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447 75歳以上の葬祭費

75歳になると後期高齢者医療制度に加入することになっている。若い世代とは別建ての保険システムになっているのは、これ以後の歳になると病気がちになるので、その医療費の保障を全年代の相互連帯で確保しようとしたためだ。ただし健康状態は人さまざま。75歳、85歳、95歳…になっても病気一つしない人もいる。
そういう人にとっては、後期高齢者医療制度を年金制度と合体して、病気の人には医療費の支給を、そして健康な人には年金の増額を希望するのではないか。

ところで後期高齢者医療制度において、加入者のすべてに一律均等に支給されるものが一つある。それが葬祭費だ。
高齢者の医療の確保に関する法律86条では「被保険者の死亡に関しては、条例の定めるところにより、葬祭費の支給又は葬祭の給付を行うものとする」とする。すべての保険者自治体で給付しているはずだ。わが江東区のHPでは、「後期高齢者医療制度に加入していた方が亡くなられた場合、葬儀を執り行った喪主に対して、7万円が支給されます」とある。人は必ず死ぬ。そして死ぬのは一度きり。よって加入者全員について7万円支給が予定される。「全員支給では保険とは言えない」との疑問がないではないが、加入者と家族にとってはありがたい給付ということなのだろう。
入り用の実費補填という保険の原理に照らせば、喪主が葬祭費を支払うことが給付の前提になる。それを証明する手段として「会葬礼状」(喪主がだれかが分かる)や「葬儀費用領収書」(喪主の支払額が分かる)を提出することを求めている。
葬祭費の支給|江東区 (koto.lg.jp)

気になるのが手続きだ。葬儀社に丸投げ依頼する従来型の葬儀であれば、葬儀社が「会葬礼状」を印刷し、費用一式を合算処理したうえで「葬儀費用領収書」を発行するだろう。葬儀は華美を排して実質化し、家族葬、さらに直葬(告別の儀式を火葬場の炉前で行う)への小規模化の傾向にある。この場合、喪主の手続きを代行する葬儀業者の介在は必然ではなくなるであろう。
老人施設や病院からの遺体の搬送、祭壇等のレンタル、棺や骨壺等購入、僧侶の読経や戒名の交渉、親族等への通知状作成など、すべてを喪主自身が手配することになる。費用を支払い、その領収証を保管整理しなければならない。
これら一連の段取りのうち、絶対に省略できないのが火葬である。これだけは省けない。ならば思い切って、通夜も告別式も一切合切、葬儀の一連の段取りを火葬場で仕切ることにしてはどうか。市民の側でも同様の希望があるようで、火葬場に「家族の葬式をアレンジしてもらえないか」との電話があるという(鵜飼秀徳『宗葬社会』(日経P社、2016年)13頁など)。火葬場では「お棺やお花、霊柩車の手配などは行っていない」と丁重にことわるようだが、相手が望むのを無碍(むげ)に断るのは思いやりが足りないと思う。火葬場はどのみち火葬場は料金を受け取る。それに付加サービスを付け加えれば、火葬場の経営改善にもなる。喪主としても窓口がまとまって大いに助かる。Win-Winであろう。

わが江東区民が大いにお世話になる都営の瑞江葬儀所では、火葬料金59,800円。これに加え火葬までの遺体の保管1日8,140円、骨壺販売7,800円、控室貸出1室10,200円のほか、売店での軽食販売なども既に行っている。そのために火葬場に現金出納員も配置しているとのことだ。
ならばもう少し間口を広げ、棺の販売、遺体搬送(専用車を用意しても稼働率から短期間で回収できそうだ)、告別式の実施(部屋は十分ある)、祭壇等祭具の貸し出し、前後の会食、読経(どきょう)指導なども併せて火葬場事業として行えばいいのではないかと思える。
さらに墓地の手配、墓石の購入、その後の回忌法要手配などの便宜も希望者対象に行っていいのではないか。

江東区の後期高齢者葬祭費は7万円支給である。出産時に健康保険から支給される出産育児一金は42万円だが、これは産科の請求額の平均値だそうだ。出産時の42万円と死亡時に7万円では、落差が大きすぎる。葬祭費を出産育児一時金の半額21万円に引き上げれば、切り詰めた葬儀では総費用のかなりを賄えることになる。
1件14万円の給付増だが、全国規模での年間の75歳以上死亡者をざっと百万人として、給付増分は1,400億円。年間130兆円の社会保障給付費を0.11%押し上げるが、この程度は医療費適正の誤差領域。社会保障制度への期待感、安心感との関連で検討素材になると考える。

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