
エージェント会社ストレートエッジコラム第九回『創作のためになる映画』
前職は小説の編集者をしていました、三木一馬と申します。2016年3月31日をもって、株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス事業局を退社し、新たに作家のエージェント会社『ストレートエッジ』を立ち上げました。最終職歴は電撃文庫編集部編集長、電撃文庫MAGAZINE編集部編集長、主な担当作は、『とある魔術の禁書目録』、『ソードアート・オンライン』、『灼眼のシャナ』、『魔法科高校の劣等生』、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などなどです。
僕は年間相当数の映画を観ているのですが、それらはすべて、創作の勉強のためです(もちろん趣味もかねていますが!)。
その中で、これは創作の勉強になる!と思った映画やドラマをご紹介します。個人的な傾向ですが、僕はシナリオ構成や脚本、そして演出を重視しています。何十~何百億円もかけている映画と同様の映像はつくれないけれども、シナリオや演出は、作家の知恵と努力で、紙面に落とし込むことが可能だからです。
古いものも含まれていますが、創作を志している方でまだ観ていない方がいるなら、ぜひご鑑賞ください。必ずなにかしらのヒントを得られると思います。
①『スティング』
いまから40年も前の映画なのに、出だしから、今のトレンドを表現しているようなトリックと頭脳バトルを描いた映画。映画(創作物)は予算ではない、アイディアである、ということが分かる映画です。これは絶対に観ておかないといけないものです。
http://www.youtube.com/watch?v=8pY58pO_cUs
②『ファイトクラブ』
自分がこの世で一番好きな映画です。とにかく監督のデヴィッド・フィンチャーの確たる方向性が完璧に表現されています。はっきり言ってチャック・パラニュークの原作を軽く凌駕している映像の連続。クライマックスで判明するオチも秀逸。とくにルサンチマンを感じて、世間に不満を持っている方に観てもらいたい。そして、元気をもらってほしいです。
http://www.youtube.com/watch?v=PUfuc0mH3AQ
③『グラントリノ』
『アメリカン・スナイパー』で戦争映画の興行収入ナンバーワンを記録した、齢80歳に迫るクリント・イーストウッドの映画。彼の後期の名作とも言える作品。感動すること間違い無しです。ラスト、クリント自身が演じる主人公が見せる友情の姿、その切なさをぜひ『目撃』してほしいです。
http://wwws.warnerbros.co.jp/grantorino/
④『プラダを着た悪魔』
映画はビジュアルで決まる!という事実をこの映画は体現しています。ニューヨーク最高のモード世界とファッションをエレガントに、そしてコミカルに描いた映画。ハイセンスにカッコ良いし、アン・ハサウェイは美人だし、なによりオンナノコ映画なのにとにかく『熱い』! 男子にもお勧め映画です。
http://www.youtube.com/watch?v=DQyTJHwLL7E
⑤『キューティ・ブロンド』
西海岸で遊びまくってた頭からっぽなギャルが、東海岸で弁護士に挑む、という、ある意味アメリカ版『ビリギャル』的なストーリー。リースウィザースプーンの出世作。構成のカタルシスが秀逸です。
http://www.youtube.com/watch?v=_KJIP16E3P4
⑥『CUBE』
『SAW』に代表されるソリッド・シチュエーション・スリラーの先駆け的な映画。かなりの低予算映画で、インディーズからのし上がった作品。謎の場所に閉じ込められた人たちが、数学によって支配される密室から脱走しようとする物語。
http://www.youtube.com/watch?v=1LacRZPGeII
※派生の映画はクソなので観ないように。
⑦『SAW』
前述の、有名なソリッドシチュエーション映画、いちおう定番として。
http://www.youtube.com/watch?v=JcdQTXv0PaU
⑧『世にも不幸せな物語』
この映画の真骨頂は、エンディングロールにあり。ここだけでも観る価値がある。ティム・バートンの美術チームが担当したビジュアルはとにかく美しい。
http://www.youtube.com/watch?v=XWB1HGnA3tA
⑨『鉄コン筋クリート』
日本アニメ映画で(ジブリ除く)、仮に自分が原作者だったら、ここまで原作以上に完璧に映像化されたらもうなにもいえない……と思うくらい、完璧な出来に昇華されてた映画。あまりに高クオリティすぎて、リクープは無理なんじゃ、と心配してしまう。
http://www.youtube.com/watch?v=y4ZPnPbSb2Q
⑩『ゼログラビティ』
最近かつベタなので説明不要かもですが、宇宙空間に放り出された宇宙飛行士、彼女が生き延びるには!?という話。タイトルは邦題で、正式には『GRAVITY』なのだが、エンディングまで観ると、邦題が大変失敗しているタイトルであることがわかるだろう。
http://wwws.warnerbros.co.jp/gravity/
⑪『スラムドックミリオネア』
日本でもライセンスアウトで放送された『ミリオネア』で最高賞金を獲得したインドの貧乏青年の秘密とは……。トレインスポッティングのダニーボイル監督が、その才能をいかんなく発揮した作品。名監督の復活とも言われた。
⑫『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』
NIKEのCM(http://www.youtube.com/watch?v=lZA-57h64kE)も有名な、ロンドン五輪のオープニングを担当したガイ・リッチーの処女作。イギリス版『パルプフィクション』。
http://www.youtube.com/watch?v=KZh33gGK3Y8
⑬『エンパイアレコード』
アメリカン青春グラフィティ。ちょっと懐古主義ですが、つぶれかけたレコードショップをどうにか建て直そうとする、最高にダサカッコいい話。売れていないころの若いリヴ・タイラーも出てるよ。
