『深夜高速バスに１００回ぐらい乗ってわかったこと』 記事の思い出 （スズキナオ） その５
朝日新聞「天声人語」でも紹介されるなど話題となり、現在までに5刷と大好評の『深夜高速バスに１００回ぐらい乗ってわかったこと』（スタンド・ブックス）。
著者・スズキナオさんが、収録の全6章29編についての思い出を語ります。
各章ごとに6日連続公開、第五章です！
（第4章はこちら）
第5章 この店で過ごす時間は、新型のスマホと違って並べば手に入るものではないのだーー酒
⑲ 大阪の瓶ビールはどこまで安い？
普段はここまでじりじりと値段にこだわって店を選ぶことはないけど、探してみると結構楽しかった。久宝寺のお店、値段を抜きにしても最高だったので再訪したい。
数年前に東京から引っ越してきた私にとって、大阪の酒文化はあまりにショッキングだった。朝の９時10時から開いてる店がやたらあるし、その時間から飲んでいるおじさんも大勢いるし、どんな駅に降り立っても駅前にいい風情の飲み屋が必ず何軒かは見付かるし、そこの２００円ぐらいのおつまみが驚くほどおいしかったりするし……。さらにショックなのが、そんな恵まれた酒文化を大阪の人はいたって平然と享受しているらしい点だ。「なんかおかしい？」と表情ひとつ変えずにグラスのビールをあおる。（232p）
確かに「３００円」と書いてある
探し当てた「満ぞく屋 すいらく」
⑳ 大人の休日、動物園飲み
この記事を書いた頃は、上野動物園の年間パスポートを買うぐらいだからまだ東京に住んでいた。懐かしい。この日は動物園の閉園後も不忍池あたりで遅くまで飲んで、すごく楽しい一日だった。
今回、動物園飲みを経験してわかったのだが、人はほろ酔いになると、激しく動き回ったり、なかなか目の前に現れてくれない動物より、体が大きくてゆっくゴリラ像とミヤマくんのんびり昼寝するゴリラり動くものを見たくなる傾向にあるようだ。ボーッとしているような動物にシンクロしやすくなるのかもしれない。ここから先は専門家の方に委ねたいところだ。（246p・247p）
動物園飲みこそ優雅な大人の楽しみ
これはもうパーティーと言っていいだろう
㉑ 見慣れた風景が違って見える「チェアリング」の楽しみ
ありがたいことにチェアリングについてはその後何度も取材していただいたり、様々な媒体で紹介されたりした。朝日新聞の天声人語でその言葉を見た時は不思議な気持ちがした。ふと思いつきで始めたことだったが、おかげでパリッコさんとのいい思い出がたくさんできた。
究極的に気軽でコンパクトなアウトドアの楽しみ方、それが「チェアリング」だ。「チェアリング」とは、持ち運び用に軽量化された椅子を片手に好きな場所を探し歩き、そこに椅子を置いて腰掛け、のんびり過ごす行為のこと。酒好きな私と、同じくお酒が大好きで酒場ライターをしている盟友・パリッコさんとのふたりで、「野外に椅子を出してお酒を飲んでみよう」と始めたのが最初だった。（248P）
だだっ広い河原はチェアリング向きのスポット
ホームセンターで買った椅子を好きな場所に置くだけ
㉒ 野毛の名酒場「武蔵屋」の最後の姿を見に行く
やっぱり最後だからって慌てていっても遅くて、好きな店には行けるうちに行っておかなきゃいけない。そういう当たり前のことを学んだ。
この問題について、「酒の道徳」という授業が学校にもしあったら絶対にテーマに取り上げてほしいと思う。考えれば考えるほど非常に難しい。まず、「すべての客は平等ではない」ということは絶対ある。この店で過ごす時間は、新型のスマホと違って並べば確実に手に入るものではないのだ。お店の方の努力はもちろんだが、そこにいつもやってくるご常連のおかげでこのお店が今日まで守られてきたのだ。だからお座敷席の大常連の方々は、ゆっくりお店の最後を楽しんで当然なのである。
でも、常連とまではいかずとも、最後にどうしてもお別れをしに来たいお客さんが大勢いるのも確かで…… （256p）
一杯ずつが貴重な酒だと思って大事に飲む
気さくで穏やかなお母さん
㉓ 店選びを自分の父親に完全に任せるハシゴ酒
こうやって改まって父と飲むこともそうそう無いことなので、記念としてやってよかったと思う。父からは「もし本が売れたら俺にも感謝してくれ」と言われている。
特製餃子はニラが効いて、あんがたっぷり詰まった満足感のある一品だ。「これ、酢とコショウだけで食うのがおいしいの」と父は言い、ひと口食べた直後に結局醤油を足していた。どっちだよ！（262p）
「やわらぎ」のママと父のトークを横で聞きつつ飲む
最後の一軒。改めて父と乾杯。
（第６章へつづく）
『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』店舗限定購入特典ペーパーのための書き下ろしに、大幅に加筆・修正を加えた。
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