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睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか (ブルーバックス)櫻井 武


この本は、睡眠について睡眠の科学的メカニズムがどのようなものであるのかについて、医師であり、医学博士である櫻井氏が解説を行いものです。

いわゆる「こんな風にすれば、睡眠はバッチリ!」というノウハウ本ではなく、タイトルの通り睡眠の”科学”的な側面について、知ることができる一冊です。

僕らはどんな危険を冒してでも眠る

一番おもしろかったのは、P221-223 第7章 睡眠に関する日常の疑問と、これからのテーマ

睡眠時間は、種によって実にさまざまである。コウモリや、オポッサム、ライオンなどは、平均して1日18時間から20時間眠るとされる。しかし、ウマやキリンなどの大きな草食動物は3時間以下しか睡眠をとらない。(中略)なお、クジラの睡眠を詳細に調べたという研究はないが、マッコウクジラはおぼれないように垂直に近いかたちに立てて、鼻先を海上に出して眠るらしい。どんなに無理をしてでも、どんな危険を冒してでも睡眠を省くことはできないのだ。

P3のはじめに にある一文と併せておもしろい。

野生の厳しい環境を考えてみてほしい。睡眠中、動物は外的に対してまったくの無防備になり、しかも活動もできない。だから、もし睡眠をとる必要のない動物が進化の家庭で生まれていたら、生存競争を勝ち抜くうえで圧倒的に有利だったはずである。睡眠を必要としない生物が地球を支配していてもおかしくはなかったのだ。しかし、実際にはそうはならなかった。水中のような特殊な環境で暮らすイルカや、長時間を飛行する渡り撮りでさえも、睡眠の呪縛から逃れることはできなかったのである。(中略)
 彼らはそれこそ命がけで眠るのである。

「睡眠」を一つの研究対象として見つめてみることのおもしろさを感じる一文でした。ある種のメソッド・ノウハウ本で、ちゃんと寝るのが大事だとか、3時間のサイクルで睡眠をとると、ということくらいまでは読んできました。

しかし、そういった本とは一線を画して、本書内では「それこそ命がけで眠る」ことを通じて、一体、僕らは何をしているのか。そもそも「眠る」にあたって、体内でどのようなことが起きているのかということを解き明かしていくのです。


僕らは寝るために生きている?

睡眠のメカニズムを掘り下げていく上では、著者の櫻井先生が発見なさった「オレキシン」の存在は欠かせません。

まず人間には「覚醒(起きている状態)」と「睡眠(寝ている状態)」があります。ここまではよいですね。

この「覚醒」と「睡眠」、どちらにじぶんの状態があるのかというのは、脳の状態によって変わることも体感的にわかりやすいと思います。

それでは、「脳の中で何が起きているか」がポイントになるのですが、ここには「睡眠」側に誘導する「GABA作動性ニューロン」と、「覚醒」側に誘導する「モノアミン/コリン作動性ニューロン」というものが存在しているらしいです。

この2つはちょうどシーソーの関係のように、どちらかへ傾き、その間はもう片方は弱まるという関係性にあるそうです。

そして、驚くべくは「睡眠」側の方にこそこのシーソーは傾く力があるのだそうです。先程挙げた「オレキシン」というものが、「覚醒」側へと傾ける作用をしており、日中はこれが「覚醒」側へと傾くよう安定的に働きかけているんだそうです。

なんでそうわかったのかというと、「オレキシン」の働きを無くしたマウス実験を行うと、「ナルコレプシー(居眠り病)」を引き起こすんだそうです。睡眠障害の研究をしていたところ、睡眠の正常なメカニズムが見つかったというような流れです。

ただ、これも比較的新しい発見だそうで、まだまだ睡眠についてわかっていないことは一杯あるそうな。

では寝ている間何をしているのか? 僕らはなんで眠るのか?

これは睡眠科学における究極の問いにして、今も答えのないものだそうだ。

P227-228  第7章 睡眠に関する日常の疑問と、これからのテーマ

かつて著名な睡眠研究者であるデメントは「なぜ眠るのか?」との問いに、「私が知るかぎりでは、はっきりしているのはただ1つ、眠くなるから眠るのだ」と答えたそうである。長年にわたり睡眠を洞察してきた彼ですらこう答えなくてはならなかったということだ。(中略)
はっきりしているのは、睡眠は「脳のメンテナンスのために必要」ということだ。そのメンテナンス家庭の詳細を知ることが、睡眠科学の次の課題である。

記憶の整理が行われているだ、あるいはもっと文学的に別の世界へと旅立っているだ、今は何と言ってもよいのでしょう。

できれば生きている内に知りたい気もするし、生きていくのには困らない。今のところは。

でも、そういった様々なことに手を出して、出来る限り知識を増やして、生きることを楽しむことが、この週一文庫でやりたいことなのです。


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