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みんなで本を読み、みんなで本をつくる。本と読者の新しい関係

こんにちは、はじめまして。Story Design houseの鈴木です。

私たちStory Design houseは、企業や団体の事業成長に寄りそうコミュニケーション戦略パートナーとして活動している会社です。「意志あるところに道をつくる」をミッションとして、挑戦する企業やブランドをコミュニケーションの領域から支えています。
日々の活動で私たちが見つけた、PRやコミュニケーションの「道しるべ=コンパス」を、このnoteでは綴っていきたいと思います。

今回のテーマは「本」。
情報収集やクライアントの課題解決のため、本を手にとることが多い私たち。仕事を離れても、活字を楽しむメンバーがたくさんいます。私自身、以前は出版社で働いていた経験もあり、本にはひとかたならず思い入れがあります。
今回は、そんなメンバーたちと仕事をするなかで気がついた2つの話題を取り上げたいと思います。

ひとつは、新しい読書のかたちとして注目され始めている「アクティブ・ブック・ダイアローグ」について。もうひとつはファンを巻き込んだ本づくりについてです。

本が売れなくなっている時代に

出版科学研究所によると、2018年の紙の出版物の推定販売金額は、前年比5.7%減の1兆2921億円で、14年連続のマイナスでした。一方で、電子書籍の売上はコミックを中心に伸び、前年比11.9%増の2479億円とのこと。電子書籍が好調とはいっても、紙と電子を合わせた出版の市場規模は縮小を続けています。

本が売れなくなっている時代。作品の魅力を読者に伝え、手にとってもらうために、出版をとりまく人たちはさまざまな試みを行っています。
たとえば、書店員の方たちの取り組み。カリスマ書店員・新井見枝香さんが選ぶ「新井賞」は、直木賞受賞作よりも売れたことがあるそうです
また、老舗出版社の早川書房はnoteを「WEB版のPR誌」と位置づけて活用し、これまでリーチできていなかった読者層に作品を届けることに成功しています。 

新しい読書のかたち

「アクティブ・ブック・ダイアローグ」(ABDと略します)の広がりも、出版社が起点となって仕掛けた新しい取り組みと言えると思います。もともとは竹ノ内壮太郎さんが開発した読書法で、この数年で広がり始めた新しい読書のかたちです。
ABDは、一冊の本を複数人で分担して読む手法です。自分が割り当てられた箇所だけを熟読し、サマリーをまとめ、短時間のプレゼンテーションや対話を通して一気に読破します。
読書というよりも、ワークショップというほうがイメージが近いでしょう。5~10人程度で、扱う本にもよりますが2〜3時間ほどで行います。

ABDの大まかな流れは、次のようになります。

1 要約づくり(30~60分)
——割り振られた本の一部をそれぞれが読み込んで、発表用の紙にまとめていきます。文字でも、図やイラストを使ってもOK。

2 リレー・プレゼン(2分×人数)
——要約した紙を壁に貼り、順番に内容をプレゼンしていきます。自分の読んでいないパートについては、他の参加者のプレゼンを聞くことで初めて知ります。

3 ダイアログ(30~60分)
——プレゼンを受けて気になった箇所に注目しながら、参加者全体での対話を行います。さまざまな視点から議論が起こり、ひとりの読書では得られない体験になります。

ABDの進め方や面白さについては、倉貫義人さんのこちらの記事が参考になります。

Story Design houseでも、社内でABDを開催しました。
扱った書籍は、仲山進也さんの『組織にいながら、自由に働く』。当日の様子はWantedlyブログにも掲載しているので、そちらもあわせてご覧ください。

実際に体験してみるとわかるのですが、ABDはとても楽しいんです。読み通す自信のない難しい本に気軽に取り組める楽しさもありますし、短時間に集中して読むことや、参加者同士の対話から新たな気付きを得ることにも楽しさを感じます。

ただ売るのではなく

 実は今回開催したABDでは、出版社の日本能率協会マネジメントセンターさんから「ゲラ」(製本されていない状態の印刷物)を無償で提供していただいています。お願いのメールを送ると快く応じていただき、すぐに手配することができました。

ABDでは、参加者の担当パートごとに本を分割する必要があります。そのためには、1冊を裁断して配るか、全員が同じ本を用意してくることになりますが、ゲラがあれば読書会の開催のハードルはぐっと低くなります

日本能率協会マネジメントセンターのほか、『ティール組織』の英知出版『管理ゼロで成果はあがる』の技術評論社などでも、ABD向けにゲラが無償提供されています。

なぜ、ゲラを無償で提供するのでしょうか。売上を考えれば、読書会の参加者が1冊ずつ購入してくれた方が嬉しいはずです。

昨今、ウェブ上で書籍の一部やすべてを無料公開する試みが増えていますが、ABDもこれと同じ発想と考えられます。タッチポイントをつくっているのです

たとえば、『ティール組織』は500ページを超える分厚い本です。いくら話題になっているとはいえ、いきなり購入するのはハードルが高い。読書に抵抗がない人であっても、理解できるかどうか、読み切れるかどうか不安が拭えないでしょう。

そこで、ABDの出番です。参加者全員で一冊を通読したかのような状態をつくる。要約を自分でつくり、感想を積極的に語り合うことによって、作品へのコミット感や親しみがわく。書評などを読むこと以上に、その本への興味関心が参加者それぞれに醸成されます。ほかの参加者が要約した部分もちゃんと読んでみよう、この本を通読してみようというモチベーションが湧き、購買につながる、というプロセスが推察されます。

信頼できる他者による評価は、納得感が増すものです。ABDでの対話を通して、本の魅力をより感じるという効果もあるでしょう。読書会の体験が、本の購入にもつながっていきます。

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つくる側に巻き込む

もうひとつ、ファンを出版に巻き込んだ事例に注目したいと思います。

長尾彰さんの『宇宙兄弟 今いる仲間でうまくいくチームの話』は、マンガ「宇宙兄弟」を引用しながらチームビルディングを説いたビジネス書です。この本のあとがきには、こう書かれています。

「(本の執筆に)行き詰まったときには、『宇宙兄弟』のファンクラブ「コヤチュー部」のみなさんに助けていただきました。実際に集まり、「こんなふうにしたらいいんじゃない?」と、話し合いながら関わってもらえたことがとても励みになりました。」

「今いる仲間でうまくいく」という副題のアイディアも、ファンクラブのメンバーから出たものだそうです。

「宇宙兄弟」のファンが、原作マンガにとどまらず、関連するビジネス書の著者と交流をもち、その本の制作プロセスに関わっている。ちょっと、びっくりしませんか。
マーケティングの言葉でいえば「コンセプトアウト」。本そのものの価値だけでなく、本をつくることに関わるという価値をも読者に提供しているのです。

多くの本は、著者や出版社が主体となって「プロダクトアウト」的につくられているといえるでしょう。コンセプトアウトとプロダクトアウトの違いは、商品提供者と消費者の関わり方にあります。書籍の場合にどちらが優れているということではなく、制作のアプローチ手法が増えているということでしょう。つくり方が異なれば、おのずと売り方も変わってきます。

 新しいタイプの読書会も、ファンを巻き込んだコンセプトアウト的な本のつくり方も、いまの時代に沿ったコミュニケーションのデザインです。こうした、本と読者をつなぎ直す新しい取り組みが、出版の未来を少しずつつくっていくのだと思います。

Story Design houseでは「意志あるところに道をつくる」をミッションとして、さまざまな企業のPR活動を支援しています。是非、ウェブサイトもご覧ください。
お問い合わせはこちらから。 https://www.sd-h.jp/contact


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