即興小説「かちかち無駄死に」
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即興小説「かちかち無駄死に」

しきさい
お題:騙されたババァ 制限時間:15分


「ババァ騙された!」
「ババァ騙された!」

 子狸たち、喜び舞い踊る。鍋の周り、ぴょんぴょんと跳ねる。

「おいしく煮てやる!」
「骨まで残さず!」
「綺麗に食べてやる!」

 それを聞いた老婆、鍋の底で歔欷。

「せめてあのひとにひとくち」

 いつときでも、あなたのいちぶになれたら!

 鍋は煮立つ。泡踊る。夕暮れ時だ、晩飯時だ。
 "あのひと"は夕餉を楽しみに帰路についている頃で。

「なーんにもあげないよ!」
 子狸たち、キャラキャラと嗤う。
「ぼくたちになるの」
「ババァぼくたちになる!」

 嘆願の声は怨嗟の色を帯びゆく。
「ならばおまえたちのはらからくいやぶってでていこう」
 鍋の底からボコリと最期の泡。

 そのやりとりを黙ってみていた兎が、熱持つ鉄鍋を蹴り倒した。
「なにするの!」
 子狸たちがワァワァ声を立てる。兎は囲炉裏に消えたババァ汁を眺めて云うのだ。
「彼女はなんにもならない方が幸せだろうよ!」

 子狸たちはワァワァと色めき立つ。

「ババァ無駄死にだ!」

「ババァ無駄死にだ!」

「ババァ無駄死にだ!!」



 誰も夕餉にありつけぬ。


(おわり)


お題・即興小説トレーニングより

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しきさい
現実と地続きのローファンタジーが好きです、ハッピーエンドが好きだけどバッドエンドもよく書きます