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インタビュー調査の「適宜確認」②~より深いインサイトを得るための理論・技法編2:「オケージョン曼荼羅」

2、オケージョンの違いの中にある潜在ニーズを見出す「オケージョン曼荼羅」

第二の曼荼羅は「オケージョン曼荼羅」です。このモデルは当初、商品開発のためのアイデア発想ツールとして発案しました。しかし、そのままインタビュー中の適宜確認の観点とすることができます。この適宜確認は「状況の具体化」です。

対象者に与える話題が「健康を意識した食生活」だったとします。すると多くの場合、「中性脂肪が気になるので糖質や脂質を控えている」とか、「血圧が高いので塩分を控えるようにしている」とか、「貧血気味なので鉄分を摂るように心がけている」といった話が語られます。

特にこのような「健康」に関する話題の場合にはカラダの状態が話題の軸となります。すると「カラダ」と「商品」の関係の話になりがちであるわけです。つまり、それは「人間工学的観点」の話になるわけです。

それによって「中性脂肪が気になる人向け」の商品であったり、「高血圧の気になる人向け」の商品が開発されることになるわけですが、周りを見渡しても同じような商品ばかり、ということにはなっていないでしょうか?つまりは「中性脂肪が気になる人向け」とカラダの状態すなわち人を軸に考えると潜在ニーズに応える商品というのが発想されにくくなるわけです。

一方一つの商品の例を挙げると、同じカラダの問題に対応するものでも「ストッパ」という下痢止め薬があります。これは「下痢が気になる人向け」の商品であり、電車の中や試験中に急な腹痛に襲われた時に水が無くてもその場で飲めるので持ち歩いていれば安心というものです。このようなことは誰しもが経験していると思いますが、この商品の場合は「下痢を止める」という機能に加え利用する場面が明確に規定されているわけです。その場面に特化された商品というのは他にはなく、故に登場時には潜在ニーズに応えた商品だったと言えます。

つまり「電車の中や試験中の困りごと」などという生活の場面・状況を軸に考えると潜在ニーズに応える商品が発想されやすいわけです。

何度も説明していますが、前者が「人間工学的観点」であり後者が「生活工学的観点」です。

「オケージョン曼荼羅」はインタビュアーやマーケターがその「生活の状況」(TPOH)が把握できているのかのセルフチェックや、あるニーズが満たされていない状況、ある問題が解決されていない状況を発見するために使うツール・モデルです。

我々は生活ニーズに影響を与える要因について下表のように状況と環境という観点を持っており、状況はさらに「TPOH」に分けて考えています。これらの組み合わせが 生活の場面であるわけです。インタビューの中で語られるナラティブがどのような場面・状況の話であるのかが不明である場合、適宜確認が行われる必要があります。でないと「中性脂肪が気になる人」は「中性脂肪が気になる人」としか見えず、それに関連するニーズや問題がどんな場面・状況で発生しているのかや、場面・状況の違いによるニーズや問題の違いが読み取れないことになります。またそれは、ニーズが未充足化する場面・状況を見出すことにもつながります。つまり潜在ニーズが発見できるということです。

オケージョン曼荼羅は中央に生活シーンもしくは生活ニーズやそれを持つ人(ターゲット)を置き、周囲にTPOHの4階層のレイヤーの「多重ルーレット」を置く構造になっています。それぞれのレイヤーにはルーレットのあたり数字のポケットのように様々な場面が置かれます。

アイデア発想ツールとしてはそのTPOHの各レイヤーの場面をランダムに組み合わせて中央に置いた生活ニーズと強制結合(シネクティクス)することによって、その場面で利用される商品のアイデアを考えるのに使います。

一方インタビューに用いる場合には、それぞれのレイヤーにどんな状況があるのかを把握したり、ある行動や意識がどのようなTPOHの組み合わせの状況で発生しているのかをセルフチェックするモデルとして用います。

上記の「中性脂肪が気になる人」の例で言うと、中性脂肪が気になるのはどんなTPOHの組み合わせの時なのか、どんなTPOHの組み合わせの時にどんな関連行動や意識が発生しているのか、気になるが対策できないTPOHの組み合わせはないのか、といった観点を持つために頭の中でこのルーレットを回すかの如くに利用するわけです。

また、「脳梁マーケティング」においてその場面・状況が思い浮かべられない場合にTPOHの中で把握しきれていない要素を適宜確認するということになります。

ナラティブ曼荼羅の時には「時系列の経過によって人間は無常に変化する」ということを述べましたが、このオケージョン曼荼羅は「状況の変化によって人間は無常に変化する」ということを表現していると言えます。


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