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ファンが増え続ける秘訣は、ミッションを柱としたPRにある(Minimal・山下貴嗣さん)

人と社会のコミュニケーションのありかたを探り、さまざまなPRパーソンの道しるべとなる記事を届ける「PR Compass」。今回は、Story Design house(以下SDh)と共にブランドのストーリーを大切にしたPR施策を行ってきた、株式会社βace・山下貴嗣CEOにインタビューしました。

株式会社βaceは、原料の仕入れから商品の製造までを一貫して行う「Bean to Bar」のチョコレートブランド「Minimal -Bean to Bar Chocolate-」の運営会社です。2014年の創業以来、「チョコレートを新しくする」をミッションに掲げ着実にファンを増やしてきました。MinimalがPR施策をはじめてから、それが軌道に乗るまでのプロセスはどのようなものだったのでしょうか。そして今後の展望とは。

MinimalのPRを初期からお手伝いさせていただいた、SDhの森祥子がお話を伺いました。

山下貴嗣さん/ 株式会社βace 代表取締役CEO
日系の経営コンサルティングファームを経て現職。チョコレートを豆から製造するBean to Bar文化との出会いを機に、βace創業。チョコレートブランド「Minimal」を展開する。noteにてリアルなブランド経営の学びを発信している。

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左からMinimal・山下さん、弊社・森

なぜ「広告」ではなく「PR」を選んだのか

——Minimalさんはブランドを立ち上げた1年目からPRをはじめられて、2年目からは弊社もご一緒させていただきました。そこから本格的にPRをはじめられましたね。

創業が2014年で、ご一緒したのは16年からでしたね。

——山下さんはnoteで「広告費0円で掲載1500以上獲得の秘訣」という記事も書かれています。そもそも、数あるマーケティング手法の中で、なぜ「PR」に力を入れられたのですか?

いきなりこの取材の前提をひっくり返してしまうかもしれませんが、積極的にPRを選んだ意識はないんです。そもそもPRって何なのか、いまだによく分かってないですし(笑)。

ただ、PRは「知恵と工夫」でできる部分が多いと思っています。それが大きかったですね。僕らはBtoC企業として「ブランド」を作ることに最初から注力していました。ブランドがきちんとした文脈で世の中の人に伝わる機会を増やすことを「PR」とするならば、それは必要不可欠でした。いわば「呼吸をするようにPRをしてた」感じです。

——PRのパートナーはどのように選ばれましたか?

一番はPRに対する専門性ですね。ベンチャーで手が回らないし、自分たちで何をやっていいかも分からないので、プロフェッショナルに頼むこと早くから考えていました。また、戦略まで一緒に考えてくれる人たちと活動していきたいと思っていました。

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背景も伝え、ストーリーに一貫性を

Minimalはラッキーなことに、初めてのプレスリリースで200〜300件の取材をいただくことができたんです。2015年から16年にかけて日本でBean to Barブームが起き、Minimalはその先駆けとして、テレビをはじめとした多数のメディアに取り上げていただくことができました。

——Bean to Barブームの1年目と、その後の2年目以降で、発信していく内容に変化はありましたか?

1年目も2年目も同じだと思います。「こういうポジショニングで、こういうメッセージを発していこう」というのは、ローンチして1年目の夏からゆるやかに決めて、その後大きく変わることはありませんでした。しかし、SDhさんと一緒にPR活動をするようになって、やるべきアクションやプロセスがわかってきました。

——効率的に動けるようになってきたということですかね。

そうですね。どの時期に何をするべきか、という点も明確になりました。 
   

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——発表会などで、工夫・意識してきたポイントはありますか? 

「僕たちが何者で、何をしたいのか」を一番に伝えることです。「Minimalはショコラティエでもパティシエでもなく、カカオのプロフェッショナルです」という立ち位置。そして、それに対する思いや自分たちの活動を伝えていく。

メディアで取り上げられるのは、あくまで「商品」です。しかし、それが誕生する背景もきちんと伝えるようにしていました。そのことによって、Minimalのファンになってくれるメディアの方が増えたと思います。例えば、担当が変わり、うちの商品が関わらなさそうな雑誌に異動になっても、毎回発表会に来てくれる編集者の方もいらっしゃったりしました。

——Minimalさんには、コアなファンが定着していますよね。発表会といっても、「今年の新作はこれです」と伝えるのではなく、山下さんのブランドへの思いと活動内容を話してから、商品の説明に入る仕掛けを作りました。

「まずブランドストーリーがあり、その延長線上に今年のテーマを設定し、こういう新商品を作った」という一貫性が伝わる発表会にしていますね。こうしたブランドは意外と少ないのかもしれません。顔が見えないブランドも多いですからね。

——逆に、いまから振り返って「これはよくなかった」と思うような施策はありますか?

