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【防音室って何が出来る?】夢の防音室を作るまで Vol.12

どうも、こんにちは。

オーディオライター、音響エンジニアの橋爪徹です。
ハイレゾ音楽制作ユニットBeagle Kickでは総合プロデュースも勤めています。

前回は、友人知人を防音室に招いた感想を紹介しました。第三者の感想は、防音室に興味を持っている皆さんにとって、なかなかの説得力があったのではないかと思います。感想を聞いていると、防音室の啓蒙とかではなく、単純に新しい世界を知ってくれただけでも嬉しいことでした。

このnoteでは私が防音室を作るまでを書き残すことで、オーディオファン・映画ファンにとって部屋を作ることを身近に感じて欲しいと思っています。
「別世界の話」、「金持ちの道楽」といった、ある種突き抜けた行為だと思わないで欲しいのです。連載を終える頃には、その意図が伝わっていたら本望です。

今回は、ついに最後の更新。
防音室とは何なのか、何が出来るのか、使う人に何をもたらすのかを改めて総括してみたいと思います。

まず、防音室とはなんでしょうか。音を外に漏らさない。音を中に入れない。この二つが満たされていれば、ひとまず成り立ちます。アコースティックラボでは、優れた響きと快適な環境を実現するためノウハウを重ねていますが、さしあたって「漏れない」「入れない」の2つが最重要項目と言って差し支えないでしょう。
対して私の部屋は「防音スタジオ」ということにしています。意味付けはこうです。
【音を入れない・漏らさない、音楽と映画を楽しめるが、創作活動にも使用する】
防音した空間で、音楽と映画を楽しむのはもちろん、録音や編集用途でクリエイティブな活動にも使用するという意味で“スタジオ”としています。

防音室はこんなことが出来る!夢が広がる4つの空間

では、防音室に興味がある皆さんにとって、防音室はどういう場所になり得るのか。具体的に見てみましょう。

①.音楽鑑賞の空間
日本の住宅事情は、音楽鑑賞にとって不向きな要素があります。外への音漏れに配慮が要る・集合住宅は壁の遮音性能が低いことがある・同居している家族への気遣いが必要といった点が主なものでしょう。防音室を作れば、昼夜問わず十分な音量で音楽を楽しめます。小さな音量ではオーディオ機器の性能を引き出せませんから、愛機を味わい尽くすのにも防音室は役に立ちそうです。私の場合、隣の住人の電話の声がぼんやり漏れてくるほど壁の薄いアパートに住んでいました。壁ドンをやられたこともありますし、隣の戸建てから警察に通報されたこともあります。そんなトホホ体験を振り返ると、まったく音漏れを気にしないでいい、静かな環境で聴ける今の空間は夢のようです。もう前の生活には戻れません。

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オーディオを楽しむ空間としてもこだわり尽くせます。定在波が特定の帯域に偏らないように設計した部屋は、響きに無駄がなく不快感が最小化されています。重量のある堅牢な壁は、中低域の過度な吸音や不要共振を抑えてくれますから、音楽の迫力が増しました。屋内配線(Fケーブル)やコンセントなど、お気に入りのアクセサリーを使用してベースのクオリティを確保することもできました。

②.映画鑑賞の空間
ホームシアターブームは、DVDが爆発的に普及したPS2以降だったと思います。①で紹介したような厳しい日本の住環境でも楽しめるよう、小型のスピーカーセットやサウンドバー、ダイナミックレンジを圧縮する技術など様々な試みが今も行われています。そんな中、やっぱり映画館並みの映像と音で楽しみたいというファンがいるのも事実。映画を見られる防音室は、暗い空間にできること、プロジェクターが設置できること、サラウンドスピーカーを適切な位置に設置できること、この3点が最低でも必要です。アコースティックラボでは、この3点に加えて快適な居住性を重視した設計をしてくれます。

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自分の部屋では、サラウンドスピーカーを部屋のインテリアのように自然に施工いただきました。
私は映画だけでなくPS4でゲームもやるので、やっぱり没入感の違いが大きいですね。80インチのスクリーンに映された映像は大迫力。音楽ライブのBlu-rayなどは、映像に吸い込まれそうになります。映画のサラウンドは、正直普通のシネコンより音が鮮明で定位もはっきりしていて、自宅のほうがいいじゃないかとすら思えてきます。それに天井のスピーカーは部屋を作らないとほぼ不可能な贅沢。ATOMSサウンドを堪能できる環境はちょっと自慢したくなります。

③.楽器練習の空間
オーディオやシアターよりも、楽器を練習する空間として防音室を依頼する方が多いようです。これはアコースティックラボの受注している個人向けの防音室でも同じことで、特に不思議なことではないでしょう。グランドピアノを思う存分演奏できる空間、ドラムを夜間でも叩ける空間、その他弦楽器や管楽器の練習。大きな音の出る楽器は近所迷惑とのたたかいです。やむを得ず、リハーサルスタジオや公共施設の音楽室などを有料で借りる方もいます。プロはもちろん、アマチュアの方も発表会などを控えていると、日々の練習は欠かせません。音漏れの心配が無く、響きも適切に設計された防音室は投資価値がありますし、友達と一緒に練習もできますね。

