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SF短編小説 「リリィの願い」


神の惑星、アルデバランは青紫色の空が広がり、彼らの独特な美しさを誇るツルツルの頭を持つ星人たちが純白の建物群の中で暮らしていた。星の夜空は多彩な光で彩られ、それは彼らの文化や生活の中にも色濃く反映されていた。

好奇心旺盛なリリィは、この星の中でも異彩を放っていた。彼女の部屋は、光を纏った布で装飾され、壁一面の窓からはアルデバランの美しい夜空が広がっていた。

部屋の一隅には、地球を映し出す遠距離望遠鏡が鎮座しており、その前でリリィは毎日何時間も地球の風景を眺めていた。風に揺れる黒髪の少女が、公園のベンチで友達と笑いながら遊ぶ姿に彼女は心引かれ、その髪を指でくるくると巻いて遊ぶ姿を優しく見守っていた。

その声に、部屋に溜まった静寂が少し揺れた。窓の外の星々が彼女の心の動揺を映しているかのようにキラキラと輝きを増していた。彼女の目は、それをとらえることなく、地球の風景を映す遠距離望遠鏡のスクリーンへと吸い込まれていった。

遠く離れた地球で、黒髪の少女が笑顔で髪をなびかせて走っている姿が映し出されていた。

彼女がその思いにふけっていると、部屋の扉が優しくノックされた。入ってきたのは、彼女の友人、ミリアだった。彼女は光り輝く紫のドレスを纏い、リリィに向かって微笑んだ。その瞬間、部屋にはふたつの星が輝くような笑顔が光っていた。

「久しぶり、リリィ。ちょっと時間がある?」ミリアは言いながら、彼女の部屋のソファに腰を下ろした。リリィは彼女の優しい笑顔で返事をした。

「もちろん、ミリア。どうしたの?」

ミリアは少し緊張した面持ちで、リリィに一つの噂の話を持ってきたのだった。

「リリィ、モウコンって知ってる?」ミリアの声が少し震えていた。彼女は瞳をリリィに寄せ、続けた。

「その伝説の場所の奥深くには、聖水の泉があると言われている。浴びれば私たちの頭にも髪の毛が生えてくるって話を聞いたことある?」

リリィの目には驚きの光が浮かんでいた。その目は、遠くの星のように深く輝いていた。

「本当に?」彼女の声は震えていた。

ミリアはリリィの反応をうかがいながら、そっと彼女の手を握った。
「実は、この噂を知ったとき、最初は信じられなかったの。でも、何人かの星人が試しにモウコンに行ったって話も聞いたわ。結果は、うーん、いろいろみたい」

リリィは思案の表情を浮かべた。彼女の心の中では、希望と疑念が交差していた。髪の毛に触れることのできる新しい自分の姿を想像すると、心が高鳴った。
しかし、それが現実のものとなるかどうかは未知のもの。モウコンへの道のりは遠く、危険も伴うだろう。それでも、一度火がついた彼女の好奇心は、そう簡単には消えることがなかった。

「ミリア、ありがとう。もし、これが本当なら、私も試してみたい」リリィの声は決意に満ちていた。

ミリアは微笑んでリリィの頭を撫でた。

「冒険の心があるのね。でも、気をつけて」

リリィは頷き、深い呼吸をして、自分の決断を確かめるように言った。

「モウコンへ行く。私も髪の毛を持ちたい」

夜が明け、神の惑星の空には黄金色の光が広がっていた。リリィは早速、伝説のモウコンへの旅を始めることに決めた。彼女の前には、アルデバランの中心へと続く長い道のりが広がっていた。一歩一歩進むごとに、風景は荒涼としたものに変わっていった。

途中、彼女を迎えたのは、凍てつくような寒さの中、青く輝く氷の洞窟だった。その中には、時折、銀のような光を放つ氷の柱が立ち並んでいた。さらに、彼女の道を遮るように突如現れる巨大な星の虫たち。その虫たちは、黒く光る多数の目をキラキラさせながら、彼女を警戒していた。

しかし、リリィの心の中には強い決意が宿っていた。そして、彼女が昼夜眺めていた、地球の髪の毛を持つ女の子への深い憧れ。それが彼女を前に進めさせ、どんな困難にも屈しない力となっていた。

そして遂に、リリィはモウコンの神秘的な中心部に足を踏み入れた。彼女の目の前に広がる景色は、透明な水蒸気が立ち上る中、金色に輝く聖水の泉だった。泉の上空を舞う小さな光の粒子たちが、彼女を迎えるかのようにキラキラと輝いていた。

彼女は息をのんで座り込み、その神聖なる水面へと近づいた。迷わず手を伸ばし、聖水を頭の上にかけた。冷たい感触と共に、身体を通る微かな電流のようなものを感じた。顔を上げ、空気中の水蒸気が光を反射して、彼女を優しく包み込む。

数分の沈黙の後、彼女は懐から小さな鏡を取り出し、自分の姿を確認した。先ほどまで滑らかだった頭に、細かな黒い毛がいくつか生えていた。彼女の目には光が宿り、手でそっと新しい髪の毛を撫でると、涙がこぼれた。

「ありがとう」と感謝の言葉をつぶやいた。

しかし、新しく生えた髪の毛は次第に透明になり、やがて消えてしまった。

彼女はしばらく座り込んだまま、消え去った髪の毛を指先で確かめるように頭を撫でた。毛先を探る指が滑らかな頭皮に触れるだけ。鏡をゆっくりと懐に戻し、聖水の泉に映る自分を見つめていた。

砂のように細かい涙が彼女の頬を伝い落ちていった。彼女は深く息を吸い込み、胸の奥で響くような深いため息をついた。彼女はじっと泉を見つめ、失われた希望の欠片を探すようにその表面を探った。

水面に映る自分の姿に目を向け、リリィはそのツルツルの頭を何度も撫でる仕草を繰り返した。彼女の肩は何度も落ち、手は震えていた。その震える手をじっと見つめ、彼女は自分自身の存在を再確認するようにゆっくりと手を握った。

長い時間が経った後、リリィはようやく立ち上がった。彼女の目はもはや泉には向けられず、彼女は自分を再確認し、新たな決意を固めていた。





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