http://www.youtube.com/watch?v=bxsb4iBOG_M
⑭『ミッション;8ミニッツ』
いわゆる「死に戻り」のストーリー。列車爆破犯を捕まえるため、8分間を何度も繰り返して列車事故を止めようとする話。ただのトリックオチで終わらず、最後はとても感動するクライマックスです。
http://disney-studio.jp/movies/mission8/
⑮『アクロス・ザ・ユニバース』
ビートルズの曲しか使用していない、とってもパッケージライセンス料が高そうなミュージカル映画。主人公がジュードでヒロインがルーシー、故郷はリバプールでアメリカでは反戦活動、とビートルズファンならニヤリと出来るシナリオになっています。
http://www.youtube.com/watch?v=ocjLy9oGf3g
⑯『スパイゲーム』
巨匠スコット兄弟の弟、トニー・スコット監督の作品。個人的にはリドリー・スコット監督よりもこちらのほうが好きです(いや、リドリー・スコットは最近も『オデッセイ』を撮ったり、なにより『ブラック・ホーク・ダウン』『12モンキース』を世に送り出したりと凄すぎる兄弟なのですが)。CIAの職員が、自身のビルから一歩も外に出ず、中国で囚われてしまった後輩スパイを知略のみで救い出す話。最後が超カッコ良いです。
https://www.youtube.com/watch?v=bOHpJMDCwgA
⑰『サイタマノラッパー』
カルト的な人気を持つ入江悠監督の初期インディーズ映画(僕は『日々ロック』『ジョーカーゲーム』も好きです)。夢を諦めない田舎のラッパーの話を、低予算でこんなにコンセプチュアルに創り上げたのは凄いと思います。
http://sr1.sr-movie.com/trailer.html
⑱『メメント』
今や『ダークナイト』『インターステラ―』『インセプション』などでハリウッドのトップ監督である、クリストファー・ノーラン監督の初期作品。10分で記憶を忘れてしまう主人公が、自身の身体に入れ墨を彫りながら犯人を捜す話。ラストから巻き戻っていくというストーリー構成は素晴らしいです。
http://www.youtube.com/watch?v=91QGubnDHSs
⑲『トレイン・スポッティング』
僕の青春時代の映画なので……。ダニー・ボイル監督の感性と才能が炸裂している、ハイセンス映画。ドラッグに溺れたイギリスの青年たちの話。ラストのアンダー・ワールド『ボーン・スリッピー』は美しすぎる。
https://www.youtube.com/watch?v=eMC68qlZnKg
⑳『ウォッチメン』
数多ある、名作アメコミ映画の中でも、僕はこれを推したい。ザック・スナイダー監督のダークでシリアスな映像美の良さが一番でているのはこの作品だと思います。原作の難所もかなり上手く改編しているし、なによりキーン条約下のニクソン政権時代に挿入される音楽が切ないアメコミヒーロー像をとても良く表しています。
https://www.youtube.com/watch?v=lpidTKGpucE
ほか、『ショーシャンクの空に』『ユージュアル・サスペクツ』『セブン』『ゲーム』『ミスティックリバー』『アフューグッドメン』『スリーパーズ』『シックスセンス』とかも勉強になりますよ!
<海外ドラマ編>
余談ですが海外ドラマ編です。
『バンドオブブラザーズ』
シリアス戦争物の金字塔。第二次世界大戦ヨーロッパ戦線、アメリカ陸軍パラシュート部隊の孤立した戦いを描く。
http://www.wowow.co.jp/drama/bob/
『パシフィック』
上の太平洋戦争版。個人的にはクリントイーストウッドの『硫黄島からの手紙』のほうが良かったかな……。
http://www.wowow.co.jp/drama/pacific/
『ホワイトカラー』
稀代のイケメン詐欺師が泥臭い刑事とコンビになってインテリたちの犯罪を追う話。吹き替え推奨。
http://video.foxjapan.com/tv/whitecollar/
『バーン・ノーティス』
スパイを首になったスパイが元勤め先に報復する話。日常グッズから武器を作り上げる天才。ちょっと過激な『マスターキートン』的な。
http://video.foxjapan.com/tv/burnnotice/
『ブレイキングバッド』
重度のガンと宣告されたさえない化学教師のおやじが、逆ギレして高品質の麻薬をつくる話。これ、自分の人生でもっとも面白いと感じたドラマです。スピンオフの『ベター・コール・ソウル』もオススメ。
https://www.youtube.com/watch?v=8Rp2ulhINPo
ほか、『ハウス・オブ・カード』『SUITS』『ゴッサム』『ラストキングダム』『ゲーム・オブ・スローンズ』『ザ・ソプラノズ』『ホーン・ブロワー』『シャーロック』あたりオススメです。個人的には、『トルゥー・ディティクティブ』をはやくBDで観たい!!
お目汚しすみません……。
【ご質問への回答】
■ケイトさん
> 質問です!電撃文庫様の作品にはKindleに対応している作品としていない作品がありますよね?Kindleに対応したほうがより沢山の人の目に触れる機会が多くなると自分は思っているのですが、これは一体何故なのでしょうか?宜しくお願いしますm(__)m
→これは作家さんと編集者のシリーズをどう展開していくかという考えに基づくジャッジですね。向こうさん(電子書籍サイト)もタイトルを自由に選ぶ権利があるように、こちらもプラットフォームを自由に選ぶ権利を持っています。その中での判断ですが、絶対に提供しないわけではなく、時間差で提供したりなど、このあたりは戦略的な思惑も入っています。
■seekerさん
> 素朴な疑問なのですが、今現在ストレートエッジ所属の編集者は三木一馬さんの他にはいらっしゃるのですか?
→実は……今は僕だけなのです、はやく仲間をつくりたい……。
■『ストレートニュース』
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