④.創作活動の空間
私が録音を始めた2003年当初は、素人向けの機材と言ったらまだMTRが残っていた時代です。PCに接続するオーディオインターフェースは高価で種類も少なく、敷居の高い物でした。それがものの数年でリーズナブルになり種類も爆発的に増えて、一般の方がチャレンジし易くなりました。ニコニコ動画やYoutubeなど誰でも作品を発表できる場が整い、ネット回線も速くなったことで、雪だるま式に自主制作が拡大していったと思います。
しかし、いくら機材がリーズナブルになっても、モニターする環境や録音するロケーションが自分の部屋では、創作活動に最適とは言えません。全部ヘッドフォンで作業する人も増えましたが、やっぱりモニタースピーカーから十分な音を出してチェックすることが大事なのはプロも認めるところです。また録音は、外部の音が入らないだけではなく、十分な吸音がされていることが必要ですから、DIYで整えるにはハードルが高いでしょう。
そこで防音室です。アコースティックラボ(正確には系列会社が担当)は業務用のスタジオも多数手がけています。個人の要望にもそのノウハウを生かして柔軟に対応しているそうです。私も、簡易録音ブース内にオーディオグレードのコンセントを付けてもらったり、防音室まで通線口を設けてマイクケーブルなどを通せるようにしました。

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録音ブース全景

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モニター用のヘッドフォンアンプとマイクを収納するデジケーター

以下、ちょっと難しい話になります。録音関係に興味のある方はぜひお読み下さい。
防音室側にPCとオーディオインターフェースを設置し、録音ブースにマイクとヘッドフォンアンプを設置します。オーディオインターフェースからは同軸デジタルでAVアンプに繋ぎ、メインのスピーカーを鳴らせるようにしています。(モニタースピーカーは今後の課題)これで録音とモニターは可能になりましたが、部屋越しに会話ができません。簡易的ながらトークバックのシステムを構築しました。まず防音室側にミキサーを設置します。小型マイクを接続して、集音した音声はオーディオインターフェースに送ります。インターフェース内部のミキサーでトークバックの音声はPCに送らず録音ブースのヘッドフォンだけに送るようにします。これでブース側と防音室で扉を開けなくても会話ができます。

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真ん中の白いミキサーが防音室側の声を集音するための機材。

これを実用レベルにまで追い込むのは設定をあれこれと変更して追い込む必要がありました。どうにか完成したとき、自分の家でここまでやれる幸せを感じましたね。

ということで、ちょっと難しい話はここで終わりです。

ちなみにアコースティックラボでは造作のオリジナルDAWデスクやラックの製作などもできるらしいです。自分の創作意欲を思う存分発揮できる防音スタジオ。クリエイティブな活動には、環境から整えるのも実は大事なのです。

いかがでしょうか。自宅に防音室を作るといろんなことができるようになります。
出来合いのパッケージでは無く、設計段階から自分が関与するため、用途に応じて検討ができます。何を重視し、どこを妥協するのか、予算の許す限り自由自在なのです。自分の目的に合った場所を探すのではなく、目的に合った場所を作ってしまう。面白そうだと思いませんか?
私の場合は、音楽鑑賞メインではあるけれども、映画を意識した暗めの内装を採用し、一方でスタジオ特有の重苦しさを最小限に抑えることにも気を遣いました。予算と物件の制限の下で、納得のいく部屋が作れたと思います。

終わりに

Studio 0.xの名の通り、100%などない=常に向上する部屋にしていくためにこれからも工夫や投資をしていくつもりです。
部屋を作るにあたって、正直不安もありました。不動産を持つという重圧はもちろん、貯金の多くを溶かしてしまいましたし、自分を鼓舞しないと押し潰されそうでした。ありがたいことにオーディオの仕事も部屋を作ってから増えていき、確かな手応えを感じています。
私は仕事の部屋兼趣味の部屋なので、投資の理由としては納得のし易い部類だと思います。でも、仕事が一切絡まない目的であっても、部屋作りは特殊な行いではないと(今は)思えます。お金を持てあます人だけに許された特権でもありません。ともすると金持の道楽のように見えてしまいますが、全12回ここまで読んで下さった方は別の目線で見てもらえていると思いたいです。
音楽作品を聴くのが好きな人、映画作品を見るのが好きな人、創作活動に思う存分打ち込みたい人、そんな皆さんに防音室は意義のある選択肢として存在しています。それは文化的行為の感動を高めること、質を高めることに繋がります。単に作って終わりでは無く、はてなき探求の始まりでもあるから面白いと思います。
防音室、ちょっと調べてみませんか?

技術監修:アコースティックラボ

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