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恋人と行きたい、”夏の京都”

旅の思い出

それは
「どこに訪れたか」
という記憶だけでなく、
「そこにいつ、誰と訪れたか」
という記憶との
アンサンブルではないだろうか。 

 ***

大学卒業間際、
お付き合いをした人がいた。

私は東京の大学院に進学、
お相手は地元・兵庫県姫路市で
教員をすることになった。

そんな私たちの初デートは、
互いの夏休みである8月となった。
東京と兵庫西部―
単純な位置関係だけで考えると、
愛知あたりが中間地点となるところだが、
やはりそこは観光名所・京都に行ってみたい、
ということで意見が一致した。

ショートメッセージでやり取りしながら、
デートプランを考えた
…ふりをした。

「歩いてお寺巡りでもしたいね」
という程度のことは話し合ったが、
その実、
遠距離恋愛中の二人にとって、
「会える」という事実以上に
重要な検討事項はなかった。

とにかく、夏の京都が恋しかった。
「来週だね」「明日だね」などと言いながら、
その日がやっと訪れた。
太陽も、カンカン照りで、
私たちを祝福してくれた。

京都駅は、大勢の観光客で埋め尽くされていた。
しかし不思議と、
この世界には二人しか存在しないかのような
そんな錯覚に陥っていた。

今まで友達だった人が、
恋人となった瞬間、
こんなにも同じ空間にいるだけで
ドキドキするなんて…

顔ではそれほど緊張していないふりをしながら、
お互いに初めて手を握り合いながら、
やっぱりものすごく緊張しながら、
私たちは初デートをスタートさせた。

京都駅から徒歩で北へ数分。
京都タワーを過ぎてしばらくしたところで、
最初のお寺が見えてきた。

満面の笑みで
「そうそう、こういうお寺だよね、
 イメージしていたのは」と語る…
はずだった。

しかし、もはやそんな余裕は無かった。
どちらからともなく、口を開いた。

「・・・暑くない?」

そう、めちゃくちゃ暑いのだ。
サウナというより、ビニールハウス。
暑さがずっと、じっと隣にいる感覚。

聞いてない。

太陽の祝福も、もう要らない。
お寺の影に入る。少しはやわらぐ。
でも、暑い…

もはや先人も、
この暑さが耐えられず、
京都に複数のお寺を作ったのではないだろうか…

二人して顔を赤らめた。
もはや緊張なのか暑さなのか分からなかった。
とでも言いたいところだが、
こればかりは分かった。

暑さだ。
紛れもなく暑さで赤くなっていた。
せっかく握り合った手も、
お互い諸事情を察し合い、
そっと離した…

とはいえ、せっかくの初デート。
プランどおり、もう一つのお寺まで足を伸ばした。

が、そこでギブアップ。
タクシーで京都駅まで戻り、
ちょうど良くエアコンの効いたカフェで、
予想以上に暑かったことについて、
大盛り上がりした。

その人とはその後、
1年ほどでほろ苦い別れ方をした。
今は連絡も取り合っていないし、
今会ったところで上手く話せる自信もない。

だけど、
もしいつかその人と再会することがあったなら、
夏の京都が想像以上に暑かったことだけは、
笑って話せる気がする。

あの日の京都の猛烈な暑さは、
二人の絆を強く
…はしてくれなかったが、
二人の思い出を色濃いものにはしてくれた。

大切な誰かと、
忘れられない旅の思い出を作りたい―
そんなあなたに心から、
〝夏の京都〟をおすすめしたい。
(ハンカチと、飲み物だけは忘れずに…)

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