よく聞かれるんですけど、全然覚えてないんですよね(笑)。たくさんあると思うんですけど、うまくいかなくても失敗と認識してないから、パッと出てこないんです。無駄なことなんて1個もなかった。

トライアンドエラーを繰り返している例でいえば、1年目は「カカオ」「カカオラボ」といったワードを打ち出していたのを、2015年の夏に「チョコレート」に変えました。今は少しずつ変わってきましたが、当時はまだお客さんから「カカオ」が半歩遠かった印象です。おいしい「カカオ」が食べたいというより、おいしい「チョコレート」が食べたいという需要のほうが大きかったんです。「おいしい『カカオ』ってまだ早いんだ」と思った記憶があります。

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適切な文脈で、適切なメディアに出る

——どういったきっかけで来店されるお客さんが多いのでしょうか?

「誰かがおいしいと言ってた」「誰かからもらって食べておいしかった」といった口コミが一番多いです。それにプラス、メディアにたくさん出させていただいていることで、口コミとメディア露出による認知が重なって「どこかのメディアで見たことある」「あ、あそこだ!」という想起が生まれているように思います。

僕たちは、多くのメディアに出ることを目的にはしていません。量ではなく、適切な文脈で適切なメディアに出ることで、適切なお客さんにメッセージが届くことを意識しています

——Minimalさんは創業から5年経ったいまでも、むしろ露出が増えていってるように思います。

この数年でメディアとのリレーションを構築できて、着実にファンの方ができたことが大きいと思います。メッセージをきちんと届けられてるからこそ「Minimalってこうだよね」という期待が生まれ、その期待値も含めてずっと追いかけてくださるメディアも多いです。

——山下さんは個人でも積極的に発信をされていますが、その意図はなんでしょうか?

Minimalで一番がんばってくれているのは、現場のスタッフです。いってしまえば、僕はピエロみたいなものですね(笑)。

個人のnoteもTwitterも、全てMinimalのためだと思ってやっています。僕が有名になりたい欲求は一切ないので、「この場で何を伝えたらMinimalのファンが増えるか」だけを考えて発信しています。

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ブランドの「内側」と「外側」

世の中のトレンドはあまり追ってないんですよね。

——さきほど「適切な文脈でメディアに出る」というお話がありました。「トレンド」と「文脈」は似ている言葉だと思うのですが、違うものとして考えていらっしゃいますか?

文脈は、Minimalの内側から出てくるものです。一方トレンドは、外側から来るもの。その中にブランドとして適切に乗れるものがあれば乗ります。いいトレンドだと思ったら、乗れる要素はないか、Minimalにこういう光の当て方をすればそのトレンドの話と一緒になる、といったことは考えます。まさに「知恵と工夫」ですね。けれど、もともとMinimalの内側にないものを、無理矢理外側とくっつけることはしません。

——無理に乗っても、お客さんは違和感を感じてしまいますもんね。

トレンドとの関係でいえば、「簡単にバズる」方法はいくらでもあったと思うんです。でも、SDhの森さんたちは、僕たちがそうした手法に嫌悪感を持つことを理解して、寄り添ってくれた印象があります。Minimalのストーリーを崩さずにどう伝えていくか、にとても気を遣ってくれました。

——Minimalさんには「ブランドをこう伝えていきたい」という芯がありました。「この切り口や施策は違うな」という勘所は、一緒に活動していく中で理解していくことができました。

メディアに継続して取り上げていただき、出続けられているのは、「無理をしていない」というのも大きいですね。

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効果的な「知恵と工夫」が生まれる秘訣

——「知恵と工夫」を凝らす必要性については、みなさんが同意されると思うんですけど、その具体的な方法がわからない人が多いと思います。山下さんはどうされましたか?

Minimalの場合は「チョコレートを新しくする」というミッションにすべてが集約される構造を作れたのが大きいです。どんな切り口の質問に対しても、ミッションという柱にどう光を当てて話せばいいかということが頭にパッと浮かぶようになっているので、スラスラと伝えることができます。

——その柱ができたのはいつぐらいでしょうか。

もともと、この柱をもとに会社を立ち上げてはいるんですが、きちんと言語化できたのはローンチしてから1年後ぐらいです。僕のこの会社における役割って”編集者”なんですよね。会社と商品とブランドをどう物語として編集するか。

ある商品を部分的にみると、僕らと同じようなことをされているブランドもあると思います。しかし、根本にある思想と物語の編集の仕方が他とは違う。全てを紐づけてストーリーに一貫性を持たせてることが、僕たちの強みですね。だから、どの切り口から伝えても、メッセージも一貫性のあるものになるんだと思います。

ブランドは「2階建て」で伝える

最近よく話しているブランド論があるんです。

——なんですか?

