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『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』 記事の思い出 (スズキナオ) その6

朝日新聞「天声人語」でも紹介されるなど話題となり、現在までに5刷と大好評の『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)。

著者・スズキナオさんが、収録の全6章29編についての思い出を語ります。

各章ごとに6日連続公開、最終回の第六章です!
(第5章はこちら)

第6章 私が知らなかったこの町は、こうしていつもここにあった。私がいなかっただけだったのだーー散策

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㉔ 誰も知らないマイ史跡めぐり

ハナイさんに頼りっぱなしだった記事。でも本当に、どんな偉人よりも友達のほうが自分にとっては偉人だと思う。そんな人の生まれ育った場所を一緒に歩くのは面白いのでおすすめ。

「なんかもう少し青春っぽい史跡とかないんですか?」とせっついて案内してもらったのが電話ボックスだった。この電話ボックスから好きな子に電話したことがあるんだという。(274p)

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マイ史跡その7「夜、ボーッとしてた歩道橋」

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マイ史跡その10「好きな子に電話したことがある電話ボックス」


㉕ チャンスがなければ降りないかもしれない駅で降りてみる

『デイリーポータルZ』の企画として取材した。でもその後も何度か「福駅」で降りることになったりして、不思議なものである。

一生降りないかもしれない駅に降り立ってみようと思い、大阪生まれの友達に「どこかよさそうなところありますかね?」と相談してみた。「読み方がわからない駅とかどうですか。『喜連瓜破(きれうりわり)駅』とか、響きが好きで知ってはいるけど実際に降りたことないです。あ、逆に『福』っていうのもインパクトあります。一文字で『福』。ふくって読むんです」と提案してくれた。
〝福〞か……。(277p)

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何度確かめてもただ「福」の1文字

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ここで飲んで帰ろうかな


㉖としまえんに行ったけど入れなかった人のために
㉗ディズニーランドに行ったけど入れなかった人のために

自分としては好きなシリーズ。遊園地の外だって楽しいぞ!と少し反抗的な気持ちになれる。デイリーポータルZに書いた「USJ編」もある。「としまえん」が遠くない未来に閉園すると聞き、またあの辺りを散策したい気がしている。

それにしても、住民全員が昼寝中かのように静かな住宅街を歩いていると、クラクラしてくる。空気を吸い込んでいるうちに、自分の輪郭があいまいになっていくように感じる。
普段見向きもしないようなものが意味深に見えてきたり。物音がやたらと敏感に聞こえたり。よくハードコアなラップのリリックで「なんかの煙を吸い込み、まったりしていい具合だ」みたいなのを見かけるが、住宅街の空気にも同じような効用があるんじゃないだろうか。(291p)
あの日のことを思い返すとみんなでディズニーランドに行ってきたような記憶になっているから不思議だ。一切入園してないのに……。近くをうろついているだけで夢のおすそ分けが受けられるというところにディズニーの威力を垣間見たような小さな旅だった。(299p)

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私には入園する権利がないのだ

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モノレールに乗れるなんて得した気分じゃないか


㉘ 終電を逃したつもりで朝まで歩いてみる

この頃はとにかく歩いた。文章を書こうにも面白いアイデアが浮かばず、「とりあえず歩いたら何か見つかるだろう」と、根拠もなく、他力本願な気持ちで歩くしかなかった。今も成長していない。

夜中の町歩きには何か独特のクセになるムードがある、ということだけをここでは言っておきたい。夜中だから店もやってないし、景色もほとんど楽しめない。疲れるし、肌寒いし。いつまでも覚めない悪夢のようなのだが、妙にテンションが上がって、ふと、全能感が得られるような瞬間が訪れたりする。
あの不思議な高揚感を他の誰かと分かち合えないだろうか。そんな思いがきっかけとなり、終電から始発までただ歩き続ける会を開催してみることにした。(301p・302p)

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魔法がとけてただの朝

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「いい男だな!」と盛り上がる


㉙ 名前のないラーメンを探して

今読むとちょっと上から目線で生意気な感じもする。味音痴なくせに!と。でも、今も変わらずこういうラーメンが好きだ。読んでいて、自分が住んでいた町を「好きだったなー」と思い出す。

と、そんなところにラーメンがきた! 450円の「ラーメン」だ。こちらは具材からしてかなりシンプル。刻みネギ、海苔、メンマ、チャーシュー、いさぎよい。
食べてみる。うおー! なんとも言えない。いや、少なくとも私の基準からして全然マズくはない。なんというか、味がこっちまでやって来ずに交差点の向こうで手を振って、少し微笑んでどこかへ行ってしまったような。追いかけても摑めない味わい。素晴らしい程に素朴。中太の麺はちょうどいいモチモチ感。これはこれで、いいラーメンだ。(313p)

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正統派な町中華という雰囲気の「博雅」

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店先の食品サンプルもいい


(全6回・おわり)

『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』店舗限定購入特典ペーパーのための書き下ろしに、大幅に加筆・修正を加えた。


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