一生かかっても追いつけない友人の話

わたしには一生かかっても、到底追いつけないと思う友人がいる。

彼女は誰もが認める天才。

地元の神童なんてものではなく、彼女は正真正銘の天才に違いなかった。

ジャンルを問わず異常な数の本を読み、目をキラキラさせて虫を追いかけ、アニメを夜な夜な見漁り、全国模試で平然と上位にくい込んでしまうような、そういう天才だ。


今日のわたしが小説を好んで読むようになったのは、確実に彼女の影響である。

小学生のとき、面白いから読んでみて、と彼女がわたしに勧めてきたのが『図書館戦争』だった。

今思えば、あれは彼女の策略だったのだろう。

わたしは見事に『図書館戦争』にハマり、その後も彼女が面白いから、と貸し与えてくれるものをひたすら読み続けた。

その中に、『十二国記』シリーズや『NO.6』が含まれていた。

そのうち、わたしは自分でも本を探すようになり、毎日のように、彼女とオススメの本や作家について話すようになった。

彼女は小説を布教するだけでは飽き足らず、次第に漫画もたくさん貸してくれるようになった。

わたしの家は漫画を読むことが禁止されていたから、親に隠れてこっそり、持ち帰った『鋼の錬金術師』や『暗殺教室』を読んだ。

彼女の選書のセンスは抜群だった。

貸してもらった本や漫画がその後、続々とアニメ化や実写化を果たしていていくのを見て、何度も目を丸くした。

彼女はピンポイントで流行を先取りしていたのだ。


十数年の付き合いの中で、わたしは何度か彼女の家に遊びに行ったことがある。

彼女の部屋には、やけにタンスが多かった。

「服たくさん持ってるんだね」

わたしがそう言うと、彼女はキョトンとして、わたしを見た。

わたしは何か変なことを言ってしまったのかと不安になった。

すると、彼女はすぐに納得したような表情を浮かべて、タンスの引き出しを開けた。

わたしが引き出しを覗き込むと、そこには、星新一のショートショートがずらりと並んでいた。

おそらく全部で二十冊はゆうにあったと思う。

話を聴けば、シリーズモノはついつい全巻集めてしまうのだという。

背表紙が見えるよう、横向きに置かれた本が引き出しいっぱいに詰まっていて、わたしは、とてもとても驚いた。

四段のタンスの引き出しの中身は全て本で、同様のものが他に二つあった。

全ての引き出しを開けてもらうと、中は彼女が読んでいるところを見たことのある本ばかりで、わたしは彼女がこれを全て読んだと思うと目眩がした。

同時に羨ましいとも思った。


前述の通り、彼女はとても頭が良かったから、今は地元を出て、都会の学校に通っている。

頻繁に会うことがなくなった今、わたしは、小学生の彼女が読んでいた本をよく買うようになった。

『向日葵の咲かない夏』、『氷菓』、『新世界より』、これら全てを彼女は小学生の頃に読んでいた。

読み終わった後、動悸が止まらなかった。

その本が面白かったことに、残酷だったことに、そして、きっと彼女が完全に内容を理解していただろうことに、わたしは震えた。

これを面白いと言った彼女の目には、世界はどう映っていたのだろう?

そんなことを考えると、たまらなく彼女が恐ろしく思えた。


わたしは彼女を友人だと思っている。

出会って以来、毎年必ず年賀状を送り合うし、ここ数年は、年に一度は会って話をする。

それでも、わたしは彼女の友人なんだろうかと疑問に思ってしまう。

彼女は今までわたしが出会った誰よりも、特別で、畏怖すべき存在だった。

一方でわたしは、彼女の友人でいいのか、と思うような凡庸さ。

何度も劣等感を感じてきたのに、そのくせ、一緒にいると楽しいと思わせてしまうような彼女にとって、わたしが価値ある人間になれる日はくるんだろうか。







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