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【第三者の感想】夢の防音室を作るまで Vol.11

どうも、こんにちは。

オーディオライター、音響エンジニアの橋爪徹です。
ハイレゾ音楽制作ユニットBeagle Kickでは総合プロデュースも勤めています。

前回は、防音室が出来上がって引渡しの様子をお届けしました。完成後の音響特性も公開したので、アコースティックラボがどのように部屋作りを考えているかお分かり頂けた方もいると思います。

このnoteでは私が防音室を作るまでを書き残すことで、オーディオファン・映画ファンにとって部屋を作ることを身近に感じて欲しいと思っています。
「別世界の話」、「金持ちの道楽」といった、ある種突き抜けた行為だと思わないで欲しいのです。連載を終える頃には、その意図が伝わっていたら本望です。

今回は、第三者の感想特集です。防音室が完成して以降、友人知人を何人かお招きして感想を聞いていました。訪れたのは、オーディオ体験が初めての人ばかり。いったいどんな感想が聞けたのでしょうか。使用者本人のバイアスの掛かった意見ではなく、素直で正直な感想です。今、防音室に興味を抱いている方、ぜひ参考にして欲しいと思います。

一般の方は防音室をどう見た!?意外な感想も

まず、防音室に最初抱いていたイメージと、実際に体験してどう感じたかを聞きました。
やはり、プロのレコーディングスタジオやアフレコスタジオのイメージがあったという方が多いです。声優さんや実際にアニメ制作に関わっている方もいたので、音楽を楽しむ空間が挙がってこないのも頷けます。学校によくある”壁に小さな穴の空いた音楽室”を想像していた方もいました。アビテックスのような組み立て式の部屋を挙げた人もいました。なんと声優さんの1人は、自宅に組み立て式の収録ブースを持っている人もいました!
私の防音室を体験いただくと、まず多かったのは内装デザインへのコメントです。天井の化粧梁がオシャレであるとか、要所に使われた木の素材がスタジオっぽさを感じるという感想。声優さんからは、もっとデッド(響きが短い)だと思っていたという方もいました。私がアコースティックラボと打ち合わせしたときは、レコーディングスタジオのようなプロの雰囲気を出しつつも、映画を心地よく楽しめる暗室に適した色使いを要望しました。スタッフさんも適所にアクセントとなるような明るい色を使ってくれたので、トータルで居心地のいい空間になったと思います。

次に防音室の遮音性能について聞きました。
事前にこんな実験をやっています。

・低音のドカドカ鳴る激しい曲を通常有り得ないような大音量で流す
・防音扉越し、隣の部屋、リビング、ベランダと各所で漏れている音を聴く

扉越しや、隣の部屋ではさすがにどんな曲が流れているか聞こえます。しかし、間に2部屋分距離を取ったリビングでは「何か聞こえるね」というレベル。普通の声で会話が出来るし、テレビも落ち着いて観られます。ベランダに至っては、低音がかすかに聞こえる程度。音が漏れていることを知らないと周りの環境音に気を取られて気付かないくらいでした。
この状況を体験してもらうと、「ホントに聞こえない!」「夜でも音量上げられる!」という声がある一方、「カラオケの練習でも使いたいから、家族に家の中で聞かれないレベルだと理想的」というお話しもありました。やはり家族がいる方は、家の中への音漏れが重要事項ですよね。もちろんお金さえ掛ければ、もっと性能は高められます。壁を厚くするとか、防音扉を木製から金属にして二重にするなど。

