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インタビュー調査におけるインタビュアーの役割~概論

いよいよ今回よりPIA三位一体の内のI(インタビュー司会・実査)についての内容に触れていきます。

「インタビュアーの役割」と言いますと、ほとんどの人は「質問」だと思われるでしょう。プラスがあるとしたらせいぜい「対象者をリラックスさせる」ことが挙げられる程度ではないでしょうか。グループインタビューのモデレーターの場合には、各対象者の発言を平準化するといったこともイメージされるかもしれません。

ところが、ALI(アクティブリスニングインタビュー)において主要な役割は実はそうではないのです。そもそもALIは「リスニング」なのですから、原則的にインタビュアーは「質問しない・してはならない」といった「非常識」な認識で臨む必要があるわけです。常識や通念とは真逆で、少なくともインタビューは「質問」から始まってはならないのです。それは下図の意識マトリクス理論で明らかにしたように、

①質問(アスキング)することによって、対象者の無意識領域(S/C領域)に踏み込んでしまう。
②その結果、対象者は通念や常識に基づく「タテマエ発言」や「無意識のウソ」を強制されることになる。
③そもそもS/C領域においては対象者にとっては元々意識もしていないこと、すなわち興味関心も無いことをアスキングされているわけであるので、対象者はインタビューに集中することもできていない。オンラインの場合には特に集中力が失われやすく、インタビューを維持することすら難しくなる。
④タテマエやウソのネタが尽きると話すことがなくなり、沈黙せざるを得なくなる。この沈黙は「思い出すための沈黙」ではないので、対象者にとっては極めて苦痛なものである。もちろん調査主体にも苦痛である。
⑤そうなると、インタビュアーは焦りから、細切れに質問を連発することになるが、それによって対象者は「聞かれたから答えている」状態に陥り発言にはどんどんと質問バイアスがかかるし、その場の思い付きを話すのでその発言内容は生活の実態から遊離した空虚なものになっていく(実体験ではなく抽象的な意見しか言えなくなる)。発言の背後にあるべき首尾一貫する軸もなくなるので分析時には発言の分類しかできなくなる。各対象者の発言に巻き込まれながら質問が行われていくので各対象者に対して行われる質問内容もバラバラとなり対象者間の比較も難しくなる。またインタビュアーや運営に対しての反感、ネガティブ感情も生じる。
⑤その一方で、企業側には潜在している情報の宝庫であり、対象者も生き生きとホンネで話すことができるC/S領域の生活情報は聴取できない。

ということになるわけで、つまりは、取れる情報の量、質共に低下してしまうことになるからなのです。

一方、今までも説明してきましたようにALI(GD/GDIやMTI)は従来のアスキング型のインタビュー(FGIやIDI)に対していかなる調査課題であれ圧倒的なパフォーマンスを発揮します。特に、本来定性調査に求められる「思いもしなかった情報の獲得」はそもそもアスキングでは原理的に無理であるわけです。「思いもしなかった情報」とはC/S領域にあるからです。

昔話となりますが、師匠の梅澤先生のインタビュー講座に入門した初日、参加者が先生から自己紹介として「抱負」を話すように言われたことがありました。そこで私は「消費者のホンネが聞き出せる技術を身に着けたい」と申し上げたのですが、それに対して先生は眼光鋭く「言葉尻をとるようですが、これだけは最初に強く申しあげておきます。インタビューとは『聞き出す」ことではなく、『話してもらう』ことなのだと認識してください。」とおっしゃられたことがありました。30年ほど前のことです。

その時は意味がよくわからなかったりしたわけですが、この入門初日の冒頭の一言がまさにインタビューの神髄、核心、極意をついた一言であったのだと、意識マトリクス理論の確立とALIの体系化を成し遂げつつある今になっては思われるわけです。

分析編で説明したように、インタビューが価値ある情報となるのは、すなわち発見を生むのは『具体化→要素化→構造化→統合化』の分析プロセスを経るからです。具体化ができないと要素化ができず、要素化ができないと構造化ができません。そして構造化ができないと統合化ができないわけです、また、調査対象となる生活シーンについて、自発的に『ナラティブ』を語ってもらうと、その具体化と構造化が可能になるということも説明しました。これが、ALIにおいては「広めの話題を提示しての自発的話し合い・独白」を求める根拠となります。

故に、インタビュアーの役割・機能とは何かと一言でいうと、基本的には「C/S領域におけるナラティブ発言を促進して情報量を増やし、具体化、構造化すること」であるということになります。それをもう少しかみ砕くと

1、自発的な発言を促進すること(発言促進)
2、ナラティブの中での抽象的な表現や不明な構造(因果関係や葛藤関係などがよくわからないこと)を適宜確認すること(適宜確認)
3、そもそも話して欲しいことを理解してもらい、維持すること(垣根の維持)

であるということになります。それらは下図のようにさらに個別の技術、テクニックに展開されていきます。インタビュアーというものを語るにあたっては実は「心技体」の側面があると言えるのですが、次回よりはまず「技」編として、その個別の技術・テクニックについての説明をしていきます。




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