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実例から学ぶ自閉症児パニックへの対応

私は「コミュニケーションの発達に課題がある」「子ども」を支援する言語聴覚士という仕事をしている。仕事で接する頻度が高いのが「自閉症スペクトラム症」の子どもたち。

先日、彼らが通う児童発達支援事業所へ外部専門職相談で伺った際、こんな場面に出くわした。

ある事業所のフリータイムの時間。
「わーーーー!!」
と誰もが振り返る大声で泣き続け、部屋中を走り回る自閉症スペクトラムをもつ男児がいた。

周囲のスタッフに状況を確認すると、彼はお友達とおもちゃを取りあった末、お友達をつき倒してしまった。そして先生からお叱りをうけその後泣きわめいて止まらない、とのこと。

集団療育の中では珍しくない光景だ。
ただし!注目すべきはその後。
彼は一向に泣き止まず、むしろ泣き声はどんどん大きくなっていったのだ。ただのグスン!いじいじ!という泣きのレベルではない。耳を塞ぎたくなる爆音で泣き続けている。

ふと彼の周りを見ると、先生の1人が彼に根気強強く話しかけている。
『◯◯ちゃんを倒してしまったことを謝ろう!!』

先生の気持ち、わかる〜!!
集団を監督する者として、こどもの成長を願う大人として、先生の働きかけは間違っていなかった。

ただ、これが中等度に支援が必要な自閉症スペクトラム児が相手だったので、励まし方やタイミングが逆効果でもったいない、とかんじた。

そして、これ以上泣き続けるとその子自身もしんどい上に、周りの子にも危害が及びかねない状況だったので、とても迷ったが間に入らせてもらい助言させてもらった。

『先生の気持ちはとてもよくわかる。でも今はパニックを起こしているから、怒られても逆効果かもしれない。一旦落ち着くまで放っておきましょう。』

しばらく放っておくと、そのうち泣きはおさまった。そして落ち着いたタイミングで、先ほどお友達を倒してしまった行為について、先生と一緒に謝ることができていた。

実はここで起きたことは、自閉症スペクトラム児と関わる上で珍しいことではない。彼らの特性を知ると大人の対応を考えやすいと思っている。

***

一般的に、自閉症スペクトラム児は定型発達児にくらべパニックを起こしやすいと言われている。感覚が過敏で疲れやすかったり、行動パターンの崩れで混乱しやすいことなどが起因してしまう。

パニックは、何も泣きわめくことだけが症状ではなく
・じーっと石のように固まっている
・自傷行為をしている
・人を叩いたり噛んだり攻撃している(ようにみえる)

なども実はパニック症状ということもある。

自閉傾向のない人が心が乱れた時、自分をメタ認知した上で「これは私のせいじゃないし、仕方がない」「そんなに落ち込まなくても、またいいことあるよ」と客観的に自分を励ますことで落ち着こうとする。

自閉症のある人たちは、いわゆるこのような機能が弱く、心の乱れが予想以上に拡大してしまうことがあるのだ。

そして大切なポイントは

パニックの時には、何にも頭に入ってこない

ということ。
自閉症じゃなかったとしても、例えば気が気じゃないことが頭を巡ってる時に「ところでさ、今朝の出来事だけど?」なんて言われても耳に入ってこないだろう。それが、彼らは定型発達の人よりも起こりやすい状態にある。

ではパニックを起こしてしまった自閉症児に対し、大人はどの対応したらよいのか?

基本的には「おちつくのを待つ」

そして、落ち着きかたには様々な種類があり、その子にとってはどのような方法がよいか知っておくことは大切だ。

・放っておく(自分や他人を傷つけないようにだけ配慮する)
・部屋を移動する(みえる景色をかえる)
・冷たいお水を飲ませる
・生理的な欲求をみたす(食欲、睡眠欲、のどのかわきがパニックの要因になることも)
・ぎゅーっと抱っこする(体が小さくてホールドできる場合)

などだ。
どうすればその子が落ち着くかは子どもによるが、幼児期から自分の心の落ち着かせ方をこども自身で学習したり(自分や他人が傷つかない方法で)、大人が対応方法を知っておくことは重要だと考える。

小学生・中学生と身体が大きくなって、パニックが自分や人に危害を加えては、その子自身が損をすることが増えるからだ。

パニックの見極めや大人の対応を一貫するというのは簡単なことではない。個体差があることをかならず念頭においた上で、子どもの行動様式をじっくり観察しての対応が必要だと思っている。

難しさはあるものの、子どもの未来を見据えて、どの現場でもチームでパニックへの対応を考えていきたいと思う事例であった。


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