訪問いただいた方には、音楽鑑賞・映画鑑賞・スタジオ機能を一通り見てもらいました。
音楽鑑賞で多かった意見は、「今まで聴けなかった音が聴けた」とか「真ん中からボーカルが聴こえる!ステレオ感を初めて体験した」とか「音がリアルなので、ながら聞きではなく集中して聴きたくなる」といったものがありました。防音室以前にピュアオーディオ体験が初めてという方がほとんどで、しっかりした音を前にして思わず聴き入ってしまう、没頭してしまうという様子でした。普段聴いている1枚のCDからこんなに情報が受け取れるという事実。さらにその上のハイレゾという未知の世界。もはや防音室の感想とは違う気もしますが、オーディオ体験を広めることができるのは僕にとって至上の喜びです。
映画鑑賞は、アニメやパニック映画、DOLBY ATMOSのテストDISCなどを上映しました。ホームシアター体験でよくある感想として、「家の環境ではセリフが聞き取りにくくて爆音にしていたけど、とても聞きやすい」をいただきました。我が家のシアターはセンタースピーカーを導入していませんが、それでも明瞭に聴こえるセリフに満足感を持ってくれた人は多かったです。その他にも、音の洪水とか、アニメをひたすら見て引き籠もりたいとか、嬉しいお声をいただきました。
スタジオ機能は、当時まだ吸音パネルを貼ってないときでした。広さについては、「収録には十分であり、むしろもっと狭い1人用のスタジオとかはある、この部屋なら2人の掛け合いだってできる」、と評価(?)いただきました。ゲームなどでの収録経験もあるプロ声優からもらった感想なので、これはちゃんと環境や機材を整備すれば、十分使えると確信できました。その後、吸音パネルを取り付けてトークバック回線を整備した頃、男性1名、女性1名と追加で訪問してもらい、収録テストをしました。レコーディング、プレイバック、防音室側と収録ブース間の会話(トークバック)、すべて正常に動作。「こんなリアルな音で自分の声を聴いたことがない」とコメントもらったときは、とても嬉しかったです。一方、「欲を言えばキューランプがあればやりやすい」とのお声も。機材を探しても見つからず、これは自作か!?って悩み中です。

アニメ制作全般に関わっていた方からは、作り手として貴重なお話しをもらいました。
「まず前提として、宅録文化が機材の普及とネットの発展によって広がってきた。潜在的な音楽制作者は昔より増えている。防音室はそういったクリエイターにとっても夢のある世界。作り手が増えると、作品の質も底上げされていくし、制作場所を作ることは自分自身を刺激することにも繋がる。想像力もさらに掻き立てられるだろう。施工金額を聞いたが、お金貯めてるサラリーマンなら十分現実的な数字だった。欲しい人がもっと増えれば単価も下がるのでは。しっかりした環境で真剣にアニメを見てもらえるなら、作り手側も嬉しいこと。」
いかがでしょうか。この方は、誰もが知る国民的アニメを作っている会社でアニメ制作に総合的に関わってきた方でした。今は独立してベンチャー企業をやっています。本当に嬉しくためになるお話しでした。

今回の招待で私が感じたのは、やはり防音室以前にオーディオ体験を広めなければいけないということでした。スマホやパソコンの埋込みスピーカーや安価なミニコンポでしか音楽再生を体験していない人が圧倒的多数になっています。専用の部屋は極端としても、ちゃんとしたオーディオシステムで聴くと、音楽が感動的になるということを知って欲しいと強く思ったのです。再生音楽がどのくらいのクオリティーで楽しめるかを知らなければ、防音室を作ろうなんて夢にも思わないでしょう。シアタールームは近いようでいて、また別のベクトルです。アコースティックラボは、シアターの施工もしていますが、多くが音楽を主目的とした注文が多いそうです。私も同じでした。
今後も、興味のある方を積極的にお招きし、新しい世界を知ってもらえるよう地道に頑張ろうと思いました。

作ってからが第2の始まり!何が変わった?Studio 0.x

さて、ここで話題を変えてグレードアップのお話しです。
防音室は作って終わりではありません。自分好みの音に近づけるため、現状の特性を知り、創意工夫を施すことで、さらに魅力的な空間に変わります。
私がこの一年、地道に施してきたグレードアップを紹介して、本稿は締めたいと思います。

※本内容は、執筆時点のものです。2020年現在はさらにいくつもの点で進化しています。

【振動対策】
スピーカーやアンプを置いている空間は縁切りといって床の土台からリスニングエリアと分かれています。これはリスニングエリアの床をスピーカーからの振動で共振させないことで、クリアな音を追求しています。一方、これが仇となってオーディオ機器を置いてあるスペースに振動が集中してしまいます。本来はラックなどを使って対策をするのですが、その費用が捻出できず、一枚のオーディオボードに直接アンプを置いていました。
エアーフローティングボードを使うことで、音像や音場のクリアネスが劇的に向上。ボンヤリしたサウンドステージはモヤが晴れたように明瞭になりました。

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床の縁切り。工事の段階で土台から完全に分離されています

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オーディオラックを使わずに、アンプに伝わる床の振動を遮断するために導入。エアーフローティング機構を装備したRAF-48H

