ』

「……そうね、ローズ」

母さんは、部屋に浮かぶローズ姉さんに微笑んでから、急に僕の体を抱きしめに来た。

「母さん」

「ほんとに。よく帰ってきたわね、ジョニー」

「……うん」

夢みたいだ。火星に行く前、デザイナーベイビーとして生まれた僕が、それほど優秀でないことに、さんざんモラルハラスメントをしてきたあの親たちは、どこへ行ってしまったのだろう。ひとは本当に、どこまでも変われるものなんだ。

この宇宙や命を統べる大いなるひとつの神というのは、時に残酷で、ものすごく性格がねじ曲がっているとしか思えないときは今でもあるけど。もしも、人生に訪れる苦難がその後訪れる幸せをも含んでいるとするなら。

……苦難を感謝する。

イエス・キリストが身を持って示したその意味が、ちょっとだけ分かった気がした。

「ジョニー! さあ、もう一戦するぞ」と父さんが息巻いている。

「うん。次も負けないよ、父さん」

こんなふうに。ゲームとしてトランプを家族で楽しむときが来るなんて、思ってもいなかった。

「今日はガールフレンドを連れてこなかったんだなあ」

「今は恋人だよ!」

「ああ、すまん」

「お互い、今日は里帰りさ。火星から地球に帰還した僕らで、地球のあちこちを回ろうっていう話になっていてね。それが終わってからかな、連れてこられるのは」

「そうか。楽しみだな」

「マッシモさん。父さんと母さんのことを、またよろしくお願いします」

「ああ、うちの支援団体に任せてくれ、ジョニー。若いうちは、どんどん見知らぬ場所へ旅したらいい」

マッシモさんが笑う。

こんな穏やかな地球での帰還生活を想像もしていなかった僕は、今このときに、かけがえのない尊さを感じていた。

(続く)


次回予告とお知らせ

※ この19話で、主人公たちの火星滞在記としてのストーリーは完結です。次回の20話以降、地球の各地へと絵美とジョニーが旅するストーリーを思い描いている創作未来神話「ガーディアン・フィーリング 恋人たちはノマド」からは、のんびりとした月一回の連載に変更します。どうぞご了承ください。次回20話は、11月中旬ごろの投稿を予定しております。

そして「ガーディアン・フィーリング」の代わりに、来週の火曜日からは、先にご好評を頂いて一度完結をしておりました「~神話・民話からコンニチハ~」を週一ペースで再開いたします。次回はギルガメシュ叙事詩より、エピソードの紹介と、インタビューの予定。今後はこちらもお楽しみ頂ければ幸いです~。(※ 2021.6月 「神話・民話の世界からコンニチハ」はお休みし、代わりに「信長の大航海時代」を連載中です)

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーからパーリーメイ | Purleymayさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。


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