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DNPの実証実験から見えたリアル店舗で売れるPOPの3要素

空空漠漠(くうくうばくばく)
→ 果てしなく広いさま。また、ぼんやりしたさま。

概念は時代と共に変化するもので、どこまでを含めるかで全く範囲が異なる。

そういう意味では果てしなく広いもので、一方でぼんやりとした考え方ともいえる。

そんな概念の押し付けにも似たものをマーケティングと呼び、ビジネスにおいて試行錯誤をくり返しているわけだ。

そして、昨今の主戦場はSNSを活用したデジタルマーケティングだ。

消費者の思考が検索からレコメンドに変化しつつあることは、幾度も書いている。

とはいえ、消耗品の消費という意味ではリアル店舗での戦いはまだまだ続いているのが現状だ。

どんな手法で売り場をつくっていけばいいのか、企業はテストマーケティングを含めPDCAを行っている。

大日本印刷(DNP)が提供するサービス

マーケティング支援として、大日本印刷(DNP)が提供している、DNPテストマーケティング支援サービスがある。

2021年1月から始まっているこのサービスは、メーカー向けの提供を想定しているサービスで、販売予測やテスト販売の代行、テストセールス活動などを行うものだ。

その機能の1つにAI売上予測システムというのがある。

その名のとおり、AIが売上予測をするというものなのだが、その機能が拡張したという。

POP、つまり店頭販促のデザイン要素などを加味して、商品棚作りのシミュレーションや売り上げ予測ができるようになったのである。

要するに、リアル店舗のつくり方の1つとしての魅せ方をシミュレーションできるのである。

従来のAI売上予測システムは、商品の店頭価格や棚割り(商品が棚に置かれる位置)、店頭販促の有無などによる売り上げの変化をシミュレーションしていた。

そこに、他社商品との競合状況や販促ツールなど、トータルでの施策を加えた際のPI値(Purchase Index値、レジを通過した顧客1000人当たりの購買指数)を予測するものだった。

こうした機能に加え、店頭POPのデザインがどのように販売動向に影響するかをAIが予測する機能が組み込まれたというわけだ。

DNPが行った実証実験

そんなAI売上予測システムの機能追加において実証実験が行われている。

2021年6月から8月末の期間で、ユニリーバのシャンプーやコンディショナーなどのヘアケア商品34品を対象に、DNPの協力先であるハシドラッグ(福島市)で行った。

実証実験を行った店舗は、来店客の性年代比率や売り場面積、ヘアケア商品の品揃えが似ている3店舗を選出した。

実験の方法は次のとおりだ。

まず、背景色やフォントの太さなど、どのようなPOP上の要素の変化があると売り上げに影響があるのか、AIによるシミュレーションにかけ、事前に仮説を立てる。

その仮説を基に既存のPOPに変化を加えたものを実際に店頭へ設置し、その都度POS(販売時点情報管理)データを分析するというものだ。

実証実験から分かったPI値を基に、売り上げに影響を与えるデザイン要素が判明し、またそれらのデザイン要素を加味した売り上げ予測が立つようになったという。

売上に影響する3つのデザイン要素

そして、この実証実験から得られた結果は、売上に影響するデザイン要素が3つあるということだ。

  • ベースカラー

  • フォントの大きさ

  • フォントの太さ

POP(店頭販促)のデザイン要素においては、とりわけこの3つが店頭売り上げに影響するというのである。

ベースカラー

まずは、ベースカーラについてだが、補色が視認性を高めるということがわかった。

例えば、LUXスーパーリッチシャインの既存のPOPデザインは商品パッケージと同系色の金色で展開されていたが、補色関係にある黒色に変更した。

すると、補色を用いることで視認性が高まり、売り上げが上がる傾向が見られたというのである。

フォントの大きさ

フォントの太さ

加えて、フォントサイズと書体を変えることでも売り上げに影響が見られた。

こちらもフォントの大きさや太さによる視認性の変化が、購買行動につながると明確に結果として出たという。

実証実験ではフォントの専有面積を変えた様々なサイズのPOPを用意して、どれが売り上げにつながりやすいのか検証し、サイズごとの最適な比率を導き出した。

具体的には、ダヴのシャンプー、コンディショナーの詰め替えの施策で、POPのベースカラーとフォントの大きさを変更した。

結論からいうと、フォントをただ大きくすればいいというわけではなく、POPの面積ごとに効果的な比率が存在することがわかったのである。

こうした店舗での実験から得られた結果をAIに学習させることで、POPのデザイン要素も加味した売り上げ予測が立つようになったということだ。

AI売上予測システム自体の精度は向上し、2021年にサービスを開始した際は予測精度65%だったが、現状の売り上げ予測の精度は、理論値で85%程度だという。

ちなみに、実証実験では、テレビCMなどをモニターで流す電子POPやブックエンド型のPOPも設置してその効果を測ったが、今回はこれらの売り上げへの相関は確認できなかったそうだ。

販促施策に定量値を導入

DNPは売り場の施策を定量化したものがないため、メーカーが小売店に施策を提案する場で客観的な根拠をなかなか出せないという課題に目をつけた。

棚割りから売り上げを予測するシステムは存在したが、売り場全体を定量的に評価できる仕組みがなかったため、売上予測システム開発への参入を決めたのである。

POPが実際に売り上げに影響を及ぼすのかを定量的に示したものがないことは、ずっと課題であった。

様々な種類やデザインのPOPがあるにも関わらず、POPの有無でしかフラグを立てられていなかった。

そこに定量的に判断できるシステムを構築したという流れである。

定量的の定量とは、物事を数値や数量で表すことができる要素のことだ。

つまり、定量的とは物事を数値や数量に着目して捉えること、数値や数量は共通の概念なので齟齬が生じにくい。

例えば、そのタスクはいつまでにできるかを問われた際に、2日でできるという回答をするといった具合いだ。

対照的に定性的という概念もあることも知っておくといいだろう。

定性とは、物事が数値化できない要素のことなので、定量とは真逆の概念だ。

数値や数量を使わない表現なので、しばしば抽象的になってしまい、認識がそろわない可能性も必然的に高くなる。

例えば、そのタスクはいつまでにできるのかを問われた際に、できるだけはやくやると回答するといった具合いだ。

要するに、今までのPOPによる販促活動は定性的だったというわけだ。

まとめ

データという言葉に惑わされてしまう人が多い。

かくいう私も、IoTデバイスのstakの企画、開発、運営に携わる身なので、データという言葉には敏感になりがちだ。

ただ、以前にも触れたことがあると思うが、データという概念は曖昧にしてはいけない。

とにかく、データを取ってほしいとエンジニアに頼んだときの話だ。

そのデータはなにに使うデータなのかを問われたときに、明確に回答することができなかったときのことだ。

エンジニアにそんなデータはゴミと一緒だといわれ、ハッとしたのである。

そう、データは取るだけでは意味がなく、膨大なデータも活用ができなければゴミと一緒なのだ。

定性的に集めたデータに価値などなく、定量的に集めたデータにのみ価値が宿るということを改めて自分自身にも刻んでおこうと思う。


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植田 振一郎 Twitter

株式会社stakは機能拡張・モジュール型IoTデバイス「stak(すたっく)」の企画開発・販売・運営をしている会社。 そのCEOである植田 振一郎のハッタリと嘘の狭間にある本音を届けます。