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非ネイティブ日本語話者と会話する時に、気を付けていること

最近、個人的に日本語の非ネイティブの人と話す機会が増えました。多くは取引先の会社の通訳さんや日本語ができる業務担当の人、日本語学習者の友人などです。とても上手に日本語を操る人もいれば、うーんちょっとしんどいなというレベルの人も当然います。

どちらにしても、普段は中国語を使って生活している者としては「外国語で話す」ということにかかる心理的負担をそれなりに理解しているつもりでおります。この記事ではどうやって彼らの負担を減らしてあげられるかという観点で、非ネイティブの日本語話者と話す時に自分なりに気を付けていることを述べていきます。

ゆっくり丁寧に、ハッキリと話す

まずはとにかく、ハッキリと話すことを心掛けます。わかっとるわ! という声が聞こえそうなくらい基本的なことですが、とても大事なことです。

非ネイティブ、特に中級者くらいまでの人がリスニングの際に最も頼りにするのが「どういう単語が聞こえたか」です。細かい部分が聞き取れなかったとしても、聞き取れたいくつかの単語と前後の状況・文脈から大意をつかむことで、なんとか理解できる場合があります。

たとえば「あさっての予約を取り消してください」というセンテンスを聞いた場合、非ネイティブはその中から「あさって」「予約」「取り消し」という要素を聞きとることで文意を汲み取っています。

しかし発音が不明瞭だったり、口をあまり動かさずにボソボソ喋ったり、早口で話してしまうとこの「単語をピックアップする」という作業がとても難しくなります。

仮にモゴモゴした口調で「あさtt…のよ…くをとr…eしてください」と不明瞭な発音で言ってしまうと、「あさって」を「明日」とか「朝」と間違えたり、「取り消して」と言ったのが聞き取れておらず逆に予約がもう一件増えてしまった、などのミスが容易に起こり得るでしょう。

最後の手段として「あさって!予約!取り消し!」と重要な要素のみを単語で伝えてしまうのも手ですが、相手に対する敬意を欠く上に、下手をするとバカにしているかのような印象を与えるのでやめたほうがいいです(それで相手を逆上させてケンカっぽくなった経験があります)。きちんと文章にした上で、ハキハキと話すように心がけましょう。

難しい語彙や慣用句を使わない

難しい言葉や言い回しを避けるのも大事です。上級の日本語学習者でも出現頻度の低い語句は聞いたり使ったりした経験が少なく、知っていても一聴してピンとこない場合が多いようです。あえて難しい表現にするより、平易な語句で言い換えられるならできるだけ簡単にして伝えましょう。

特にカタカナ語を負担に感じる日本語学習者は多いらしいので、「アグリー」「エビデンス」「ファーストプライオリティ」などの意識高いカタカナ語などは特に避けるべきかもしれません(日本人どうしでも使いすぎると嫌われそうです)。それぞれ「同意」「証拠」「最優先」としておいたほうが無難です。

日本人にとってはごく自然に意味がわかる「顔が広い」「腕が立つ」「朝飯前」というような慣用句にも注意が必要です。意味を知っている人ならいいのですが、これらのような「字面と実際の意味するところが違う言葉」は知らない人にとっては何のことかさっぱりわからず、余計な混乱を招きます。

「電話やリモート会議だけじゃなくて、実際に顔を合わせてお客さんと話をすることが大事だよ」という教えを誤解した日本語非ネイティブの営業社員が、客先の社長に会うなり熱烈な頬ずりをしてしまった…というのはたった今僕が考えた嘘のエピソードですが、とにかくこのようなことが起こりかねません。笑い話で済むことならまだしも、小さな解釈の違いで大きな問題につながることも考えられます。

「顔が広い」なら「友達が多い」、「顔を合わせる」なら「会う」というように、できれば語句と意味が直接的に一致する表現を選びましょう。

長い文章を避ける

「駅前のドラッグストアでマスクとシャンプーを買って、それからスーパーで卵とパンと、あとネギを買って、それから図書館に行って本を返してきて。あ、もし大根が安売りだったら買ってきておいて、でも古い大根だったら別にいらないから。そうそう、ついでに手紙も送っといてもらえる?」

仮にこんな指示を口頭で聞いたとしたら、どう感じるでしょうか。日本語ネイティブならギリギリ内容を把握し整理して指示通りにタスクをこなすことができるかもしれませんが、非ネイティブなら言わずもがな、混乱した上にいくつかのタスクが伝わらず抜け落ちてしまうでしょう。

このように無駄に長く論旨のハッキリしない、言いたいことが行ったり来たりするような文は、それだけで聞き手の理解に支障を与えます。相手が非ネイティブならなおのこと注意が必要です。

上記のような場合なら、最低限「ドラッグストアで買うものはこれ」「スーパーで買うものはこれ」「それ以外のタスク」というように分けて伝えることが望ましいでしょう。

もしくはこのように話の要素が多い場合には、いっそのことメモ書きなどにして渡してしまったほうがよっぽど確実かもしれません。相手のレベルとタスクの重要性に合わせて、確実に伝わる方法を取りましょう。

聞き手としての注意点

ここまでは基本的に話し手として注意することを述べてきました。最後に会話の受け手・聞き手として意識していることにも少し触れておきます。

心がけているのは、相手の言ったことの確認です。といっても言質を取るように内容を詰めるのではなく、「あなたの言いたいことを理解しましたよ」ということを伝えるつもりで相手の言ったことを繰り返してみたり、「これこれこういう意味で合っていますか?」と聞き返したりします。

非ネイティブは、個人の性格や習熟度にもよりますが、大なり小なり「これでいいのかな」「間違ってるんじゃないかな」「変な意味にとられたらどうしよう」という不安と葛藤の中からなんとか言葉を絞りだして会話をしています。

こちらが「理解しましたよ」と伝えることは、相手の安心と自信につながります。自信をもって話してくれるようになると、相手からどんどん言葉が出てきて、コミュニケーションがうまく回ります。それはその場限りのことだけでなく、その非ネイティブの人が今後日本語を使うにあたっての自信として積み重なっていきます。

ほかにも、「相手の日本語を笑わない」も大事でしょうか。拙い日本語に対して悪意なくクスッとしてしまう程度はどうしてもあるでしょうが、相手にそれが変に伝わってしまうと萎縮させてしまい、日本語がうまく出てこなくなる可能性があります。

あまり神経質になるのもよくないですが、相手をバカにしているような印象を与えることはなるべく避けた方よいでしょう。もちろん、故意に嘲笑ったり呆れてみせたりするのは論外です。

すべて、自分が非ネイティブとして感じたこと

いろいろ書いてきましたが、すべて自分が「中国に住む中国語の非ネイティブ」として感じたことや経験したことが軸になっています。母語とは違う言葉を操り異国で奮闘することには、それなりの苦労が伴うものなのです。

日本にも(多くは労働力として)外国人が増え、日本にいながらにして非ネイティブ日本語話者と交流する機会はますます増えていくでしょう。その是非はともかく、事実として日本に来た外国人はそれぞれ大変な孤独を抱えながら暮らしているものと思われます。

彼らの孤独に寄り添う…というと少し大げさですが、非ネイティブとの会話の時にはこの記事で述べてきたようなことをちょっとだけ思い出していただいて、スムーズな日本語のやり取りにつながったら嬉しいな、と僭越ながら思っております。

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