ブランドは「2階建て」を意識して伝えないとダメだということです。その業界やプロダクト・サービスにおける、外しちゃいけないベーシックな要素が1階で、差別化の要素が2階。

みんな2階のことばかり話したがるし、2階しかお客さんに認知されていない場合も多いです。しかし、特に食のプロダクトは、1階のベーシックな機能を外しているとただのブームで終わってしまうんですよね。あまり取り出たされることがなかったとしても、1階の基盤がしっかりしていると残っていく。

「カカオ」と「チョコレート」の話もそうです。「食感だ」「香りだ」と2階にばかり注目して「カカオだ!」と打ち出していたんですが、いやいやちょっと待てよと。「おいしいチョコレートの良さって何だろう?」という1階の要素をきちんと分解して突き詰めて、初めてその上に香りや食感が乗るんだと。

——なるほど。1階の土台がしっかりしてるからこそ、2階にあたる商品を少し変化させても、ブランドはブレないんですね。

PRにおいては、この1階と2階の両方について話すことが大事だと思ってます。みんな2階の差別化の要素ばかり聞きたがるけど、1階がしっかりしてると「この人たちはこだわりがある」ということが伝わっていく。そのバランスは、活動の中で学びましたね。

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「Bean to Barのアップデート」で目指す未来

——今後のMinimalの展望を聞かせてください。

まずは、おいしくて新しいチョコレートを世の中に提供し続けること。そして、Bean to Barをトレンドで終わらせず、カルチャーにしていくことです。Minimalの2020年のテーマは「Bean to Barのアップデート」としています。今までは板チョコというソリッドなソリューションに注力してきたんですけど、それに加えて、手に取りやすいお菓子を作っていきます。お菓子といってもこだわりのお菓子を作っていきたいです。

この5年間は「Bean to Barっておもしろいよね」という高いハードルを越えてくれた人たちが、Minimalを食べて「おいしい」と言ってくれました。つぎの5年間は、逆の流入を作りたいんです。というのも、「Bean to Bar」自体に興味を持つ人は世の中に10%もいないと思うからです。それ以外の90%の人たちが手に取りやすいものを作り、食べてみたらおいしくて、特徴的な香りがして、「あ、これBean to Barっていうんだ」と興味を持ってくれる流れを作りたい。そうすれば、裾野が一気に広がります。

新しいシーンを創出し、その「一番」になる

Minimalは2019年から「カカオツアー」というサブスクリプションサービスを始めています。これには、日常の中に「Minimalの想起シーン」つくってもらいたいという狙いがあります。板チョコは、日常的に多くの人が食べている。これまでの文脈は100円のお菓子として売られてきた。しかし、だからこそ改めて「板チョコってどういうシーンで食べるんだっけ?」ということを考えると、よくわからない。「子どもが食べる3時のおやつ? 大人も食べるけどいつだろう」みたいな。

「シーンが曖昧」というのは、ブランドづくりやPRにおいて障壁になります。プロダクトと、それに付随する物語の延長線上に、お客さんに想起されるシーンをどれだけ増やせるかが大事です。このことは、年末にnoteでも書きました

——1000円の板チョコを食べるシーンは、たしかに想起しづらいですね。

そう。板チョコは身近で低単価のお菓子のイメージが強いため、消費シーンが想起されにくいんです。であれば、そのシーンをいかに作るかが今後のPRの課題です。もし高価格帯の板チョコの消費シーンを創りだして、その想起No.1がMinimalであれば、僕たちはその中でプレゼンスを発揮していける。

それがBean to Barをアップデートし、カルチャーにしていく上でとても大切になると考えています。そのためのコラボレーションも積極的に行っています。チョコレートを添えることでそのコンセプトが強化される文脈って、意外とたくさんあるんですよね。

——今後の展望も「チョコレートを新しくする」というミッションとストーリーにきれいに繋がっているように感じます。

僕たちは「Life with "Good" Chocolate」を掲げています。人々の生活にチョコレートが寄り添うシーンを、これからも増やしていきたいです。

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Story Design houseでは「意志あるところに道をつくる」をミッションとして、さまざまな企業のPR活動を支援しています。是非、ウェブサイトもご覧ください。
お問い合わせはこちらから。 https://www.sd-h.jp/contact

(編集:原光樹 構成:薄井慧)


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