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ぼくが同性を好きであったとき

ぼくが同性を好きであったとき
それは中学3年生だった
これといったきっかけはないけど
きみは優しくて面白かった
きみの異性の友達とは
ぼくは見事に打ち解けられなかったけど
たのしそうなきみを見れたからよかった

きみから英語の問題集を借りた
きみは「家のにおいがしみついてるからちょっとはずかしい」と言った
ぼくはそれを何周も解いたし、ベッドのそばに置いてにおいをかいだりもした

ぼくはよく想像をした
ぼくが、ひょんなことからきみの家に招かれる夢
そして夕暮れの中、オレンジ色がしっかりとしまったカーテンから少しもれるような
そんな部屋の、きみのベッドで
ぼくときみが抱き合っているような
そんな眩暈のするような
ふわふわと柔らかい世界を
ぼくはよく寝る前に頭の中で描いたりした

そんな日々が続いて
いよいよ受験もはじまるなぁという季節
ふとぼくは想った

ぼくはきみに恋してるんじゃあなくて
同性に恋しちゃったぼく自身に恋してるんじゃないかって

それはとても寂しかった

そういうことになってしまうと
ぼくはきみをいつか好きではなくなるのではないかと
きみに話しかけられただけでふわふわと浮き立つこの甘い気持ちも幻のように消えてしまうのではないかと

それはとても寂しかった

だからぼくは
さめるさめない関係なしに
今このさめない情熱を
ガラケーのメモにありのままに綴った
最後に日付を入れると
そのメモにロックをかけて
だれにも見られないようにした

そしてその後もぼくは何度もあの架空の夕暮れの部屋を思い浮かべた
とても幸せだった

そしてぼくのきみに対する想いは
ガラケーのメモのようにかたくなにだれにも見せなかった
もちろんきみにも伝えることはなく
ぼくは卒業して、きみと違う高校に入った

うれしいことが起こった
きみと降りる駅は違えど、電車がよく一緒になった
ぼくはきみと短い短い数分間、じっくりと会話した
名残惜しい気持ちを抑えながらぼくは先にホームへ降りる
毎日にまた彩りがもどるのを感じた

しかしその日はきてしまった

ある日駅できみに会ったとき
きみの幼なじみが偶然その時間に現れた
それはほんとうに偶然だったのだろう
きみと幼なじみは会うのが本当に久々だったのだろう

2人はわあっと ぎゅっと抱き合い喜んでいた

ぼくは一度も触れたことなかったのに

触れられたこともなかったのに


外面の笑顔の内側のぼくの
何かの想いの塔のようなものが
ガラガラと崩れ去る音が聞こえた

そしてぼくの幻想のナルシストはその日確実に死んだのだった


それ以降きみ程にときめく同性は現れないし
結局ぼくは異性をすきになり、交際をしている

あの時のガラケーはまだ家にあるけど
電源がつくのかはわからない
内容は忘れてしまったけど
いつの日にかふと読み返してみたい
けどそれにはまず充電器を探さなくては

ただ、その労力をかける程の気持ちは
今のぼくには一切ないのであった