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小匙の書室275 ─全員犯人、だけど被害者、しかも探偵─

 とある廃墟に集められた男女7人。彼らの過去には、社長室で起きた社長死亡事件が絡んでいた。
 いったい誰が犯人なのか?
 密室ではじまるのは、“自供合戦”だった──。


 〜はじまりに〜

 下村敦史 著
 全員犯人、だけど被害者、しかも探偵

 発売告知を目にしたとき、「あ、絶対に面白い」と思った作品。

 全員が犯人で、だけど被害者で、しかも探偵?

 これら三つは基本的に相容れない立場であり、一人が三役も担うというのは聞いたことがない。
 これだけでももう興味心をくすぐられるというのに、『多重推理しかも密室しかもデスゲームだけど』なんてコピーが付いているとあっては、読み逃すわけにはいかないじゃないですか!!

 で、いざ書店で作品をみかけたとき、装幀の面白さにも目を惹かれました
 表紙の中央、グレーに塗られた四角があるけれど、なんと見る角度によって色味が変わるのです。これはタイトルがそうであるように──場合によって立場が変わることを示しているのでしょう。
 こうした装幀にもこだわった小説が刊行されるから、私は紙書籍で買うことをやめられないのです(無論、電子書籍に移りたいと思っているわけではありませんが)。

 ──さて。読む前から期待値が高くなっているのですが、どんな風にして応えてくれるのでしょう。

 ワクワクしながらページを捲っていきました。

ぺらり

 〜感想のまとめ〜

 ◯開幕早々、登場する七人の男女の間で『SHIKAGAWA社』にまつわる問題に絡むギスギスした空気が漂っており、どの人物も(程度の差はあれど)イヤ〜な性格をしている
 社に対して保守的な者、不正を暴いた裏切り者、下っ端、被害者遺族、ライター。
 彼らがどんな未曾有の事態に陥るのか、と思った矢先に出された姿の見えぬ犯人からの“ある要求”に、瞠目した。

 ◯かつて起きた事件。果たして、誰が犯人なのか? 普段のミステリなら(倒叙ものを除いて)たった一人の犯人を探すことが醍醐味で、本作もその流れを汲んではいるのだが、犯人特定の意味合いが違うのだ。
 なぜ、関係者全員が、「自分が犯人だ」と公言するのか。それはぜひ(あらすじに書いてはあるのだが、それは読まない方が驚けるかも)本編をお読みいただきたい。

 ◯密室空間で交わされる推理。ゲームマスターによる支配。漏れ出すガス。物語の緩急が良くてどんどん読み進めていきたくなるのだ。
 視点人物の中には序盤から怪しい行動や隠された内情を示す者もいて、話の流れが一筋縄ではいかないのだと気付かされる。
 集められた男女が次々に披露する自白合戦。多重推理と呼べる本当の犯人を探すための論駁が、とにかく面白い。

 ◯多重推理もののミステリという皮を被った、ひとつの真実にこだわって周りが見えなくなることへの啓蒙、が本作のメッセージの一面なのかもしれない。
 人は自らの過ちに気付いたとき、正しく振る舞えるのだろうか?
 自分の中で芽生える疑惑の取り扱いを、痛烈に学ぶことができる。

 ◯犯人探しがフェーズ2に移ると、ミステリ色がぐっと強くなる。
 そこには多重推理と呼ぶよりは、いかにして目的達成のための辻褄合わせができるか』に焦点があたっており、なんとかして推論をこねくり回す様が滑稽だった。
 そこにも、(あくまで個人的な感想ですが)先述したような啓蒙と現代社会への批判が込められているように感じた

 ◯はたして、誰が社長を殺害した犯人なのか、誰が本当の被害者なのか、誰が真の探偵たるのか? 一聴すると矛盾したタイトルではあるが、読んでみれば、「なるほど筋の通った秀逸さに富んでいる」と驚いた。
 最後の最後まで翻弄されっぱなし。真実の回りくどさに混乱する部分はあるけれど、ふんだんに盛り込まれたミステリにおけるサプライズやエンターテイメントがとにかく良い


 〜おわりに〜

 最後まで一気読みでした!
 ミステリとして楽しめることはもちろん、現代への警告を放つ側面もあって、色んな意味で一筋縄ではない作品でした。

 誰しもが、犯人にも被害者にも探偵にもなれるのです。

 ここまでお読みくださりありがとうございました📚

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