【電源ノイズ対策】
マンションの電源が汚れているらしく、アンプの電源を入れるだけでスピーカーのツイーターから小さな「ジー」音が聞こえます。耳を近づけないと分かりませんが、一度聴こえると分かると気になります。仕事の関係でアンプをハイグレードなパワーアンプにしても状況はほぼ変わらず。間違いなくマンションの電源ノイズが原因のようです。お手軽な、AC電源フィルターを使ってみましたが、ジー音は消えず。(S/Nなどその他の改善効果はあった)あとやるとしたら、分電盤の専用ブレーカーの直下にアイソレーショントランスを取り付ける方法が考えられます。しかし、トランスをかます対策はその品質に大きく左右され、下手をするとノイズ以前に音が悪くなるというリスクが指摘されています。我が家でこれ以上の対策は難しいかもしれません。

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AC電源のノイズを、空きコンセントに挿すだけで大幅に低減 iPurifier AC
ウチの環境ではアースを取っていないため、赤ランプが点灯

【音の質感対策】
防音室には吸音パネルが必要です。適度に吸音して響きすぎないようにしてあげます。ウチはグラスウールの吸音材に木綿のカバーを掛けてもらいました。化繊のカバーは音の質感を悪化させるためです。ただし、実際の音は、中域から高域に掛けて増加するカサつき&バリつきが深刻で音質を損なっていました。弦楽器も生演奏を聴いたことのある人なら、首をかしげる違和感です。高域を中心にザラザラした不純物が混ざっている印象です。やはりグラスウールが化学繊維なので、質感を著しく害しているようです。検討の結果、シルクのオーガンジーをアコースティックリバイブから取り寄せ、画鋲で貼り付けることにしました。見栄えは超悪いです。でも、質感は劇的に向上しました。シルクが何故、繊維の中で音質的に有利なのかは私のBlog記事をご覧下さい。

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見栄えはイマイチ。音はピカイチ。

【画質向上】
プロジェクターは予算の関係でホームシアター用としては、最安値を購入しました。明るいシーンでは白飛びするし、暗いシーンでは黒つぶれ。色合いもくすんでいてどう見ても残念な画質でした。お金を貯めて、本格的な製品を導入するのが夢でした。求める画質はナチュラルなリファレンスタイプ。いくつか比較して、私はSONYのVPL-HW60に決めました。センターにレンズがある製品のため、右側にずらしていたスクリーンを中央に戻すことができました。これはずっと気になっていたのでスッキリしましたね。肝心の画質は激変!ライブ映像を見たら、画面に吸い込まれそうなほどリアルでした。半端な映画館よりキレイかも…… 22万円と高価でしたが、今では安い買い物だったと満足しています。

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センターに移動できたスクリーン。これで映画もゲームも違和感なく没頭できます

【スタジオ機能】
既に触れているので、詳しくは書きませんが、吸音パネルの貼り付けとトークバック回線の整備です。特に実用的なトークバックを構築できたのは、紛れもなく通線口を開けてもらったからです。設計段階では、ここまでのシステムにしようと考えていましたが、いざ作るとなると設定上の一工夫が必要で苦労しました。今後は、マスタークロックの導入やマイクのグレードアップなどセミプロレベルまで追い込んでいきたいです。

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吸音パネルをあちこちに貼ることで、ナレーションやセリフ録音に適したデッドな音響特性が実現

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折り畳み椅子を2個導入。何人か人が訪れても安心

【今後の課題】
オーディオラックを導入して、新たにネットワークプレイヤーを置きたいです。現在のBDP-103DJPは、DXDなどのハイレートには非対応でDSDも2.8MHzまでの対応です。そのあたりをカバーしつつ、MQAにも対応させたいところです。
吸音パネルを作り替えるのも野望です。ボディはグラスウールから吸音特性がフラットな低反発ウレタンに、表面の生地は木綿からシルクのニットに。かなりの金額が掛かりそうです…

ということで、夢は広がりますね!(笑)
防音室を作れば、一定のクオリティーはすぐに確保できます。特にアコースティックラボは単なる防音・遮音ではなく、音楽を心より楽しむための快適な音響空間を実現してくれます。
でも、一度その空間を体験すると欲が出てきます。もっといい音に出来るんじゃないか、さらなる感動が味わえるんじゃないか。
オーディオは果てがない創造的な趣味だと思います。
限界を決めず、創意工夫でより良いオーディオルームに仕上げていけるのは、部屋を作った後の楽しみでもあるのです。

次回は、いよいよ最終回!

技術監修:アコースティックラボ

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